孫正義とスティーブ・ジョブズの共通点「自分の得意なことに集中する」

世界の大富豪はどんな哲学を持ち、その考え方や生き方に共通点はあるのでしょうか?

ジャーナリスト・桑原晃弥 氏の著書『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』(ぱる出版)より、一部を抜粋・編集して孫正義、J・K・ローリング、スティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグ、ピーター・リンチについて紹介します。


「やるからには、その世界で絶対に日本一になってみせる」

「孫正義 起業のカリスマ」
孫正義 (ソフトバンクグループ創業者)

日本を代表する起業家であり、資産家でもある孫正義は父親が十数軒もの店を持つ事業家だったこともあり、早くから事業家として成功することを思い描いていました。

そのために進学先として選んだのが東京大学合格者も多い進学校の久留米大学附設高校です。成績も良かった当時の孫は「東大経済学部を出て、事業をやろう。事業で日本一になるんだ」と考えていました。

しかし、2学期が始まるとすぐに孫は退学届けを提出します。理由はアメリカに行くためでした。当然、周りは強く反対しますが、孫は「周りと同じ歩調で同じ教科書を読み」、日本に何十万人もいる東京大学卒の肩書きを持っても意味はない、それよりも自分がどんな仕事をするかが大きな意義を持つと考え、一歩も退きませんでした。

大切なのは東大を卒業することではなく、どんな事業をやるかでした。アメリカへ渡り、カリフォルニア大学バークレー校を卒業した孫は1980年、日本に帰国、福岡市内の古いビルの2階に、ソフトバンクの前身となるユニソン・ワールドを設立します。そして何の商売を始めるか40に及ぶ事業アイデアについて資料を集め、綿密に調査します。

目指すのは小さな会社ではありません。「5年で100憶円、10年で500憶円、いずれは何兆円の規模にしてみせる」と、当時から熱く語っています。調査の結論がコンピュータ業界でした。孫は、本格的な卸のない日本でパソコンソフトの卸ビジネスを始めれば、圧倒的な1位になれると考え、81年に日本ソフトバンクを設立します。「やるからには、その世界で絶対に日本一になってみせる」と考える孫は「最初から大きく打って出る」ことでエレクトロニクスショーで強烈な印象を残します。1か月後、日本第2位の家電量販店・上新電機から連絡が入り、それをきっかけに「日本一のソフト販売店」をつくり上げたのです。

ここがポイント
最初からトップを目指して、勝てる土俵を選び抜こう。

「私がずっと望んでいたのは小説を書くことで、それ以外にはないという確信がありました」

「とても良い人生のために」

J・K・ローリング (「ハリー・ポッターシリーズ」作者)

女性が自分の力だけで大富豪になるのはとても難しいことのようです。億万長者ランキングに結婚、遺産相続、離婚(巨額の慰謝料)以外の自力でランクインする女性の比率はとても低いと言われていますが、その中の1人が世界中で5億部以上を出版、史上最も売れたシリーズ作品と言われる「ハリー・ポッターシリーズ」の作者J・K・ローリングです。

ローリングは子ども時代から物語を書くことが大好きで、大学も文学方面に進みたかったものの、両親の希望によりエクセター大学でフランス語と古典を学んでいます。しかし、社会に出てからも物語を書くことへの興味が尽きることはなく、実際に小説も書いていますが、いずれも日の目を見ることはありませんでした。

その間、最愛の母親を亡くし、短い結婚に敗れてシングルマザーとなり、仕事も失い、生活保護を受けるという貧しい生活の中、ローリングは「自殺を考える」ほどのうつ病にも悩まされます。たいていの人ならこれほどの厳しい生活を強いられれば、生きていくためにすべてを諦めたくなるものですが、ローリングは頭の中にはっきりと浮かんでいた「ハリーと魔法学校の物語」を書き続けることだけは決して止めようとはしませんでした。

「壮大な失敗」をして、何者にもなれなかったからこそ、ローリングには「自分の本領だと信じていた唯一の分野」、つまり物語を書くことで成功しようという強い決意がありました。1995年、30歳の時に完成した原稿はあまりに長編すぎて12の出版社から出版を断られますが、何とかブルームズベリー出版社との契約にこぎ着け、1997年に出版されます。最初のハードカバー版の刷り部数はわずか500部でしたが、評判が評判を呼び、やがて世界的ベストセラーとなり、映画も大ヒットします。過酷な状況にありながら、「自分の本領」を信じ、物語の完成に挑み続けたことが成功をもたらすことになりました。

ここがポイント
苦しいからと脇道にそれることなく、得意なこと好きなことをやり続けろ。

「5つの製品に集中するとしたらどれを選ぶ?ほかは全部やめてしまえ。あれもこれもではマイクロソフトになってしまう。そんなものにかかわっていたら、リーズナブルだけどすごくはない製品しか出せなくなってしまう」

「スティーブ・ジョブズ」Ⅱ

スティーブ・ジョブズ (アップル創業者)

アップルの創業者スティーブ・ジョブズの特徴の1つは、 「選択と集中」であり、「自分たちが本当に使いたいものだけをつくる」という考え方です。

1997年、倒産の危機に瀕していたアップルに復帰、暫定CEОに就任したジョブズが最初にやったのは、40種類もの製品を4つに絞り込むことでした。製品の種類は多く、それぞれに数多くのモデルがあるものの、マーケットリーダーと呼べるようなものはありませんでした。

ジョブズは増えすぎた製品ラインナップを徹底して絞り込んだうえで、その一つひとつにかろうじて残っていた一流のチームを集中させることで製品開発を進め、iМac、そしてiPodなどの大ヒット製品をつくり上げていきます。

ジョブズが大切にしていたのは「フォーカスとはノーと言うことである」です。企業というのは大きくなるにつれて、どうしても「あれもこれも」と手を出す傾向がありますが、その理由のほとんどは「他社がやっている」「売れている」といった曖昧なものです。そんなことを続けていると 製品の数は増え、売上げも多少は増えるものの、「リーズナブルだけどすごくはない製品しか出せなくなってしまう」というのがジョブズの考え方でした。

大切なのは自分たちが心の底から「使いたい」と思う、「すぐれた製品」をつくることであり、「すぐれていない」と思ったら、それにはさわらないことこそがすごい製品を生み出し、すごい企業になる秘訣だとジョブズは考えていました。

亡くなる少し前、ジョブズは訪ねてきたラリー・ペイジ(グーグル創業者)に「5つの製品に集中するとしたらどれを選ぶ? ほかは全部やめてしまえ」とアドバイスしますが、それこそがすごい製品、すごい企業をつくる最も大切な考え方だったのです。

ここがポイント
「集中」こそがすごい製品をつくり、すごい企業をつくり上げる。

「僕はこんな風に考えたんだ。皆、僕と同じ大学生だ。だから、自分に面白いものは皆に面白くて便利なものになるんじゃないかなって」

「Facebook 世界を征するプラットフォーム」

マーク・ザッカーバーグ (フェイスブック創業者)

今や「SNSの覇者」となったマーク・ザッカーバーグが「ザ・フェイスブック」というサービスを生み出したのは偶然であり、趣味の延長でした。ザッカーバーグは「早熟の天才」であり、早くからコンピュータを使ってさまざまなサービスをつくることを趣味にしていましたが、それは名門ハーバード大学に入学してからも変わることはなく、ザ・フェイスブックをつくり上げた年にも「12個のプロジェクト」を完成させています。

キャンパスで誰が一番「ホット」な人間かを決める「フェイススマッシュ」というサービスや、ある講義をどの学生が取っているかを知らせることで、講義の選択を助ける「コースマッチ」などをリリースして、いずれも大人気となっています。次に取り組んだのが「ザ・フェイスブック」でした。当時、大学は学生たちの交流のために男女の新入生の顔写真入り名鑑(フェイスブック)を毎年発行していました。

当然、デジタル版が望まれましたが、まだありませんでした。そんな友人たちの不満を聞いたザッカーバーグは「大学にやらせると2~3年はかかってしまう。僕なら1週間で、もっといいものを立ち上げてみせる」と豪語、その言葉通りに「ザ・フェイスブック」をつくり上げたのです。その時のザッカーバーグに会社を立ち上げるつもりはありませんでしたが、サービスに関しては自信を持っていました。理由はこうです。

「僕はこんな風に考えたんだ。皆、僕と同じ大学生だ。だから、自分が面白いものは皆に面白くて便利なものになるんじゃないかなって」

最初は単なる遊びであり、趣味の延長でしたが、ハーバードで爆発的にヒット、ほかの大学に広まるのを見て、会社をつくることを決意します。好きなことをとことん追求した結果がフェイスブック、そしてメタという世界企業へと発展していったのです。

ここがポイント
「好き」を追求した先に大きなチャンスが生まれる。

「テンバガー(10倍上がる株)を見つけるには、まず自分の家の近くから始めることだ」

「ピーター・リンチの株で勝つ」

ピーター・リンチ (フィデリティ・マゼラン・ファンド伝説のファンドマネジャー)

株式投資をする人間なら、誰だって大きく成長する株に投資したいと考えるものです。しかし、そんなものが簡単に見つかるはずはないとみんなが思い、そして「情報」に目を凝らします。有望株を見つけるのはとんでもなく難しいという思い込みに「ノー」を言うのがフィデリティ・マゼラン・ファンドの資産を在任中の13年間で700倍へと成長させた伝説のファンドマネジャー、ピーター・リンチです。

リンチによると、一般投資家の中には自分が日頃よく知っている企業や、普段から利用している企業を選ぶのではなく、あまり聞いたこともない、内容も十分に理解できないような企業へと好んで投資したがる人が少なくないと言います。毎日、食べているダンキン・ドーナツよりも、証券会社が推奨する一目見ただけでは何をつくっているのかさっぱり理解できないようなテクノロジー企業を選びがちです。

たしかに証券会社が示す「儲けのチャンス」は目を見張るほどですが、リンチはこうした説明を聞いても、何が何だか分からない企業への投資は避けるべきだとアドバイスしています。理解できない会社を理解しようとするのはとても難しいものです。だとすれば、たとえばドーナツを食べ続け、タイヤを買い続けているうちによく分かるようになった会社へこそ投資すればいいというのがリンチの考え方です。こう言い切っています。

「知っているものに投資すべきである」

将来、成長する株は証券会社の推奨する株だけとは限りません。 自分が暮らす街、日頃利用する店、日常的に利用しているサービスの中にいくらでもあり、そんなアマチュアの目で見た「これはすごいぞ」という発見の中にこそ、将来成長する株があり、 あなたをリッチにしてくれる株があるものだというのが「プロ中のプロ」リンチからのアドバイスです。

ここがポイント
理解できない株ではなく、自分がよく知る株にこそ投資しよう。

著者:桑原晃弥

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