投資が注目されるいまだからこそ増える「資産運用詐欺」。若い人の被害相談事例が増えている原因

投資、資産形成が注目される時には、必ずといって良いほど「資産運用詐欺」が増えます。

たとえば1980年代のバブル経済。NTT株の上場を機に投資ブームが起こり、「財テク」などと称して、個人マネーが株式市場に流れ込みました。この時、「投資ジャーナル事件」や「豊田商事事件」が社会問題になりました。恐らく今、50~60代の方は記憶にあるでしょう。


投資ジャーナル事件は、保証金を積めばその10倍の融資を受けて株式が買えることを打ち出したものの、実際には株式を引き渡すことなく、580億円もの現金を詐取した事件です。

また、豊田商事事件は、「純金ファミリー証券」という証券を発行して資金を集めながらも、実際には金を買わずに現金を詐取した事件です。この事件の被害額は2000億円近いともいわれています。

次に資産運用詐欺が注目されるようになったのは、1996年のことです。この時は橋本元首相が提唱した「金融ビッグバン」が話題になった時です。「フリー」、「フェア」、「グローバル」の3原則を掲げ、国内金融市場の規制緩和を進めました。FXが登場したのは、この金融ビッグバンによって外国為替法が改正されたからですし、銀行窓口で投資信託を買えるようになったのも、この規制緩和によるものでした。

しかし、自由化・規制緩和が進めば、そこに付け込んでくる連中が出てきます。この時期、「ニューヨークに拠点を置くヘッジファンド」とか、「高利回りで運用できる米国の医療保険請求債権」、「東北地方の金鉱脈を掘る機材を高利回りでリース」、「個人を貸金業者にして中小企業に融資する」など、本当にさまざまなスキームを提案して、資金集めに奔走する詐欺師が大勢出てきました。もちろん、これらのスキームは真っ赤な嘘です。

そして今、資産運用詐欺が跋扈(ばっこ)するような状況が、少しずつですが現れ始めています。

まず「2000万円問題」。いささか旧聞に属する話ですが、2019年に金融審議会の市場ワーキンググループがまとめた報告書に端を発したこの騒動によって、老後資金に対する関心が高まりました。東京国税局の元職員らのグループによる持続化給付金詐欺事件で、ウソの申請を担当した元不動産会社の女性社員が、動機として「老後に2000万円が必要だと聞き、将来への不安があった」と答えたように、若い人たちでも老後に不安を持っている人は、大勢います。

次に「貯蓄から資産形成へ」という国策に加えて、岸田内閣が打ち出した「資産所得倍増計画」です。これは、2000兆円あるといわれている個人金融資産のうち、54%を占める現預金から、資産運用型の商品にシフトさせるためのキャンペーンです。

過度に現預金に傾いた個人金融資産を、株式や投資信託などの資産運用型商品にシフトさせていくことは、個々人がより豊かな生活をしていくうえで重要なことだと思います。

ただ懸念されるのは、投資と投機の区別もつかないような、金融リテラシーの低い人たちが、いたずらに老後不安を煽られることによって、詐欺的な投資商品や情報商材に手を出してしまうリスクが高まっていることです。

警察庁が毎年3月に出している「生活経済事犯の検挙状況等について」という資料があります。それによると、未公開株、社債、外国通貨の取引、ファンドへの投資勧誘などを装いお金を集める、利殖勧誘事犯に関する相談当事者の年齢別構成に、ちょっとした変化が見られるようになってきました。

通常、資産運用詐欺の被害者というと、高齢者のイメージが強いと思います。前出の豊田商事事件でも、投資ジャーナル事件でも、あるいはその後に起った「オレンジ共済事件」、「和牛オーナー商法事件」などにしても、被害者の多くは高齢者でした。

ところが利殖勧誘事犯に関する相談当事者の年齢別構成を見ると、20代から40代の相談者が増えてきているのです。

ちなみに2016年当時の数字では、20歳未満が0.2%、20代が3.8%、30歳代が4.0%、40歳代が8.1%で、65歳以上が57.5%だったのですが、2021年の数字を見ると、20歳未満が0.8%、20代が18.3%、30歳代が18.3%、40歳代が18.4%で、65歳以上が15.2%、となっているのです。

この変化はかなり劇的です。特に65歳以上の相談者は激減といっても良いでしょう。逆に、40歳代以下の比率の合計は、2016年の16.1%から、2021年には55.8%にまで上昇しました。

恐らく、20歳代から40歳代は、老後不安から資産を増やさなければならないという意識が強いものの、そこに付け込まれて怪しい投資商品、あるいは情報商材を勧誘され、本当に大丈夫なのかどうかが不安になって相談する、というケースが増えているのではないかと思います。

この数字では、「実際に契約した後に不安になって相談した」のか、「まだ契約していないけれども、大丈夫なのかどうかを確認するために相談したのか」のどちらかが分かりませんが、ひとつ言えるのは、過去において行われた資産運用詐欺で、犯人が摘発された後、被害者のお金が100%戻ってきた試しは一度もない、ということです。つまり、お金を渡したら終わりなのです。

特に最近の資産運用詐欺と思しき連中の手口を見ると、なかなか巧妙です。だからこそ、真贋を見極める目が求められます。では、どういう点でそれを見極めれば良いのでしょうか。

次回以降、私が過去において実際に取材した資産運用詐欺事件のストーリーも交えながら、資産運用詐欺に引っ掛からずに済む方法を考えてみたいと思います。

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