伝説の「人魚姫」舞台が52年ぶり再現 歌姫と新劇の重鎮がW主演、角川春樹氏の元妻がプロデュース

半世紀前まで東京・赤坂にあった伝説のクラブ「スペース・カプセル」で披露された「人魚姫」の歌物語が52年ぶりに復活する。「人魚姫~Fifty years later~」と題し、人魚姫役のフラワー・メグ、王子を演じる新劇界の重鎮で劇団NLT代表の川端槇二によるダブル主演で21、22の両日、東京・東高円寺のライブハウス「ロサンゼルスクラブ」で上演される。当時と同キャストとなる2人に話を聞いた。(文中敬称略)

スペース・カプセルは1968年10月にオープンし、72年頃まで営業。宇宙船をイメージした内装を建築家・黒川紀章が手掛け、ブレーンとして作家の石原慎太郎、詩人の谷川俊太郎、劇作家で劇団「天井桟敷」主宰の寺山修司が名を連ねた。アンデルセン童話をモチーフにした「人魚姫」は70年に上演され、今回は52年ぶりの再演となる。当時のメグは劇中でヌードになり、ストロボが点滅される中、暗闇に美しい裸体が浮き上がったという。

演出も担当する川端は「人魚が人間になった時は生まれたままの姿。衣装を着けてぼやかしたりせず、その時のメグにはリアリティーがあった。70年の公演は5月頃で、その年にお亡くなりになった三島由紀夫先生(11月に自決)も見に来られていたと思います。当時のメグは19歳で、僕は22歳。その後、(新劇の)舞台に戻って彼女と住む世界は違ったけど、14-15年前から縁あって連絡を取り合うようになり、人魚姫と王子様が50年後に再会したらどんな話になるか…という今回の企画になりました」と経緯を説明した。

メグは71年4月開始のNETテレビ(現テレビ朝日)「23時ショー」でカバーガールに抜てきされて芸能界入り。レコードデビューを果たし、映画やテレビ、雑誌のグラビアなどで注目されたが、活動期間1年で人魚のように姿を消した。20歳で結婚して2男1女を育てた後、15年ほど前から活動を再開している。

「主婦になって3人の子どもの命を預かった頃のことを思うと、まさか、こんな日が来るとは想像もしていなかったですが、後になって『あの時やっとけばよかった…』と後悔するのが嫌で、ぜひ、この企画をやりたかった。川端さんのように、一つのことをずっとなさっている方を私は尊敬しています。おんぶにダッコです」。パティシエの長男・山名範士氏が東京・自由が丘に洋菓子店「MONT-NOM(モンノム)」を今年9月に開店するなど、それぞれの道を歩いている。メグは「子どもたちはみんな応援してくれています」と母の顔に戻った。

実年齢では共に古希を超えた人魚姫と王子様。半世紀前と同じスタイルとはいかないが、年を重ねた2人にしかできない舞台に意気込む。川端は「僕も今さら白タイツは履けないけど(笑)、メグはピュアなまま、魂は52年たっても変わっていない」、メグは「川端さんもお変わりないです」とエールを交換。その内容について、川端は「70年代の歌をピックアップしてストーリーにはめてドラマ展開させている。メグの存在が人魚姫とイコールになっています」と説明し、メグは「スペース・カプセルの頃からお世話になった谷川俊太郎さんの詩に曲をつけた4曲を光栄にも歌わせていただきます」と予告した。

企画した角川清子プロデューサーは「1970年代、それは私たちが未来に向かって頑張っている時代でした。コロナ禍で鬱々としている現代、昭和の良き時代から令和まで生き延びた50年後のお二人に私自身がワクワクしている」と語る。ちなみに、同氏は70年代以降、時代の寵児(ちょうじ)となった角川春樹の元妻で、自身も演劇の道を志したことがある。「今回はコメディータッチ。かつてを思い出し、楽しんでいただける舞台になれば」と期待を込めた。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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