<書評>『競争戦略論の発展と競争優位の持続可能性』 緻密な分析と本質の集約

 沖縄の経営者、社会人そして学生に読んでもらいたい本である。同書は琉球大学で経営学、特に競争戦略の研究・教育に取り組まれてきた著者の作である。この数十年のうちに企業を取り巻く環境は大きく変わったが、学術の世界でも多様な研究がなされてきた。多くの著書・論文があふれるなかで、この本では主要な研究を体系化するとともに、緻密な分析と本質の集約がなされている。

 第1章で競争戦略論の全体像を示し、議論を展開する。まず、第2章のポジショニングという考えである。たとえば、サッカーの試合でゴールポストから離れた場所にいては点をとることは難しい。シュートが打ちやすい場所にいなければならない。企業も同様で良いポジションをとり、利益を得なければならない。ただ、良い場所にいてもシュートが下手であれば意味がない。シュートを打つ技術・能力を身につける必要がある。それが第3章の資源・能力ベースという考え方である。

 これらの考えをベースに勝ちパターンがつくられるが、やがて時代や環境に適合できなくなるとともに、競争相手もそのパターンを崩しにかかる。この時、自分のパターンが身についているほど、変えることが難しくなることが第4章で示される。この危機に際し、自らの強みを生かしつつ、さらに能力を高める手段がダイナミック能力と両利き戦略として、第5章で示される。そして終章では、安定が必ずしも良いものではなく、不安定であるがゆえに試行錯誤するなかで能力を高め、結果として長期的成長につながるのだと説明する。

 書籍は内容的に深く、この一冊を読み込むことで、経営に関する視野や知識は格段に高まるだろう。沖縄企業に関する研究を進めるなかで常々感じることは、沖縄経済を強くするためには個々の人々がしっかりと「経営学」を学び、まずは自分たちの職場を強くたくましくしていくことではないかということである。豊かな沖縄を実現するためにも、ぜひこの本を読み、学びのきっかけとしてほしい。

(山内昌斗・専修大教授)
 よなはら・たつる 琉球大名誉教授。共著で「沖縄企業の競争力」「沖縄経済と業界発展―歴史と展望―」などがある。

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