南方熊楠が狂言に登場 11月、田辺で能特別公演

新作狂言を作った能楽師小鼓方、上田敦史さん

 世界的な博物学者、南方熊楠(1867~1941)を主人公にした新作狂言「熊楠と粘菌様」(大蔵流)が11月18日、和歌山県田辺市新屋敷町の紀南文化会館で開かれる「田辺能特別公演」で初上演される。近代の偉人が伝統芸能に登場するのは珍しい。

 新作狂言を作ったのは能楽師大倉流小鼓方、上田敦史さん(49)=兵庫県丹波市。重要無形文化財総合認定保持者、大倉源次郎氏(人間国宝)に師事し、舞台に出演しながら2019年から地方の伝承などを題材に能狂言を作っている。21年12月には田辺市で新作能「清姫淵」を上演した。

 新作の舞台は田辺市東陽にある闘雞神社裏の仮庵山(かりほやま)。ここに神格化した「粘菌様」が現れ、神社合祀(ごうし)で森が伐採されたことに怒り、訪れた人間を神通力でこらしめようとする。しかし熊楠には一向に効かない。「粘菌様」は、彼が森林を守ろうとする熊楠と知って意気投合するという物語。

 上田さんは田辺能で催す新作の題材を考えた時、熊楠の世界観に注目。熊楠の出身地の和歌山市で幼少期を過ごしたこともあって、熊楠を主人公にしたという。

 エコロジーという言葉を日本に紹介した熊楠を、世界に誇るべき郷土の偉人と考え、分かりやすい展開の中に伝統的な笑いの型を取り入れつつ、自然と命の尊さを説いている。

 一方で、現代社会の向かっている方向は正しいのかとも問いかける。「粘菌様」のように人間の力を超えた存在や問題が現れた時、人類はどうするべきか。社会はどこに向かっているのか。「子どもたちには自分の学問を追究し続けた、南方熊楠に触れるきっかけにしてもらいたい」と話している。

 田辺能には上田さんも出演。次回上演する際は、子どもたちを募集し、舞台に参加してもらうことも考えているという。

 田辺能(田辺青耀会主催)は午後6時に開演する。紀伊民報など後援。狂言「熊楠」のほか、観世流舞囃子「猩々乱 双之舞」、観世流能「殺生石 白頭」がある。猩々は、栄町の笠鉾(かさほこ)の人形、猩々のもとになった曲で、酒のめでたさを伝える。

 SS席は4500円、S席3千円、A席2千円。2階席は2千円で、保護者1人につき小中学生2人まで無料にする。チケットは紀南文化会館、田辺商工会議所、上富田文化会館、紀伊民報で取り扱っている。

 問い合わせは、田辺青耀会(0725.24.6188)へ。

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