<社説>性犯罪規定見直し 被害者の視点が最優先だ

 法務省は、刑法の性犯罪規定の在り方を検討する法制審議会の部会に見直しの試案を示した。 強制性交罪などで処罰できる要件に関し、被害者を「拒絶困難」な状態にさせた場合とし、現行法で定める「暴行・脅迫」のほか、上司・部下や教諭・生徒といった関係性の利用など計8項目の行為・状態を例示した。

 要件を具体化、明確化するという狙いがあるのだろうが、被害者側団体が強く求めていた、同意のない性行為を広く処罰する内容は試案では採用されなかった。被害者の視点に立って、実効性のある法改正へ議論を深めてもらいたい。

 性暴力の被害は深刻だ。内閣府は7月、性暴力や性犯罪に関する相談が2021年度、全国のワンストップ支援センターに5万8771件寄せられ、前年度比14.9%増加したと発表した。19年に性暴力事件での無罪判決が相次ぎ、抗議の「フラワーデモ」が全国に広がった。

 今回の法務省の試案は「性交同意年齢」を現行の13歳から16歳に引き上げ、16歳未満への性行為は罰する。年齢が近い者同士の行為は罰せず、13~15歳は加害者が5歳以上年上でとしているが、年齢にかかわらず不同意の行為があってはならない。「対処能力が不十分であることに乗じた」という要件が入っている。あいまいな要件を付けることで被害者に立証責任を求めることになりかねない。

 「拒絶困難」な状態の考え方として、「拒絶の意思を形成、表明、実現」するのが難しい場合とした。「拒絶困難」を問われることについて市民団体は「拒絶困難という文言は誤解を生みやすく、これまでのように警察や検察、裁判の現場レベルで被害者に抵抗を求める運用になり、これまでと変わらないのでは」と懸念している。過去にも裁判官の裁量によって著しく狭く解釈される事例があったからだ。抵抗の証明を被害者に求める現行法と変わらないのではないかという懸念もある。犯罪成立を妨げるような要件を課すべきではない。

 公訴時効を強制性交で現行より5年延ばして15年とするなどの案についても被害者団体は「11歳で被害に遭い、フラッシュバックが起きたのは30代後半になってから。自分で忘れるようにしていたのだろう。尊厳を取り戻すために対処できる法律にしてほしい」と要望している。時効の時期の撤廃を含め再考してもらいたい。

 スウェーデンでは、18年に同意のない性行為を性的暴行とする法改正が行われたほか、欧州では相手からの同意のない性行為は違法だとする法改正が進んでいる。スペインで改正された法律は通称「イエスだけがイエス」の法と呼ばれているという。同意の意思表示がない場合の性行為はすべて性的暴行の罪に問われる法改正が必要だろう。

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