為替介入の限界

22日、政府・日銀が約24年3カ月ぶりに円買い・ドル売り介入を行いました。一時的に5円幅で円高が進みましたが、9月29日時点では1ドル=144円台までドル高・円安が進んでいます。はたして、この為替介入には効果が期待できるのでしょうか。


珍しい円買い介入の実施

円買い・ドル売り介入の結果、1ドル=145円台後半まで進んでいたドル高が止まり、1ド=140円台前半まで押し戻されました。

日本が円買い介入を実施するのは、極めて稀です。過去、輸出主導型の経済で発展を遂げてきた日本は、円高に対するアレルギーが非常に強く、これまで政府・日銀によって行われてきた為替介入は、円高を阻止するための円売り・ドル買い介入が大半を占めてきました。

財務省のデータによると、1991年から直近までの31年間で、円高誘導を目的とした円買い介入が断続的に実勢されたのは、1991年5月~1992年8月までに行われた7871億円の円買いと、1997年12月~1998年6月までに行われた4兆1061億円の円買いだけです。あとは基本的にドル買い・円売り介入でした。それだけドル売り・円買い介入が行われるのは珍しいことなのです。

円買い介入が行われた理由

なぜ、その珍しいドル売り・円買い介入が行われたのでしょうか。それは世界的なインフレを警戒したからだと思われます。

8月の消費者物価指数の前年同月比は、総合で3.0%の上昇。生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数で1.6%の上昇となりました。とはいえ、8月の国内企業物価指数は、前年同月比で9.0%の上昇です。特に輸入物価指数の上昇率が非常に高く、円ベースでは42.5%、契約通貨ベースでも21.7%の上昇となりました。

企業が製品をつくり出すためには、原材料、部材などを調達しなければなりません。この際のモノの値段を示すのが企業物価指数であり、出来上がった製品やサービスが消費者の手元に届く際の値段を示すのが、消費者物価指数です。

前述したように、8月の企業物価指数が前年同月比で9.0%の上昇であるのに対し、同月の消費者物価指数は3.0%の上昇に止まりました。これは、企業が利益を削り、小売価格への転嫁を最小限に抑えていることを示しています。

しかし、輸入物価指数を見ると、契約通貨ベースの上昇率が21.7%であるのに対し、円ベースだと42.5%もの上昇率になっています。両者にこれだけの差があるのは、ひとえに円安の影響です。

このまま円安が加速して輸入物価指数の円ベースがさらに上昇すると、早晩にも企業物価指数はもう一段上昇し、耐えられなくなった企業が小売価格を引き上げ、消費者物価指数のさらなる上昇につながる恐れが高まってきました。これをできる限り抑え込むため、約24年3カ月ぶりのドル売り・円買い介入が行われたのです。

期待できない協調介入

問題は、このドル売り・円買い介入がどれほどの効果を持つのかということです。

過去、日本の円買い介入が成功した代表例に、1985年のプラザ合意があります。当時、双子の赤字に悩んでいた米国で反日ムードが強まったことから、政府・日銀はドル高是正を目標にしたドル売り介入を行いました。

ドル売り介入すれば、必然的に円買い介入したのと同じことになります。これによって、プラザ合意前は1ドル=240円前後だったドル/円レートが、1988年には1ドル=120円台になったのです。

なぜ、ここまでプラザ合意における円買い介入が成功したのかというと、まず米国がドル安を望んでいたことが大きいと考えられます。それに加えて、プラザ合意後の為替介入は、日本だけでなくイギリスや当時の西ドイツ、フランスといった、プラザ合意を受け入れた各国による協調介入だったことも、成功の要因として挙げられます。

では、今回のドル売り・円買い介入はどうでしょうか。

まず米国政府がドル安を望むのかというと、それはないと思われます。なぜならドル安は米国にとってインフレ要因であり、そのインフレの火種を消すために、FRBが必死になって金融引き締め政策を行っているからです。それは他の国も同様です。つまり今回のドル売り・円買い介入において、他国との協調介入は期待できず、日本政府・日銀による単独介入にならざるを得ないため、介入効果も限られると思われます。

自国通貨買い介入には限界がある

もうひとつ大きな問題があります。それは、自国通貨買い介入は基本的に不利だということです。

自国通貨である円を買う介入を行う場合は、政府が手持ちのドルを売って、円を買う流れになります。そして、このオペレーションを実施するために必要なドル資金は、円売り介入で外貨準備に蓄積されたドル資金が用いられます。

2022年8月現在、日本の外貨準備高は1兆2920億7200万ドルあります。1ドル=145円で計算すると、約187兆3400億円です。確かに、一個人ベースで考えればとてつもなく巨額な資金ですが、どれだけ頑張ったとしても、約187兆3400億円以上のドルを売ることは出来ないのです。つまり自国通貨買い介入は、どこかで限界を迎えます。

そこを投機筋に見透かされると、円買い介入によって一時的に円安に歯止めがかかったかのように見えますが、再び円安が走り出す可能性は十分に考えられます。今後、2度目、3度目の円買い介入が行われるかどうかは定かでありませんが、それが仮にあったとして、一時的に円高が進んだら、短期の円安を狙ってFXの取引をする人たちにとっては、絶好のドル買いのチャンスかも知れません。

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