生食できる殻付きカキで存在感 笠岡・勇和水産、海外市場も開拓

殻付きで販売している勇和水産のカキ。生でも食べられる独自路線で存在感を高めている

 カキ養殖を手掛ける勇和水産(笠岡市北木島町)が、ブランディングと輸出で自社のカキの存在感を高めている。近くに浅口市寄島町、広島湾周辺といった一大産地があり、埋没しないよう生でも食べられる殻付きカキという独自路線にかじを切って売り上げを2倍以上に伸ばした。9月には香港に同社のカキを専門に扱う飲食店も開業するなど輸出も好調。今後も販路開拓や新たな養殖方式の導入で成長を図る考えだ。

 同社は笠岡諸島、北木島東部の海域で1年かけてカキを育てる。秋冬に一度水揚げし、ドラム式の洗浄機と手作業で藻やフジツボといった不要物を取り除く。籠に入れて再び海に沈め、2~3週間かけて欠けた殻を再生させ、殺菌などを経て、きれいな殻付きの状態で出荷する。年間に生食用、加熱用を計150トン前後生産する。

 生食用カキは食中毒を防ぐため、食品衛生法で細菌の数などに関する規定がある。殻付きはむき身に比べて不要物の除去や検査の徹底に手間がかさむこともあり、生食用に仕上げる岡山県内の水産事業者は珍しい。

 定置網漁業を手掛けていた同社がカキ養殖に参入したのは2002年のこと。カキの生産量は広島県が全国首位、岡山県が3位とあって周辺に養殖が盛んな地域は多く、差異化を図ろうと18年、保健所の指導も受けながら生食可能な殻付きを生産する態勢を整えた。

 相前後して自社ブランドも創設。祝いの場での提供を想定し、出世魚からヒントを得て「ひながき」「喜多嬉(きたき)かき」「美海(みう)がき」とサイズが大きくなるにつれて名称を変えて売り出した。ブランディングの効果で、首都圏のオイスターバーでは現在1粒700円前後で客が口にする。

 同社によると、北木島海域はプランクトン量が少なくきれいな半面、カキの成長が遅く、食べ頃は市場価格がピークを過ぎる2、3月になる。このため高値販売が見込める海外に、良い状態を保ったまま売り込もうと同年、低周波を当てながら時間をかけて冷凍する設備を導入。食味センサーを用いた実験を福山大などと行い、生鮮と比べて味が落ちないことを確認した。

 合わせて海外市場の開拓に取り組み、現在は香港から年間7~8トン、タイから5トン、中国本土やシンガポールから1トン前後を受注。香港では現地卸会社が9月下旬、同社のカキを提供する飲食店「到北木島喜多嬉牡蠣屋」も開いた。

 高品質高価格路線が奏功し、年間売上高はブランド立ち上げ前の約2千万円から5千万円まで拡大した。今後も輸出先としてブラジルなど新たな販路の開拓を模索するほか、品質を高めるために1粒ずつバスケットに入れて養殖する「シングルシード」の導入も検討している。藤井和平代表は「付加価値を高める努力を重ね、将来的に年間1億円の売り上げを目指したい」と話す。

殻の表面のフジツボや藻を取り除く工程。洗浄機と手作業で1粒ずつきれいにしていく

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