『西九州新幹線開業1カ月』 JR九州長崎支社長・田中渉氏 鉄道の付加価値高め地域貢献

「鉄道はインフラと同時にメディア」と語る田中支社長=長崎市尾上町、JR九州長崎支社

 JR九州長崎支社長の田中渉氏は、九州新幹線鹿児島ルートの部分開業(2004年)、全線開業(11年)の広報に携わった。昨年4月の同支社長就任後は、西九州新幹線の開業準備に奔走。新幹線や関連事業を活用した情報発信などによって、地域づくりに貢献できると意欲を示す。

 -九州新幹線長崎ルート(博多-長崎)のうち武雄温泉-長崎が西九州新幹線として部分開業した。部分開業前後の本県の状況をどう見た。
 県内の関係者から「鹿児島と比べてどうか」「(部分開業で)本当に効果があるのか」という質問をたびたび受けた。鹿児島ルートの場合、新八代-鹿児島中央の部分開業だけでも利用者は2.3倍に増えた。「地元がしっかり盛り上がれば、部分開業は二度おいしい」という鹿児島の経済人の言葉も紹介した。
 走行試験などで県内を新幹線が走るようになれば、おのずと地元のボルテージが上がるという確信はあった。情報発信を続けたことで、開業初日の長崎市内の盛り上がりは、全線開業時の鹿児島市より大きかった印象を受けた。

 -JR九州は新幹線開業に合わせて在来線の観光列車「ふたつ星」や「西九州観光まちづくりAWARD」などを企画した。狙いは。
 鉄道は人々を運ぶインフラであると同時に、情報を運ぶメディアだと思う。地域に足を運び、発信すべきコンテンツをしっかり発掘していく考えが、「D&S列車」と呼ばれる観光列車や地域のキーパーソン表彰の根底にある。
 私が営業部に配属された当時の上司は「単に人を運ぶだけでは鉄道を使ってもらう動機にならない。移動自体が旅の目的になるようにしなくては」と話していた。鉄道が旅のプロローグやエピローグになるように付加価値を高める。それが沿線の地域づくりのお手伝いにもなる。

 -新幹線をどう生かす。
 長崎の問題点は「予定調和」。(県外客が)ちゃんぽんやカステラなど思い浮かぶものは多いが、一度食べて理解した気になってしまう。実際には多様で奥深い文化があるので、それをいかに発信していけるかだ。行った先で思わず(SNSで)つぶやきたくなるような驚きがあるといい。
 大事にしたいのはビジネスの可能性。新幹線で集まってくる人、物、文化、アイデアを掛け合わせることで生まれる化学反応にどのくらい敏感でいられるかがポイント。関係機関で連携し、さまざまなデータを共有し議論していきたい。


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