『社会とつながっていたい』『私はまだ頑張れる』乳がん患者のリアル 両側乳がんになりました168

『ああ、きちゃった』

今、日本に住む女性の9人にひとりが乳がんと診断される。その9人にひとりが私だった。

2019年の春、がんと診断された瞬間は意外と冷静だった。しかしここから治療・人との関係、そして生き方に悩み、選び続けることになるとは思いませんでした。テレビ局に勤め、長い間、乳がん患者さんと接し、取材を続けてきた私ですらこんな状況。何の知識も経験もない人が突然ある日がんと診断されたら・・・。冷静に受け止められる人は少ないと思う。

現役世代、働くがん患者の多くは女性だ。ただでさえ、ジェンダーギャップなどにより、社会で生きていくことが厳しい人たちも多く、がんをり患することによってさらに悩みが深くなっている人も。

がんにまつわる社会の諸問題は広く、そして根深い。個々の問題は人それぞれなので解決は難しいのだが、共通した思いが。

「がん患者は生きづらい」

メディアにいる人として何ができていたのか。本当にこの言葉の意味を理解していたのかと自問自答をする日々が続いています。そんな中一番私が必要としていたのは『がんと診断されたあとどうすればいいのか』。こんなにたくさん選ぶことがあるのにその『ジャッジ』するための材料も『チョイス』するための材料もない。それをリアルに感じてもらい、あらかじめ備えてもらうために、『ドキュメンタリー』を作り、今回『本』を書いたのです。

(※おっぱい2つとってみた がんと生きる、働く、伝える・北海道新聞社刊)

江別蔦屋書店で行った出版記念のトークにはたくさんの方にご来場いただき、ありがとうございました。全国の患者さんから啓発活動に使っているものが届き、お配りできました。

ご来場いただいたのは患者さんだけでなく、患者さんのご家族もお越しでした。まだ手術前で告知されたばかりの方も。一言一言を受け取っていただいていて、時折、きっと思い出しているのだろうと思いますが涙されている方も。でもその涙が次の一歩につながるのではないかと私は思います。

本の感想をいただきました

42歳女性『先日発売された本、昨日のYouTube生配信みました。阿久津さんの言葉の一つ、一つが心に突き刺さり、涙しました。癌になり誰もが同じ心境なんだとも、痛感しました。私は医師から告知された時は、なぜだか涙を流すことはなく、気丈にふるまっていただけなのかもしれません。ただ、抗がん剤治療で、髪が抜けたときにお風呂で声をあけで泣いてしまいました。その時に、「もう嫌だ、」と言った時に「俺も辛いし、泣きたくなる。けど頑張ろう」と夫が言った一言で、家族も一緒に戦ってくれているんだ、自分だけが辛いではないと気が付かせてくれた。その後、抗がん剤治療を続け、先日、手術を終えました。そして、生配信の中での「社会とつながっていたい」「私はまだ頑張れる」という二つの言葉は今の私の現状を表すもの。基本、休職扱いではありますが、「気分のいい時に顔出してね」と同僚がかけてくれたので、程よく気晴らしができているのです。本はまだ全て読みおえてませんが、本当に元気の源を頂いています。』

ありがとうございます。御覧いただいたYouTubeはこちら、です。

https://youtu.be/k8hXLcGOisg

ひとりじゃないよ、ということ。そして乳がんはひとつじゃないよ、ということ。人それぞれお悩みもつまづきも異なります。でもひとつひとつに何か解決策はあると思う。そのためにタッチできる、正しい知識と正しい頼れる先を広めていければと思うのです。

本にはQRコードがたくさんついています。正しい知識へのリンク、私を含めた患者さんの声へのリンクです。時間があるときに診てもらうことで知識を得てほしい。やはり圧倒的にどういう風にチョイスをするかの情報が世の中には足りていないのです。メディアの責任も感じています。お涙頂戴のほうが数字も取れるし、感動も呼べる。でもそれではメッセージは伝わっても、知識や情報は伝わりづらい。だからこそ、今回は必要としている人に届いて欲しい、と思うのです。私のひとつの例に過ぎないけれど、情報は怖いものではない、です。つながることがその後の一歩を軽くすると思うのです。

16日に向かったのは音更町。ご縁がつながって、ようやくお邪魔することができました。今言われているのは『高濃度乳房』。十勝管内のリアルな状況を聞いて、改めてマンモグラフィが向かない方は一定層いて、さらには検診率が低いことで、腫瘍が大きい状態で見つかる方がやはり多い、という現実に大きな問題を感じています。自分の胸に関心を持っていただくこと、そして自分にあった検診をちゃんと事実としてお医者さまに確認する、これを未病の方には知識としてもっていただければと思います。

そして、患者さんへの理解、です。過剰な心配、『配慮という名の排除』はいりませんが、ちょっとは心配してほしい。できないと決めつけるのではなく、できるかどうかを聞いてほしい。42歳女性のご職場のように、気分のいいときに来てね、というのはなんと素敵な言葉でしょうか。お互いさま、自分ごとにされている証拠でもあります。

10日には矢方美紀さんと新さっぽろでお話ししました。彼女の『今あるいのちを大切に過ごして、後悔のないように生きていこうと思っている』という言葉が印象に残りました。5年がたち、普段の生活や新しくチャレンジしたいことも出てきて、乳がんは生活の一部になり、すべてではない、ということに気づいたそうです。だからこそ、一日一日を大切に。やりたいことにチャレンジして、そして次のステップへ歩もうとする矢方美紀さんに力をまたもらいました。

私もやらねばなりません。自分自身が気づいてしまった困りごとを少しでも解決策とともにお届けして、次の人の一歩を軽くしたい、そう思うのです。

21日には新ひだか町でお話しします。オンライン配信もあるそうで、リモートで町役場で御覧になる市町村や、高校生も。次の誰かのためになることを願って。

https://hokkaido-taigan.jp/douminntaikai-52nd-shinhidaka/

阿久津友紀(おっぱい2つとってみた がんと生きる、働く、伝える 著者)

おっぱい2つとってみた がんと生きる、働く、伝える

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