怒髪天のドハツの日公演、今年も無事終了! すべてがチャラになっても諦めない、へこたれない、何度でも立ち上がる!

誰が言ったか知らないが、10月20日はドハツの日。ここ10年ほど怒髪天は毎回特別なワンマンライブを行なってきた。今年の会場は鶯谷ダンスホール新世紀。彼らにとっても初めての会場である。

ステージに赤と金のドレープカーテン。天井には天の川のようなライト。壁の一面が鏡張りなので前日公演は音の反響が悪かったそうだが、この日はリハ時間を早めて音の鳴りを徹底改善したという。万全のコンディションまで持っていき、フロアの巨大ミラーボールを回すところからのスタートだ。 「よく来たぁ!」。開口一番、増子直純が口にするセリフだが、景気のいいオープニング数曲が終わるまでに同じセリフが4回も出ていたのは、数日前に『新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン』が改訂されたことも大きいだろう。条件付きとはいえ、声出しOK、コール&レスポンスも4割くらいOK。「酒燃料爆進曲」や「GREAT NUMBER」など、合いの手と身振り手振りがモノをいう曲の盛り上がりが凄まじい。4曲目、「ジャカジャーン!ブンブン!ドンドコ!イエー!」が終わる頃、フロアとステージの呼吸はもう完璧に仕上がっていた。

上原子友康のギター(ジャカジャーン!)と清水泰次のベース(ブンブン!)と坂詰克彦のドラム(ドンドコ!)、そして増子直純のボーカル(イエー!)で成り立つ演奏も、怒髪天の場合はほとんど仕上がっている。やっていることは同じである。ただ、曲の振り幅が異様に広いことと、毎回「こんないい曲、こんな変な曲があったか!」と膝を打つような曲が登場するところが、彼らのライブをマンネリ化させない秘訣となっている。

ハワイアンとブルースを掛け合わせた「救いの丘」(1995年発表)、ヒゲダンスとミュージカルを強引につなげる「タイムリッチマン」(2020年発表)、カフカの小説から物語が始まるロックナンバー「むしけらブンブン」(2005年発表)などが違和感なく並んでいる。プレイリストをシャッフルするように自分たちの歴史を面白がれるし、隠すものなど何もない。キャリアに対する自信が今や真似できないオリジナルなのだ。MCタイムを除けばかなりストイックに続くプレイも、改めて記しておきたい魅力である。

1999年の名曲「サムライブルー」でグッと泣かせたあと、目下最新曲の「100万1回ヤロウ」へ。〈ゴワサンデ ネガイマシテハ〉と歌うサビは、そろばんを学校で習った昭和世代にはお馴染みだが、今はすっかり聞かれなくなったもの。フロアをよく見れば絶対にそろばんに縁がなさそうな若者も2割くらい紛れている。それでも全員が歌うこと歌うこと。すべてがチャラになっても諦めない、へこたれない、何度でも立ち上がる。そんな怒髪天の姿勢が詰まった〈ゴワサンデ〜〉は、この時代の新鮮な合言葉のようにも響いていた。

ラストはサンバ調の「セバ・ナ・セバーナ」。赤いハッピ姿の増子はサブステージのバルコニーで破顔する。ただただ楽しい。しかし曲の中に〈ちゃんと生きてろ 約束だぜ〉なんて力強いメッセージがあるのが怒髪天だ。生きてなきゃ笑えない。最後の最後は「聴かせてくれ!」と増子が主導し、あくまでガイドラインに則った会話レベルの、小さいけれど確かな〈ラーラーラー〉の歌声が響くシーンもあった。「ほんとありがとう、待った甲斐があった」「一緒に歌いたい曲、まだいっぱいある」と涙ぐんで笑う増子の姿に、50代の頼もしい希望が溢れていた。(Text:石井恵梨子 / Photo:西槇太一)

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