憲兵隊見回り“何も言うな”の空気漂う 戦争「本当に愚かな事」 ウクライナ侵攻に胸痛める

「戦争は本当に愚かな事。欲張ったら駄目」と訴える吉村さん=佐世保市内

 「学校に行っても毎日のように『ウ~ウ~』と空襲警報が鳴る。みんな急いで防空壕(ごう)に入っていった。だけど(警報が)鳴った時は既に敵機が来ていた状態だったのに」
 吉村ヱイ子さん(90)=長崎県佐世保市須田尾町=は、戦時中の記憶をどこか皮肉を交えながらこう述懐する。家族は両親と5人きょうだいで、吉村さんは一番上。自宅は佐世保海軍工廠(こうしょう)(現在のSSK)のすぐ近くにあった。
 学校では「敵を倒すため」と竹やりの訓練をやらされていた。子どもながらに「竹やりなんかで勝てるのか」と感じていたという。そしてポツリとこう漏らした。「先生もどういう気持ちで(竹やり訓練を)教えていたのか」。あちこちで憲兵隊が見回りをしており「何も言うな」との空気が漂っていた。
 旧海軍工廠の周辺は、中が見えないよう壁などで囲われていたとされる。「そんな事をしても(中は)見えるのに」とあきれた様子で振り返る。戦時中に一家は「(海軍工廠の近くのため)空襲されると危ない」と家を立ち退き、市内の別の場所に移ったという。
 吉村さんはその後、佐賀県嬉野市の母の実家に疎開。後から家族もやってきて終戦を迎えた。一方、年齢的に召集はないだろうと思われていた父が徴兵された。戦地には赴かなかったとみられ、後にせっけんや衣類、毛布などを運んで戻ってきた。母は農家を回って着物と米を交換し家族を支えた。
 取材中、吉村さんは繰り返し戦争のことを「本当に愚かな事」と訴えた。しかし、世界で戦争は絶えず、今年2月には、ロシアによるウクライナ侵攻が起きた。ニュースでウクライナ侵攻の様子を見ると、防空壕に避難していた当時を思い出し胸が痛むという。「(人間は)それぞれ欲を持っているから戦争はなくならない。欲張ったら駄目です」。そうつぶやいた。


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