従業員の「配置転換」実施企業64社、9月時点で前年超え 大企業ほど配転・再配置を加速 【上場企業の「従業員の配置転換・再配置」調査】

 2022年に従業員の配置転換・再配置の実施を公表した上場企業は、9月末で64社に達した。新型コロナ感染拡大前の2019年(通年、31社)の2倍超で、2019年以降の4年間で年間最多を更新したことがわかった。
 コロナ禍に伴う業績悪化で2020年から2021年にかけ、上場企業は従業員の早期・希望退職の募集を加速した。だが、コロナ禍の影響が一巡すると、退職者の募集に代わって、不採算部門や実店舗の廃止、撤退などによる配置転換・再配置の動きが広がっている。
 上場企業はコロナ禍で採用を抑制していたが、宿泊・観光を含むサービスや小売など一部業種を中心に、再び人手不足の深刻化が懸念される。このため、従業員を退職でなく「部署異動」や「職種変更」の形で雇用を継続し、生産(営業)体制の安定維持に向けた動きを進めている。
 コロナ禍に加え、加速する円安、エネルギー価格の上昇、物価上昇など、依然として経営環境は厳しい状況が続くが、アフターコロナへ向けた従業員の定着は事業計画の安定に欠かせない。もともと重要な経営資源である労働力の維持は、賃金水準や福利厚生などが優位な大手企業ほど有利な状況にある。今後、大手企業と中小企業間による雇用のさらなる“二極化”が拡大する可能性が高まっている。

  • ※本調査は、従業員の配置転換や再配置の実施を「会社情報に関する適時開示資料」(2022年9月30日公表分まで)などで情報開示し、具体的な内容を確認できた全上場企業を対象に、分析した。

業種別 店舗の撤退、統廃合続く「銀行」が3年連続トップ

 業種別では、店舗の撤退や統廃合が続く「銀行」が15社で最多だった。銀行は2020年から最多が続き、2022年(1-9月)は全体の約4分の1(23.4%)を占めた。コロナ前の2019年は5社で最多だった「電気機器」、同3社の「機械」は、2020年以降は小康状態が続く。
 一方、「外食」や観光・宿泊を含む「サービス」、「アパレル」、「輸送用機器」、鉄道会社を含む「陸運」は、コロナ禍で実施企業が増えた。「輸送用機器」は2021年以降、航空機部品の製造に関わる事業縮小に伴う配置転換が目立ち、世界的な渡航需要減の長期化が影響している。
 コロナ禍が直撃した鉄道会社や百貨店などで、本業部門外の事業強化に伴う配置転換が散見され、アフターコロナを見据えたビジネスモデル転換に向けて実施に動いているようだ。

2210配置転換業種

上場区分別 実施規模は“大企業化”が進む

 従業員の配置転換・再配置を実施した上場企業の市場区分は、コロナ前の2019年は東証1部が18社(構成比58.0%)だった。だが、コロナ禍に見舞われた2020年は32社(同60.3%)、2021年は43社(同69.3%)と増勢をたどった。
 上場区分が変更となった2022年は東証1部と同様、大企業で構成されるプライム市場が9月末までに44社(同68.7%)と7割弱の高水準で推移した。
 事業規模が大きく従業員も多い企業が中心の大企業では、対面型サービスの外食、小売と、レジャー・宿泊を含むサービス業での店舗撤退、閉鎖が相次いだ。さらに、鉄道や航空といった交通インフラで、コロナ禍以降の移動制限の長期化が経営に影響。人員削減が急ピッチで行われた。
 こうした業種では、人員削減を進める一方、人材確保の観点から配置人員の見直しを同時に実施するなどしたことで、公表企業数を押し上げた。

2210配置転換上場区分

 8月の全国有効求人倍率は1.32倍(季節調整値)で、2020年4月以来、2年4カ月ぶりに1.3倍台に乗せた。新規求人数も4月から8月まで、5カ月連続で前年同月を10%以上も上回っている。 
 アフターコロナに向けた企業側の雇用拡大が背景にあり、活発な採用活動は続きそうだ。
 一方、2020年、2021年と2年連続で80社を超え、リーマン・ショック直後(2009年、2010年)以来の高水準が続いた上場企業の「早期・希望退職」は6月末で25社にとどまり、2020年以降で最も低い水準に落ち着いてきた。
 従業員の「配置転換・再配置」の実施を公表した企業は、早期・希望退職の募集企業数が落ち着くのに反比例し、2022年は9月末で2019年以降の年間最多を更新した。コロナ禍の直撃で早期退職者を募集したサービス業や外食、交通インフラなどでは、コロナ収束を見越した人員確保を進めている。直近では、日本航空が2025年までに2019年比で3,000人の再配置の実施を発表し、髙島屋も2021年から2023年までの3年間で大型店見直しによる構造改革で1,100人を業務の内製化などに充てるとしている。
 今後、コロナ禍の直撃を受けた企業以外でも、さまざまな施策で成長事業と位置づける部門へ人員を配置転換する動きは強まるだろう。新たな“採用難”の時代を見越した雇用施策として従業員の配置転換・再配置が進む一方、配置先業務との適正(マッチング)など、新たな問題が浮上する可能性も残している。

2210配置転換の1

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