経営者4人に1人「反対」“男性育休“の現実 「取得しづらい…」企業と社員“意識の壁“を壊すには?

育児・介護休業法の改正に伴い、10月1日から「産後パパ育休制度」(出生時育児休業)が施行される。

現行の「育休」が子どもが生まれてから1歳までの間に取得することが定められていたのに対し、「産後パパ育休制度」では、名前の通り”産後(出生時)”に重点を置き、生まれてから8週間以内に取得することが定められた。

ふたつの制度を利用することで、父親は子どもが生まれてから1歳までの間で2回(それぞれ分割すれば4回)の休みを取得することができるようになる。

また原則として禁止されていた育休中の就労も、「産後パパ育休」に限り一部で認められる(※1)など、男性にとってハードルが高いとされてきた「育休」の取得率を上げるための施策が盛り込まれている。

(※1)労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能。就業可能日数や時間には上限がある。

育休を取得する男性は10人にひとり

男性の育児休暇の取得率は、ようやく10%を超えたばかり(令和3年度:13.97%)。上昇傾向ではあるが、政府が目標とする男性育休取得率30%台には開きがある。

男性の育休取得率の遷移(岐阜労働局 雇用環境・均等室「

改正育児・介護休業法について

」より)

その一方で、労働者調査により「育児休暇の利用を希望したが、利用しなかった男性」の割合は約37%にのぼることがわかった。育休を利用したいと考える男性が希望通りに取得できれば、政府目標を達成できる可能性は十分にあるだろう。

同調査では、育休を利用しなかった理由として「会社で育休制度が整備されていない」「育休を取得しづらい雰囲気」「収入を減らしたくない」などが挙げられ、企業の制度の不備が男性の育休取得を阻んでいる状況などもわかった。

このような結果も踏まえ、育児・介護休業法の改正では、今年の4月から「育休を取得しやすい雇用環境整備」と「個別の周知・意向確認の措置」が義務化されている。

たとえば、配偶者の妊娠・出産を会社に申し出た労働者に対して、事業主は休業の取得意向の確認を個別に行う必要がある。違反しても罰則はないが、労働局からの勧告に従わない場合には、企業名が公表される可能性がある。

”制度”だけではなく”意識”の変化も必要に

法改正によりハード面は一歩ずつ変化しているが、積水ハウスが行った調査からわかったのはソフト面の課題だ。

企業の「経営者・役員」の24%、「男性部長」の23%が男性の育休取得に”反対”の立場を示しており、男女や役職によって”意識”が違うことが明らかになった。

経営者・役員の4人に1人は育休に反対(積水ハウス「

男性育休白書2021特別編

」より)

一方「就活層」においては97.8%が賛成と答えた。「(就職先には)ワークライフバランスの良い会社を希望していたし、育休も当然その要素のひとつでした」と語るのは上智大学に通うKさん(男性)だ。就活時には、企業の育休や有休の取得率を確認していたという。

「育休を取り”たい”というよりも、取らないと育児参加できないという考えです。パートナーが子どもを産むとすれば就業機会を一定以上失われてしまうし、自分だけ仕事を優先させるのは違う。性別で社会進出の機会や家庭への従事が制約されるような時代じゃないと思います」(Kさん)

少子高齢化による労働人口の減少が進み、今後ますます優秀な人材の確保が難しくなっていくとされると日本企業。その中にあって、就職先人気ランキングの上位をキープし続ける「日本生命保険」は、9年連続で男性の育休取得率100%を実現している。

「経営者・役員」と「就活層」との意識の差を埋めることが、人材確保のためのはじめの一歩となりうるのではないだろうか。

なぜ「男性の育休」が推進されるのか

男性の育休取得というと、母親となった女性の手助けや男性の育児参加という「取得した人たち」のメリットに注目されがちだが、今後、企業が人材を確保する際に問題になるであろう「少子高齢化問題」とも関係がある。

厚生労働省の統計によれば、休日に男性が6時間以上家事・育児をする家庭では、まったくしない家庭と比べ、「第2子以降の出生割合」に8倍もの差があるという結果が出ている。さらに、女性の出産前後での「継続就業割合」でも、平日に男性が家事・育児を4時間以上する家庭では、まったくしない家庭に比べて1.4倍の差があった。

女性の継続就業・第2子以降の出産と、男性の家事・育児時間との関係(いずれも岐阜労働局「改正育児・介護休業法について」より)

日本の経済成長について、国際通貨基金は「急激な高齢化による日本の潜在成長率の低下に歯止めをかけるには、女性の就業促進がカギ」と述べ、「日本の女性労働力率が他のG7(伊を除く)並みになれば、1人当たりのGDPが4%上昇。北欧並みになれば8%上昇する」と発表している。

企業が男性の育休取得率向上に取り組むことで、自社の将来をも脅かす「少子高齢化」と、それに伴う経済への悪影響に一矢を報いることができるかもしれない。

「男性の育休」の実態とは?

実際に育休を取得した男性は今回の法改正にどのような感想を抱いているのだろうか。

育休を5か月間取得した、都内出版社に勤めるSさんは「子どもの大きくなっていく様子は、そばで見ていてとても楽しいもので、せっかくならその時間を、パートナーがいる方であればふたりで共有するのもいいのかなと思います」と男性の育休取得の率直な想いを口にする。

育休の制度については「整ってきていると思う」と評価しつつ、「あとは社会の空気が”男性が育休とる=みんなやってること”になればと思っています」と語った。

フリーランスで映像編集者として働くFさんは、国の制度としての育休がないため、当時の契約先と話し合いスケジュールを調整して1か月間”自主的な”育休を取った。

「泣きやまない子どもを辛抱強くあやし続けるとか、着替えた次の瞬間にうんちを漏らして片づけるとか、そういうしんどい時間に向き合えたことが大きかった。このしんどさに慣れていなければ、育児への参加がずっと人ごとになってしまった気がします」(Fさん)

育休について「一部の取れる人が取るもの」という印象を持っていたと話すFさんだが、今では『出生時育児休業』について「”義務”にしてもいい」と思うほど考えが変わったという。その上で、フリーランスに”育休”の制度がないことについては次のように語った。

「運よくオファーをいただいた仕事先に承諾してもらえたので、”育休”として休むことができましたが、オファーを断って”無職期間”を過ごす可能性もありました。フリーランスにとって頼まれた仕事を断ることは、経済的にも仕事上の人間関係的にもすごくリスクが高い。”労災”が認められたように、フリーランスであっても制度として”育休”が取得できるようになることを強く願っています」

法改正を経て、男性の育休取得率は上昇していくことが予想される。今後男性の育休を”当たり前”と考える社会風土の実現に向け、国・企業には当事者らの声を聞く姿勢と柔軟な対応が求められている。

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