<社説>キューバ危機から60年 誤算・誤解の回避 教訓に

 世界を核戦争の瀬戸際に追い込んだキューバ危機から60年を迎えた。 ウクライナ侵攻を続け核兵器使用の可能性を示唆するロシアのプーチン大統領によって核使用リスクが高まっている。今こそ米ソの首脳が誤算と誤解を対話によって乗り越え、危機を回避した当時の教訓を学ぶときだ。

 キューバ危機は1962年10月16日から28日にかけて続いた。ソ連が米主要都市を射程内にとらえる中距離核ミサイル基地をキューバに建設中であることが発覚すると、ケネディ米大統領はキューバを海上封鎖した。そしてキューバからのミサイル攻撃はソ連からの攻撃と見なし、報復すると宣言し、核戦争の緊張が高まった。ソ連のフルシチョフ首相が最終的にミサイル撤去に応じ危機を回避した。

 ケネディは当時、米国の歴史家バーバラ・タックマンの著書「八月の砲声」に深い感銘を受けていたという。第1次大戦が、欧州の指導者らの思惑や誤算、誤解、誇大妄想などが重なり、泥沼化していく様子を克明に描いた。

 ケネディはキューバ空爆などで脅威を取り除こうと主張する軍部にくみしなかった。さまざまな意見を持った専門家を招いて慎重な討議を行った。その結果、強硬一辺倒ではなく選択肢が増えた。討議にある程度の時間をかけたことと、ソ連側にさまざまな選択肢を検討する時間を与えたことも評価されている。

 最終的に水面下の駆け引きで、ケネディはソ連が射程に入るトルコに配備していた米ミサイルの撤去を決断した。ソ連側は体面を保ちつつキューバからのミサイル撤去に応じることができた。意思決定の過程で、誤解や誤算などがあったが、米ソ両首脳は最悪の事態を回避するという合理的な結論に達した。

 キューバ危機は、米統治下の沖縄にとっても瀬戸際だった。ソ連などを標的とする沖縄のミサイル部隊に核攻撃命令が誤って出された。現場の発射指揮官の判断で、核搭載の地対地巡航ミサイル「メースB」の発射が回避された。発射すれば沖縄は報復の対象になりかねなかった。

 バイデン米大統領は6日、キューバ危機とロシア侵攻を対比させ「このままではキューバ危機以来、初めて核の脅威に直面する」と述べた。

 ウクライナ侵攻とキューバ危機とは性格が異なる。ウクライナ侵攻は国際法違反であり、プーチン氏の核による脅しは核拡散防止条約(NPT)で核保有が認められた「責任ある大国」とはほど遠い。

 とはいえ、ロシアに核を使用させないために、国際社会はケネディが強調した「対話」の機会を閉ざしてはならない。住民をこれ以上戦闘に巻き込んではならない。まずは停戦すべきだ。

 世界が不安定になると、過重な米軍基地を抱える沖縄のリスクも高まる。これもキューバ危機の教訓だ。

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