今年イチアクション大作!こんなに映画って楽しくっていいんでしたっけ? 「RRR」茶一郎レビュー

はじめに

お疲れ様です。映画スクエアpresents「スルー厳禁新作映画」。この隔月の連載動画企画は映画情報サイト「映画スクエア」ご協力の下、普段の動画ではご紹介しづらい、都内限定公開や、小規模公開の新作映画を私が一通り観まして「紹介したい」と思った作品をピックアップして動画にするというものです。第5回目という事で、今回は完全に私、やられてしまいました。「R」が三つで『RRR』というインド映画のご紹介でございます。

とにかく純度の高いド直球で、無邪気な映画のパワーを感じられる『RRR』素晴らしい作品でした。映画中盤で「楽しくなりすぎて」涙を流すという情緒もグチャグチャになりました。こういう言い方はあまりしたくないんですが、公開されているうちに映画館でぜひご覧になって頂きたい。この動画をきっかけに『RRR』を観る人が一人でも増えますようにという思いも込めながら、映画スクエアpresents「スルー厳禁新作映画」第5回目の作品は『RRR』でお願い致します。

どんな映画?

冒頭の繰り返しです。『RRR』は大エンタメ作品、“大”娯楽作という形容に相応しいド直球の楽しいエンターテインメント大作です。3時間ある長い上映時間の中に、他の映画ではクライマックスになってもおかしくないゴージャスで、圧巻の見せ場が詰め込まれ映画のパワーをストレートに感じるパワフルな“大”“大”“大”“大”娯楽作。アクション大作として2022年『トップガン マーヴェリック』に並ぶパワー、映画の力を心の底から信じている作り手の無邪気なその映画への信仰心がスクリーンから溢れに溢れています。

映画を信じている人にしか作れないパワー。もしかしたらちょっと前にTwitterである一場面の切り抜き映像が出回って小バズしていたので、一場面だけでもご覧になった方いらっしゃるかもしれません。あれは決して本作のクライマックスではない、中盤のワンシークエンスに過ぎないという驚異の映画。Twitterのバズ、バス構文で消費するには勿体無い。一見、荒唐無稽で味が濃い、カロリーの高い画に見える見せ場DXパック、しかし一つ一つに確かなオリジナリティ、アイディアに富んだ見せ方があって味が濃いだけではない繊細さな工夫も堪能できる。とんでもない映画だなと、自分は映画中盤で「こんなに映画って楽しくっていいんだっけ?」と落涙してしまいました。今年を代表するアクション映画だと思います。

あらすじと本作の要素

1920年、イギリスに植民地支配されているインドを舞台に2人の主役を映していきます。1人目の主役、イギリスに対して暴動を起こしている異常な数の群衆に対して、烈火の如く一人で飛び込んだインド人の警察官A・ラーマ・ラージュ、ラーマ。一人目の“R”は“FIRE”の“R”。もうこの冒頭の群衆シーン、人の数の多さ、このゴージャスさに「ただ事ではないぞ」と。2人目の主役はイギリス人にさらわれてしまった一族の少女を助けるために、イギリスの公邸に潜入を図るコムラム・ビーム。筋肉と体術が正義な『グラップラー刃牙』的世界観、裸一貫で野生の虎を捕獲するという、これもとんでもないビームの登場シークエンス。二人目の“R”は“WATER”の“R”。

「火」と「水」、「水」と「炎」、片やイギリスに仕える警察官、片や方や反イギリスの男。ラーマは警察官である事を隠し、この決して交わってはいけない、交わらない2つの“R”が出会い、友情を育んでいく。もうこれもド王道の友情モノですね、ジョン・ウー作品『男たちの挽歌Ⅱ』。『ハートブルー』。マイケル・マン作品でもいいかもしれません。職業的に交わってはいけない男たちの友情が、その職業的な任務、立場を超えてしまうエロティックなブロマンスモノの王道ですよ。出会ってはいけない、友情を育んではいけない二人が出会ってしまう、握手!という、この『RRR』の軸にある「許されざるブロマンス」要素ですね。エロいですね。

本作のインスピレーション

監督は日本でもカルト的な熱狂を生みました「バーフバリ」二部作のS・S・ラージャマウリ。もう「バーフバリ」の監督最新作という事で、観ないという選択肢はないんですが。この二人の主役ラーマとビーム。僕はこの映画で初めて知ったのですが、実在のインドの独立運動家がモデルとページなっている。しかし現実では二人が出会うことはなかった。S・S・ラージャマウリ監督の本作構想のきっかけとして「もしラーマとビームが現実世界で出会っていたら?」という“if”だったとおっしゃっています。

加えてパンフレットの江戸木純さんもご指摘されていますが、インタビューによると最も本作のインスピレーション元となったのがタランティーノの『イングロリアス・バスターズ』だったという事ですね。タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』に続く、『ジャンゴ 繋がれざる者』、そして『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』この三作品は史実において、迫害されていた歴史の被害者に終わった者たちが、映画の中だけ、加害者に復讐を果たすという。現実の歴史を映画の力、映画の魔法でもって改変していく。ポエティック・ライセンスを超えた歴史修正。「歴史修正三部作」と言っても良いと思うんですが、そんな映画の力を借りた歴史修正が本作『RRR』に継承された「もし2人が現実世界で出会っていたら?」という歴史修正エンターテインメントが『RRR』ということです。

まぁ監督過去作の「バーフバリ」シリーズは神話的なフィクションの世界観だったので、無茶苦茶な映像を見せつけられても受け入れて拍手喝采でしたが、今回は一応、現実、歴史フィクションと、冒頭から「ナンジャコリャ」でしたが、「ナンジャコリャ」で良いんですよね映画は。映画の、フィクションのパワーが現実の世界観を覆いかぶして、現実の世界を変えていく、この映画的な快感が「バーフバリ」になくて、『RRR』にあるものですね。監督はネクストステージに行ったと。

豪快で繊細な味付け

何度も言っちゃうんですが楽しいんですよ『RRR』は。全ての見せ場が最高ですが、特にダンスシーン。「ナートゥダンス」。僕も不勉強で初めて知りましたが、2人の俳優のダンス体術。戦前に撮影されたウクライナ・キーウのゴージャスなロケーション。あと、お盆。シルバートレイ。これ映画ご覧になっていない方は何のこっちゃだと思いますが、社交ダンスをナートゥダンスが支配する瞬間のトレイの使い方とかですね、一々、見せ方とか小道具に気が利いていて、ただ味が濃い、カロリーが高いだけの、画力でゴリ押しするだけの映画じゃないぞと、一々のワンアイディアにもちゃんと感心させられて見事なエンタメだと思います。

若干、イギリス人を「ザ・悪役」と悪役として描く一辺倒な描写に首をかしげる方もいらっしゃるかもしれませんが、しっかりインド人に親近感を持つビームが恋する女性を配置したりですね、バランス感覚はある方とは思いました。悪役の描写とか、映画を超えて伝わってしまう政治的なド直球なメッセージは先ほども名前を挙げた『トップガン マーヴェリック』のそれに近い気もします。でもそんなの置いておいて、飛べよ!踊れよ!という“大”娯楽作のパワーを感じられる映画になってますよ。とにかく踊りましょう。コロナで実現は叶わないと思いますが、絶叫上映があったら叫びましょう!「バーフバリ!」「RRR!」と。

まとめ

圧倒的にゴージャスな見せ場のつるべ打ち。映画の力を信じている作り手による“映画の魔法”で歴史を修正して生まれた出会ってはいけない男と男の友情譚。そして無名の男二人が運動家、革命家として成長するヒーローオリジンでもある『RRR』。ストップモーションのキメ映像カッコいい。S・S・ラージャマウリ監督過去作同様、インド神話と物語を重ねる作劇もありますが、僕が読んで良かったのが勉誠出版から出ております沖田瑞穂さんの「マハーバーラタ入門 インド神話の世界」この辺りもぜひご覧になった方は、復習用にチェック頂ければと思います。

あと、JAIHOという配信サービスでS・S・ラージャマウリ監督の過去作も配信しております、中々観られなかった『チャトラパティ』という作品も観られます。これもトンデモない映画でしたね。もう配信終わってしまって残念なんですが、『炎』(ショーレー)という本作と同じくバディモノ、本作の基になっているインド伝説の作品も配信されていて、もしかしたらまた配信あるかもしれないので、『RRR』の熱狂が冷めないうちにチェック頂ければと思います。

「映画ってこんなに楽しくっていいんだっけ?」という、こんなの作られてしまったら困ってしまいますという『RRR』。ぜひ映画館でご覧いただきたいです。

【作品情報】
RRR
2022年10月21日(金)全国公開
配給:ツイン
©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.


茶一郎
最新映画を中心に映画の感想・解説動画をYouTubeに投稿している映画レビュアー

© 合同会社シングルライン