<社説>旧統一教会首相対応 被害者救済へぶれるな

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題で岸田文雄首相の対応のまずさが顕著になっている。教団側との接点が次々判明した山際大志郎経済再生担当相が責任を取って辞任した。首相の任命責任も問われる。国会では答弁を1日で変更した。 岸田首相は、宗教法人法に基づく解散命令請求が認められる法令違反の要件に民法の不法行為は入らないとの解釈を示していたが「含まれる」と一転させた。刑法違反などを挙げるだけでは、解散命令請求の可能性を狭めかねないと判断したからだ。首相が国会答弁の内容を翌日に転換するのは異例だ。

 解散命令請求の可能性を狭めるとスムーズな被害者救済を妨げ、被害を助長する恐れもある。法解釈やそれに基づく解散命令請求を検討する際には、再発防止や被害者救済の視点も重要だ。岸田首相はそれをどれだけ考慮したか。被害者を救い、これ以上出さないという姿勢はぶれてはいけない。

 岸田首相は予算委で「行為の組織性、悪質性、継続性が明らかで、宗教法人法の要件に該当する場合、民法の不法行為は入り得る」と明言した。指揮、監督する人物や法人が問われる「使用者責任」も含まれるとの見方だ。「政府として考え方を整理した」と説明したが、野党は「朝令暮改だ」と批判した。

 解散命令請求を視野にした「質問権」行使に対する政府内の慎重論が当初の首相答弁に影響したのかもしれない。しかし、政府の電話相談窓口に9月末までで1700件以上の訴えが寄せられ、警察につないだ件数は約70件に上る。中には犯罪が疑われる相談もあったという。首相自ら「刑法をはじめとするさまざまな規範に抵触する可能性がある」との認識を示すほど被害は多岐にわたるとみられる。そもそも法解釈を刑法だけに狭めるべきではなかった。

 当初の首相答弁に野党は速やかな被害者救済につながらないと批判した。岸田首相は被害の訴えも踏まえ、野党の批判に応じた格好だ。岸田首相は被害者やその家族の立場に立って毅然とした態度でこの問題に取り組んでほしい。

 山際氏の辞任を巡っては、岸田首相による事実上の更迭とみられている。山際氏は「これから新しい事実が出てくる可能性がある」と国会で答弁したが、首相は野党の更迭要求を拒否し続けていた。

 しかし更迭へ態度を一転させた。政権運営へのリスクを避けたかったのだろうが、山際氏が教団側と実際にどのような関係にあったのか、内実は判然としない。うやむやにせず、徹底的に調べて明らかにすべきだ。辞任すればいいという問題ではない。

 一方、2015年の教団の名称変更や、政府・自民党の政策決定に教団が関与していなかったのかどうかについても、首相は明らかにしなければならない。

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