石垣のような筋模様が名前の由来
名前の由来となっている「石垣(石崖)」を思わせる黒い筋模様が入った翅を持つタテハチョウの仲間「イシガケチョウ」、SBSのカメラが10月21日、静岡県富士宮市下柚野で捉えたものです。特徴的な美しい翅を持つこのチョウは、実は数年前まで静岡県内では見ることのできないチョウでした。
南から北へ生息地を拡大
<静岡県自然史博物館ネットワーク 諏訪哲夫さん>
「静岡県には棲んでいないチョウの1つだったが、2020年頃からぽつぽつ採集されたり目撃されるようになった。そして2022年の春、静岡県の西部地方を中心に、突然多く見られるようになった」
「イシガケチョウ」は、南方系のチョウですが、徐々に分布を北へと拡大し、近年は三重県以西が主な生息地とされてきました。
静岡県の自然に関する調査研究を行っている「静岡県自然史博物館ネットワーク」の監事で、「静岡昆虫同好会」の会長を務める諏訪哲夫さんによると、静岡県では2020年前後から県西部で目撃されるようになったと言います。(※ただし、迷蝶とみられる目撃記録は以前からあり)
2022年、急速に分布が拡大
<静岡県自然史博物館ネットワーク 諏訪哲夫さん>
「2022年の春、静岡県の西部地方を中心に、突然多く見られるようになった。まだ安倍川をあまり越えてはいないが、今後、どんどん増えていく状況だろうと思う」
チョウの愛好家の間では、いつかは静岡県にまで広がるだろうとされていたものの、思っていたよりも生息地が広がらない状況が続いていたと言います。しかし、2022年に入ると急激に分布が拡大、掛川市を中心に多数確認されるようになりました。諏訪さんによると、安倍川(静岡市)より東側では、ほとんど目撃例がなく、今回、SBSが富士宮市下柚野で撮影した映像は貴重なものだということです。
このような目撃例・採集例などから、現在、「イシガケチョウ」は静岡県東部が国内で最も東の生息地であるとみられています。
「イシガケチョウ」を目撃したら「静岡県自然史博物館ネットワーク」に連絡して
「静岡県自然史博物館ネットワーク」は、こうした「イシガケチョウ」に関するこれまでの調査・研究の成果を、10月23日から11月3日まで、静岡市の「ふじのくに地球環境史ミュージアム」で、ポスターにまとめて掲示しています。今後も分布などについて引き続き調査を行っていくため、目撃したら「静岡県自然史博物館ネットワーク」に連絡して欲しいと呼びかけています。
地球温暖化も要因か?
「イシガケチョウ」のように、分布が拡大したため、静岡県で見ることができるようになったチョウは他にもいます。市街地など身近な場所でも当たり前のように見られるようになった「ツマグロヒョウモン(写真:左)」、尾錠突起と呼ばれる後ろ翅の長く突き出している部分が無いのが特徴の黒いアゲハ「ナガサキアゲハ(写真:中央)」、表翅に美しい青紫色の斑紋がある「ムラサキツバメ(写真:右)」などです。
いずれも南方系のチョウで、分布が南から北に拡大する中で、静岡県でも生息が確認されるようになりました。はっきりとしたことは分かっていませんが、要因の一つとして、地球温暖化の影響が指摘されています。
吸蜜するイシガケチョウ
美しい姿に見とれてしまう南方系のチョウたちを静岡県で見られるようになったことを、喜んでもいられません。地球温暖化などによる環境変化が進行していることの証左とも言えますし、これまで生息していなかった新たな生物の侵入は、地域の生態系に悪影響を及ぼす可能性があります。
このままだと、来年には神奈川県にまで生息地を広げそうな勢いの「イシガケチョウ」。どのように分布を拡大していくのか、今後も注意深く見守る必要がありそうです。