片桐仁も興味津々…江戸時代にもゆるカワ作品が存在! そこには禅の教えが!?

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。7月15日(金)の放送では、「永青文庫」で禅僧・仙厓義梵のゆるカワで奥深い世界観に迫りました。

◆他の禅画とは一味違う…ゆるカワな仙厓ワールド

今回の舞台は、東京都・文京区の住宅地の一角にある永青文庫。ここは700年以上の歴史を持つ大名で江戸時代には熊本藩主を務めた名家・細川家の広大な屋敷跡の一角に建てられた美術館です。

永青文庫は、細川家16代当主・細川護立によって1950(昭和25)年に設立。大名家伝来の美術工芸品や歴史資料、護立の蒐集品など9万点以上を所蔵しています。

片桐は、永青文庫で開催された「仙厓ワールド ―また来て笑って!仙厓さんのZen Zen 禅画―」へ。これは2016年に第1弾が開催され好評を博した江戸時代後期の禅僧画・仙厓義梵の展覧会の第2弾。学芸員の舟串彩さんの案内のもと館内を巡ります。

そもそも禅画とは、禅の思想を人々に伝えるために禅僧が描いたものですが、仙厓の作品は他の禅画とは一線を画し、同じテーマでも思わず頬が緩んでしまうユーモラスなものばかり。

なぜそうした画風へと至ったのか。そして、仙厓とはどんな人物なのか。今回は味わい深い仙崖ワールドを紐解きます。

◆民衆に伝えるべく、禅の思想をユーモラスに描いた仙厓

まずは、仙厓が67歳のときに描いた作品「老子出関図」(1816年)。

この作品は、道教の祖である老子が乱世を憂い、身を隠すために牛に乗って関所を越えるところを題材とし、非常に繊細で巧みな牛が描かれています。しかし、仙厓は最初からゆるい絵を描いていたわけではなく、60代前半頃までは真面目な画題に没頭し、絵画の技術を磨いていたのだと舟串さん。

一方、描かれている老子は牛の上で足を投げ出し、しかも後ろ向き。こうした人間味溢れるところが仙厓らしさで、片桐も「確かにこの牛だけ見ると上手いなという感じだけど、老子が座っているとだいぶゆるい絵になりますね」と納得。

仙厓が絵を描き始めたのは住職時代、40代後半と言われ、本格的に描くようになったのは住職引退後。この作品は引退して5年後の作品で、多くの人に禅を広めたいという思いから、こうしたユーモラスで親しみやすい作品を描いていたと言われています。

続いて、「これもまた楽しそうな絵」と片桐がその印象を語るのは、仙厓が70代前半のときの作品「鐘馗図」(19世紀)。

"鐘馗”とは疫病神を追い払う魔除けとして古くから信仰された神様のこと。本作はそんな鍾馗が剣を持ち、悪い鬼を捕まえた場面が描かれているのですが、鍾馗も鬼も陽気な表情で、まるで記念写真のよう。そんな作品を前に、片桐は「本当ですね。鍾馗と一緒に鬼も笑ってるし、疫病退散感がない。"鹿を獲ったぞ!”という猟師さんみたい。コミカルですね」と思わず笑みがこぼれます。

仙厓は73歳のときに「厓画無法」を宣言。これは世の中の絵にはルールがあるものの、自分の絵にはルールがないという旨で、それ以降、明るく奔放な作品を次々と生み出します。本作も伝統的な画題ながら、その無法ぶりが発揮された作品となっています。

また、もうひとつ注目すべきは2つのハンコで、ひとつは逆さま。これに片桐は「落款(ハンコ)は一番大事なもの。みんな(押す)場所を考え、間違えたら描き直すという話も聞きますけど」とビックリ。

しかし、仙厓はあえて間違えて押しているとも想像でき、「ルールを全部知っているから、勉強しているからパロディができる、遊べるんだろうなと思いますね」と片桐。

さらに、「こちら龍虎ですね。この画題は散々見てきましたけど、ここまで力の抜けた龍虎は見たことない」と片桐が驚愕していたのは、仙厓70代前半の作品「龍虎図」(19世紀)。

虎が龍を迎え撃つ姿を緊張感たっぷりに描く"龍虎図”は古くから親しまれてきたテーマですが、仙厓の龍虎図は緊迫感ゼロ。右側の龍は目の焦点もずれ、まるで笑っているようで、一方で虎も我関せずとばかりに穏やかな表情を見せています。

本作は、仙厓の他の作品に比べサイズが大きく、それはもともとふすま絵だったから。

現存している仙厓作品の中では唯一のふすま絵と言われており、とても貴重な作品だとか。片桐は「絵を依頼した方も(完成品を見て)"これ?”ってなったはずですけど、見れば見るほど"いいな~”ってなる感じもわかりますよね」、「この虎は令和の今をもってしてもかわいいさ。すごいですね」とベタ褒め。ユーモアだけではなく、勢いのある筆使いの龍と穏やかな表情の虎が並び、動と静を巧みに対比している素晴らしい作品です。

◆仙厓だけでなく、禅をわかりやすく絵で伝える禅僧たち

庶民にも禅に興味を持ってもらうため、力の抜けた作品を描き続けた仙厓。

彼以前にも、多くの禅僧や仙厓の兄弟子がさまざまな形で禅を伝えていました。今回の展覧会ではそうした作品も仙厓作品と併せて展示。

まずは仙厓よりも少し前、江戸時代中期に禅画や書を手掛け、民衆を導いた白隠慧鶴が日本では七福神として親しまれている布袋を描いた「布袋坐禅図」(18世紀)。

白隠作品を前に「達筆な感じがしますよね~」と感心する片桐。布袋の絵とともに併記されているのは"布袋さん、今日は珍しく座禅でも始めるところですか?”、"そうですよ”といった意味の文字。

声をかけている人がいるということは、布袋はひとりでいるわけではなく、つまり世俗社会のなかで人々を教え導こうとする白隠の姿勢がここに表れていると考えられます。ちなみに、仙厓も布袋を描いていますが、全く雰囲気が異なる味わいとなっています。

また、「これも面白い感じの絵」と片桐が反応したのは、仙厓より5つ年上で、同時期に月船禅慧という禅僧のもとで修業を積んだ兄弟子・誠拙周樗の「一つ目小僧図」(18世紀末~19世紀)。

盲目の僧侶の前に一つ目小僧が現れているところが描かれており、画中には「見えるなら さぞや笑わん 目一ツの 眉は二ツに分かる化けもの」との文章が。つまり、一つ目であるにも関わらず眉はふたつということですが、盲目の僧侶にはその姿は見えません。

これは、"目に見えるものより大切なことがある”ということを説いているそうで、それを聞いた片桐は「その題材は面白いですね」と興味を示します。

一見、堅苦しく感じる禅画ですが、多種多様な形で禅の考えを伝えようとする禅僧たちのさまざまな創意工夫が見て取れます。

◆仙厓の絵に込められた禅の教えとは?

最後は再び仙厓の作品へ。70代後半の作品「虎図」(19世紀)は、"虎図”とタイトルにあるものの、画中には"猫か虎か当ててみろ”と記されています。というのも、日本では古くから虎が描かれていたものの、実物を目にすることは難しく、猫など似た動物が参考にされ、仙厓も同様だったから。

本作ではそうした状況を逆手にとって質問を投げかけているわけですが、ここにも禅の教えが見え隠れしています。猫も虎も関係なく、既存の概念を超えて考えることの大切さを説いているのかもしれないと舟串さん。片桐は、「そう考えたら面白いですよね。見方が変わる。禅問答ですね。あくまで禅の教えありきでこの絵にいくのは、深い感じがしますね」と感心しきり。

そして、仙厓80代の作品「朧月夜図」(19世紀)を前に「これは(漫画家の)しりあがり寿さんの絵ですか?」と印象を語る片桐。

これは朧月の薄明かりの下で子どもが切れた縄を蛇と勘違いして騒いでいるところを描いた図で、この作品にも禅の教えがあり、先入観にとらわれず、物事を冷静に判断することの重要性を説いたものと考えられているそうです。

趣のある仙厓ワールドをたっぷりと堪能した片桐は、「(永青文庫に仙厓)全部が初めて尽くしだったんですけど、禅の和尚さんが絵を使って民衆に禅を広める時、あの楽しげな絵を使っていたんですね。しかも、教えは現代人からしても当たり前のことで、それが時代を超えて伝わってくるのが面白かったです」と感想を語り、「禅の絵を通して笑わせてくれた仙厓、そして永青文庫さん、素晴らしい!」と称賛。絵で教えを伝えた稀代の禅僧に拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、「絶筆の碑図」

永青文庫の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったもののなかから学芸員の舟串さんがぜひ見てほしい作品を紹介する「今日のアンコール」。舟串さんが選んだのは「絶筆の碑図」(19世紀)です。

本作は"絶筆”と書かれた石碑が描かれていますが、なぜこんな絵を描いたかといえば、仙厓は隠居後、街の人々にとても慕われ、絵の依頼が殺到。それに困り果て、83歳で「絶筆の石碑」を建立するも全く意味を成さず、依頼はますます増えるばかり。そこで絶筆を伝えるべくこの作品を描くも、これまた意味を成さず、結局は88歳で亡くなるまで絵を描き続けたとか。それを聞いた片桐は「禅の教えみたいですね」と感じ入っていました。

最後はミュージアムショップへ。まず注目したのは定番のクリアファイル。白隠慧鶴の作品がプリントされたものがあれば、中国の陶磁器「唐三彩」の柄も。しかも、その裏には永青文庫の写真や細川家の家紋「九曜紋」がプリントされています。

そして、仙厓の「虎図」、さらには「九曜紋」のマスキングテープもあり「これは何気にいいですね。使い勝手は一番いいかも」と気に入った様子の片桐。その他にも菱田春草の作品がプリントされたトートバッグなどさまざまなグッズが並び、興味が尽きない様子の片桐でした。

※開館状況は、永青文庫の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週金曜 21:25~21:54、毎週日曜 12:00~12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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