多摩都市モノレールが箱根ヶ崎に延伸 鉄道空白の武蔵村山市に待望の新駅続々 都の説明会資料から計画を読み解く【コラム】

富士山をバックに走る多摩都市モノレール1000系車両。4両1編成の跨座式で、アルミ合金車体にオレンジ色の帯をまきます(写真:あやともしゅん / PIXTA)

東京都の主要鉄道プロジェクトの一つ、多摩都市モノレール(略称:多摩モノレール)の延伸構想が、いよいよ具体化に向けて動き始めました。東京都は2022年10月18~25日、計画地の武蔵村山、東大和の両市と瑞穂町で6回の説明会を開催、事業の目的や計画素案、施工方法などを公表しています。

延伸ルートは、現在の起終点・上北台(東大和市)から北西方向に軌道を延ばし、武蔵村山市を縦貫して箱根ヶ崎(瑞穂町)に至る約7.0キロ。上北台を除き7駅が設けられ、箱根ヶ崎でJR八高線に接続します。

延伸線の整備意義は、「多摩地域の市域で唯一、鉄道のない武蔵村山市への鉄軌道系輸送機関の整備」。本コラムは、計画のアウトラインとともに多摩都市モノレール略史、さらに鉄道ファン目線での延伸線の魅力などをまとめました。

東京都を中心に西武、京王、小田急が出資

最初に多摩都市モノレールのプロフィールから。1970年代から基礎的な調査が始まり、全体構想は1981年に公表された「多摩都市モノレール等基本計画調査報告」に登場。総延長約93キロに及ぶ、モノレールとしては壮大な路線計画が打ち出されました。

多摩エリアの交通空白地帯解消や職住バランスの取れた街づくりを目指す東京都を中心に、沿線自治体、金融機関などのほか、西武鉄道、京王電鉄、小田急電鉄の私鉄3社が出資し、1986年に第三セクターとして多摩都市モノレールが設立されます。第1期として1998年11月、上北台~立川北間5.4キロ、次いで2000年1月に第2期区間の立川北~多摩センター間10.6キロがそれぞれ開業。現在の多摩センター~上北台間16.0キロの路線が完成しました。

路線は多摩センターで京王相模原線と小田急多摩線、多摩動物公園で京王動物園線、高幡不動で京王線、立川北でJR線(JRは立川)、玉川上水で西武拝島線に接続します。性格的には、JR武蔵野線などと同じく、東京都心から放射状に延びるJRや私鉄各線をつなぐ路線といえるでしょう。

第2期まで順調だった多摩都市モノレールですが、延伸計画はその後長きにわたってストップします。最大の理由は業績の伸び悩み。しかし、2008年に転機となる経営安定化計画を策定し、業績は改善。全体構想再始動の機運が高まりました。

箱根ヶ崎への延伸計画を読み解く

ここから説明会(正式には「多摩都市モノレールの延伸〈上北台―箱根ヶ崎〉計画及び関連する都市計画道路に関する都市計画素案説明会」)資料にもとづき、延伸計画をご報告します。

延伸線は東京圏の鉄道整備の方向性を示す、交通政策審議会の2016年4月答申で、「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」の期待が打ちだされ、箱根ヶ崎方面延伸に関して「事業化に向けて具体的な調整を進めるべき」の方向性が示されました。

多摩都市モノレールの現在の路線(細線)と計画・構想中の路線(太線)。交政審答申では、多摩センター~八王子間は「関係自治体や事業者間で十分な検討が行われることを期待する路線」、多摩センター~町田間は「道路整備の進捗を見極めつつ、関係者間で具体的な調整を進めるべき路線」とされました(資料は交通政策審議会の答申から)

時代の流れをみれば、東京オリンピック・パラリンピックが無事終了し、鉄軌道整備に力を入れる環境が整いました。この点、2022年に入って計画が本格化した、東京メトロ有楽町線や南北線の延伸にも共通します。

東京都は2020年1月、用地確保が進み沿線自治体からの要望が強い、上北台―箱根ヶ崎間の延伸事業に着手することを正式発表しています。

高架の軌道を新青梅街道上に整備

延伸線の概略ルート。終点の(仮称)No.7駅手前で再び南北方向に向きを変え、JR箱根ヶ崎駅に並行する形でモノレール駅が設けられます(資料は東京都などの住民説明会資料から)

延伸線は延長約7キロの新線。終点駅(駅名は未定、資料では「(仮称)No.7駅」と表記されます)を除く途中駅は6駅で、平均駅間距離は約1.2キロ。JR箱根ヶ崎を除き既存鉄道への接続はなく、主要幹線道路との交差部にモノレール駅を設ける予定です。

路線は全線高架。新青梅街道(多摩エリアは東京都道5号新宿青梅線)の沿いに建設されます。都は道路拡幅とモノレール整備を一体的に進めることで、円滑な施工と工事効率化を両立させます。

駅コンコースは2階、ホームは3階

延伸線の標準区間は、複線の軌道幅8メートル、地上からの高さ17メートル。駅部はコンコース階の上にホーム階を設けます。既設区間のホームの形状は、軌道両側にホームがある対向式ホームですが、延伸区間は整備費低減などの観点から、複線の軌道中央にホームがある島式ホームを採用します。

駅部の標準断面図(資料は東京都などの住民説明会資料から)

駅構造の例外が、終点のNo.7駅。横田飛行場の航空制限で、ホームとコンコースは同じ2階に設けます。同駅は幅17.5メートル、高さ13メートルで、他の6駅より若干コンパクトになります。

標準的なNo.1~6駅の完成イメージ(画像は東京都などの住民説明会資料から)
JR箱根ヶ崎駅に隣接する(仮称)No.7駅の完成イメージ(画像は東京都などの住民説明会資料から)

車窓にはスカイツリーや富士山も? 延伸線ができると何が変わるか

それでは、かなりのフライングかもしれませんが、延伸線にバーチャル乗車しましょう。上北台を発車したモノレールは、それまでの南北方向から東西方向に90度向きを変え、新青梅街道上空に入ります。

車窓に広がるのは住宅地や緑地。モノレールの既設線からは奥多摩の山々はもちろん、富士山や東京スカイツリーも遠望できるそうなので、新しいビュースポット誕生の可能性も大です。

モノレールが走るのは地上17メートル。眺望の良さが期待できます(写真:ニングル / PIXTA)

多摩都市モノレールは観光鉄道ではありませんが、ファンの乗車を意識します。車両は高架を走る鉄道らしい眺望を楽しめる、高さ1メートルの大窓を採用。床面から20センチ高くした展望席も設けます。1編成あたり2カ所の車いすスペースを備えるなど、バリアフリー対応も万全です。多摩都市モノレールはファンやファミリー向けイベントにも熱心で、今年の11月19日には車両基地見学会「多摩モノまつり2022」も開催します。

モノレールが間近を通るのが、武蔵村山市の阿豆佐味天(あずさみてん)神社。江戸時代初期の1629年創建で、安産などにご利益ありとされます。

立川―箱根ヶ崎間がダブルルートに

鉄道ファン目線でもう少々。延伸線が完成すると、立川―箱根ヶ崎間がモノレールとJR線(八高線と青梅線)のダブルルートになります。新宿などから埼京線(川越線)で高麗川へ、八高線箱根ヶ崎からモノレールに乗り換えて立川または高幡不動、多摩センターに抜ける大回りルートが誕生します。

今後の工程は、都市計画決定手続きや環境影響評価を経て工事着手になりますが、順調にいけば今後3年以内には着工できるそう。正式ではありませんが、2032年ごろ開業というスケジュールも示されています。今後も工事の進展に注目したいと思います。

記事:上里夏生

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