世界中のアイドルだった a-ha「テイク・オン・ミー」の大ヒットで味わった苦しみ  聴いて実感! アイドルの範疇に収まらないアーティスティックな感性

日本でも高い支持を受けたエレクトロポップ「テイク・オン・ミー」

今年、日本で劇場公開されたドキュメンタリー映画『a-ha THE MOVIE』は、80年代のa-haしか知らない自分のようなヤワなファンにも十分に面白かった。a-haについては、リマインダー読者の方にあれこれ説明するのは野暮ってもんだろう。ノルウェーで結成され、1985年に「テイク・オン・ミー」で世界的なヒットを飛ばし、日本でも熱烈に支持された3人組。エレクトロポップを取り入れた「テイク・オン・ミー」は、コミック調のアニメーションと実写を織り交ぜた映像とともに多くの人の記憶に残っているはずだ。

しかし、チャートへの影響力が減退してしまった90年代以降の活動を追いかけてるのは、熱心なファンくらいではないだろうか。そんな彼らのキャリアをたどり、その時々でどんな心境にあったのかを浮き彫りにしたのが『a-ha THE MOVIE』。「テイク・オン・ミー」の大ヒットによって世界中でアイドル視され、その結果、彼らがどれほど苦しんで来たか? そこはリマインダー読者の方にもぜひ注目して欲しいポイントだ。

日本ではa-haをアイドルとして売り出そうとしていた?

記憶をさかのぼってみよう。

日本でa-haの「テイク・オン・ミー」がリリースされたのは、1985年8月だったと思う。ラジオでの曲を聴き、英国のシンセポップのような響きに心動かされたマナブは発売日にレコード屋へと買いに出かけた。シングルジャケットの裏側には歌詞とともにライナーらしきものが記されている。

どんなバンドか興味があったので、読んでみたが……。今、手元にこのシングルがないので正確ではないが、内容は “ハーイ、僕らはa-haだよ、日本のみんな、応援よろしくね。頼むよ、ホント” 的な内容だった。明らかに、a-ha本人のコメントではなく、日本のレコード会社の方が作った煽り文。

なんじゃ、こりゃ……。

そこでハタと気が付いた。レコード会社は、このバンドをアイドルとして売ろうとしている、と。実際、この頃から洋楽雑誌にはa-haの美麗ポートレイト的な写真が載るようになり、日本でも楽曲のキャッチーな響きとともにファンを増やしていく。9月にこの曲は英国で最高2位にランクインし、10月には米ビルボードでもナンバーワンに。欧米の後ろ盾を得て、日本でも大注目の存在となっていった。

面白い!アルバム「ハンティング・ハイ・アンド・ロウ」を聴いて実感

しかし、「テイク・オン・ミー」を収録したアルバム『ハンティング・ハイ・アンド・ロウ』はとても陰影に富んだアルバムで、「テイク・オン・ミー」が妙に浮いているような印象を受ける。とりわけ、タイトル曲のダークなトーンと切ないメロディ、アンニュイなビートは、どこまでもアッパーな「テイク・オン・ミー」とは真逆だ。このバンド、ちょっと面白いぞ。

翌年には来日公演を果たすも、音楽メディアの取り上げ方は音楽を真剣に取り上げているムードではなかった。当時のマナブは、a-haがポップスターの道をひた走っているのを割と客観的に見ていた。

同年リリースのセカンドアルバム『スカンドレル・デイズ』は、あえてポップな側面を抑えた面白いアルバムだったが、セールスは低下したため、88年のサードアルバム『ステイ・オン・ディーズ・ロード』では陽性のポップへの回帰を余儀なくされる。この頃には、マナブはa-haへの興味を完全に失っていた。

パブリックイメージとアーティスト性の狭間で……

映画『a-ha THE MOVIE』を見ると、この時期の苦闘がよくわかる。

ジョイ・ディヴィジョンなどのニューウェーブに影響を受けてバンドを立ち上げ、ソフト・セルなどのイギリスのダークなエレクトロポップを消化してきたバンドだ。アイドルになることより、アーティスティックな感性を優先したかったのだろう。しかし「テイク・オン・ミー」のヒットがすべてを狂わせてしまった。

カメラを向けられたら、とにかく笑顔。そんなことは望んでいなかったのに……。3枚目のアルバムの製作時を振り返った彼らは「自分を裏切ってしまった。恥ずかしい写真を撮られるがままにしていた」と語る。パブリックイメージとアーティスト性の狭間で苦闘を強いられるアーティストは少なくないが、a-haもこのドツボにハマッてしまっていた。

新作「トゥルー・ノース」でみせた、a-haが貫くアーティスティックな姿勢

90年代以降はアイドルのイメージを振り払うための格闘、そしてメンバー間の軋轢という問題が描かれるが、それはぜひ映画を見て確認して欲しい。ひとつだけ付け加えたいのが、人気絶頂期にリリースされた映画『007 / リビング・デイライツ』の主題歌をレコーディングした際のエピソード。

映画音楽界の大家ジョン・バリーのプロデュースの下でレコーディングを敢行した彼らは、バリーと意見が合わず、あるゲリラ的な行動によってこだわりを押し通した。バリーは、このことを怒っているようで、彼らに対して嫌悪もあらわのコメントを。ともかく、このエピソードはa-haが音楽性にこだわっていたことを表わしていて面白い。

2022年10月、a-haは新作『トゥルー・ノース』をリリースする。一部の映画館では、このアルバムと連動した同名のドキュメンタリー映画が公開されたので、ひと足早くその収録曲を耳にしたファンもいるだろう。そこには言うまでもなくポップアイドルの面影はない。長きにわたる格闘を経て老齢に足を踏み入れ、なおアーティスティックな姿勢を貫く者の美しさが、見て取れるに違いない。

カタリベ: ソウママナブ

アナタにおすすめのコラム MTV黄金時代を象徴する傑作ビデオ、アーハ(a-ha)と ダイアー・ストレイツ

▶ a-haのコラム一覧はこちら!

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC