党大会で「反習派」を抑え込んだ習主席

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・今後5年間、習主席を中心とした体制が継続し、中国は過去数十年のエリートによる権力分立の後、独裁へ逆戻りしつつある。

・政権移行という予測が外れた理由は二つ。一つ目は、軍の動向の解釈を誤っていたから。

・二つ目は、党大会での主席団メンバー構成で投票の行方を判断していたが、「反習派」は結束できなかったから。

今年(2022年)10月22日、中国共産党第20回全国代表大会が終了した。そして、翌23日、これからの5年、第20期の習近平総書記を中心とする新しい最高指導部(政治局常務委員)がお目見えしている。

李強(新)・趙楽際(留任)・王滬寧(留任)・蔡奇(新)・丁薛祥(新)・李希(新)である。習主席が、常務委員を忠実な部下で固めたことで、中国は過去数十年のエリートによる権力分立の後、独裁へ逆戻りしつつある(a)と言えよう。

実は、大会直前の同月13日、突然「北京四通橋横断幕事件」(b)が起きた。事件を起こした彭載舟(本名、彭立発)に代表されるような中国人民の民意・願い(<横断幕の仮訳>PCR検査は不要で、食べる事が必要だ。ロックダウンは不要で、自由が必要だ。嘘は不要で、尊厳が必要だ。「文革」は不要で、「改革」が必要だ。指導者は不要で、選挙が必要だ。奴隷にならず、公民になろう。独裁者の国賊、習近平を罷免せよ!)とは異なり、李克強総書記誕生は叶わなかった

同時に、我々の予想(一つは、軍事力による「クーデター」的な政権移行。もう一つは、選挙による平和的な政権移行)もはずれた。なぜ我々は予測を誤ったのか。たぶん、2つの事実の“解釈”を間違えていたと思われる。

第1に、我々は軍の動向を誤って“解釈”していたのではないだろうか。

既報の通り、9月8日深夜、北部戦区司令官、李橋銘(「改革・開放」を支持)は、習主席への軍権譲渡を拒否し、瀋陽軍区で内戦が勃発した。当日、習主席は李橋銘を更迭し、同戦区司令官に王強を任命(c)している。

しかし、同月21日、李橋銘は北京で開催された軍事セミナーに出席した。その後、李橋銘は、軍事委員会によって陸軍司令官(昇格人事)に任じられている(d)。

他方、近頃、林向陽が軍事委員会から東部戦区司令官に任命された(e)。林向陽は、昨年8月、東部戦区司令官から中部戦区司令官へ異動になった。4ヶ月後、林向陽は習主席によって中部戦区司令官を解任された。林向陽は、東部戦区へ戻って来たが、すでに同区司令官ポストは埋まっていた。その後、林向陽は干された状態だったのである。

ところが、突然、林向陽が、東部戦区司令官に再任された。明らかに、中央軍事委員会は習主席とは別の思惑で動いている。そこで、江沢民が軍権を握っていると考えたが、それは過大評価だった

第2に、我々は、党大会での主席団メンバー構成で投票の行方を判断した。だが、「反習派」は結束できなかったのである。

大会には、2310名の代表が出席(f)した。その中で、主席団常務委員会46名こそ、“決定的”とも言うべき影響力(g)を持っていた。そのメンバーは、第19期中央政治局員と元政治局常務委員らで構成されている。

【I】第19期政治局委員ら(25名+王岐山)である。

習近平主席、李克強首相、栗戦書、汪洋、王滬寧、趙楽際、韓正、王岐山(国家副主席)、丁薛祥、王晨、劉鶴、許其亮、孫春蘭、李希、李強、李鴻忠、楊潔篪、楊暁渡(国家監察委員会主任)、張又俠、陳希、陳全国、陳敏爾、胡春華、郭声琨(中央政法委員会書記)、黄坤明(中央委員会宣伝部部長)、蔡奇。

この26名中、少なくとも9名が「反習派」と見られる。

【II】元政治局常務委員ら(18名+2名)である。

江沢民、胡錦濤、朱鎔基、李瑞環、呉邦国、温家宝、賈慶林、張徳江、俞正声、宋平、李嵐清、曾慶紅、吳官正、李長春、羅幹、賀国強、劉雲山、張高麗、尤権(中央書記処書記)、張慶黎(政治協商会議副主席)。

こちらは、20名中、元老18名全員が「反習派」と考えられた。すると「反習派」は9名+18名で、少なくとも合計27名となる。

この数字を見る限り、「反習派」が勝利すると思われた。だが、その一部は「習派」へ寝返った公算が大きい。また、習主席のシークレットサービスが前面に登場したため、元老達は会議に参加できず、彼らによる習主席3期目阻止が失敗したのではないだろうか。

一方、軍は“中立”を維持し、「反習派」のためにまったく動こうとしなかったのである。

〔注〕

(a)『BBC中文』「第20回党大会で習近平と政治局常務委員が登場 海外メディアの論評と国際的な反応」(2022年10月23日付)

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(b)『万維ビデオ』「画期的な政治シグナル 第20回党大会の噴火口になる」(2022年10月16日付)

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(c)『人民日報』(2022年9月9日付)

(http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-09/09/nbs.D110000renmrb_01.htm)

(d)『独立評論』「反習近平派の上将『李橋銘』がすでに『陸軍司令官』に昇進」(2022年10月3日付)

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(e)『早報』「解放軍東部戦域の司令官交代 林向陽上将が初めて公の場に姿を現す」(2022年10月1日付)

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(f)『人民日報』「第20回党大会は予備会議と主席団の第1回会議を行う」(2020年10月16日付第1面)

(http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-10/16/nw.D110000renmrb_20221016_1-01.htm)

(g)『人民日報』「中国共産党第20回全国代表大会主席団委員会名簿」(2020年10月16日付第1面)

http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-10/16/nw.D110000renmrb_20221016_4-01.htm

トップ写真:第20回中国共産党中央委員会の中国常務委員たちと記者会見を行う習近平主席 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images

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