【イベント報告】トークイベント「忘れられた人道危機」を生きる人びと、ロヒンギャと共に

国境なき医師団(MSF)は、難民や移民の人びとが置かれた状況や医療ニーズについて紹介する「エンドレスジャーニー展・大阪~終わらせたい、強いられた旅路~」の開催に合わせ、会期中の10月8日(土)に同展会場内およびオンラインで、迫害を受け5年以上避難生活を余儀なくされているロヒンギャの人びとに光を当てたトークイベントを行いました。

今年の7月にバングラデシュのロヒンギャ難民キャンプを視察した国境なき医師団日本 事務局長の村田慎二郎に加え、在日ロヒンギャ女性で通訳・翻訳家の長谷川留理華さん、数々のロヒンギャ難民の現地取材を行ってきたルポライターの増保千尋さんをゲストに迎え、現在進行形のこの人道危機だけでなく、ロヒンギャの人びとの文化や歴史についても理解を深める内容のトークが、それぞれの写真とともに繰り広げられました。

村田からはバングラデシュの難民キャンプの苛烈な環境で5年間の生活を余儀なくされてきたロヒンギャの人びとの抱える深刻な医療問題とMSFの援助活動について説明がありました。
また、そこで出会った数々のロヒンギャのボランティアスタッフや難民の人びと交わした会話を振り返り、難民100万人分の一人ひとりのストーリーを忘れられた危機にしてはいけないと強く訴え、援助活動の継続の必要性を強調しました。

会場で参加した方からは「このような人道支援の活動は、どこを区切りに終わるのか、MSFとしてはどうなった時に支援を終えると決めているのか」というご質問をいただきました。それに対し村田からは、本来MSFは緊急事態において生命が脅かされている人びとに対する人道援助を行う組織であり、5年経過した今となっては、より開発援助を担う組織に引き継がれるべきだと説明しました。

増保さんからは、数年に及ぶバングラデシュでの取材を通じて交流を深めてきた2人のロヒンギャ女性の紹介がありました。ミャンマーで激しい性的暴行を受け、心と体に深い傷を負い、苦しみながらも力強く生きていこうとする女性、MSFのボランティアとして女性の性に関する正しい知識の普及に努める熱心な若いスタッフ——。そうした彼女たちの声なき声を代弁する増保さんの言葉と写真に対し、参加者からは「バングラデシュの難民キャンプで暮らす女性がスマホで撮影した故郷(ミャンマー)の風景写真を見て涙が止まりませんでした」といった感想がアンケートで寄せられました。

長谷川さんからは、幼少期よりロヒンギャとして一家が迫害を受ける中、祖国ミャンマーのラカイン州から当時の首都ヤンゴンへ、そして20年前、日本に辿り着くまでのご自身の体験についてお話がありました。
差別を受けたミャンマーから日本に逃れたものの、言葉も通じない日本の中学校では「毎日(お弁当の)カレーを食べているから肌が茶色い、気持ち悪い」といういじめに遭います。
しかし、そうした体験があったからこそ「食べることは人類に共通する。料理を通して私たちロヒンギャのことを知ってもらいたい」という思いでロヒンギャの伝統的な料理の数々を紹介くださいました。

長谷川さんはイベントの参加者に対してまず「知る」ということ、そしてそこから更に「広まる」ことを期待していると述べられました。またバングラデシュの難民キャンプでは子どもたちに対する「教育」が不足しており、医療へのアクセスと同時に教育支援の重要性を訴えかけました。

登壇者プロフィール

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