コロナ感染の虚偽申告で“ズル休み”取得も…代償は「詐欺罪」の最悪事態

今年8月、佐賀県の40代男性職員が「家族が新型コロナに感染した」と嘘の申告をし、不正に特別休暇を取得したとして、停職3カ月の懲戒処分となった。職員は2カ月間に3度、特別休暇の不正取得をしており、不審に思った上司が感染証明の書類提出を求めたところ、偽造した陽性証明書を提出。そこに記載されていた病院へ確認したところ、受診記録がないことが判明したという。

コロナを理由にした“ズル休み”続々

新型コロナを理由にした“ズル休み”は、官民問わずこれまでも発覚・報道された事例が複数ある。

  • 大津市職員
    30代の女性職員が特別休暇を取得しようと「新型コロナ陽性だった」と虚偽申告したとして、減給10分の1(2カ月)の懲戒処分となった。上司が医師の名前を問いただしたところ、虚偽を認めたという。職員は普段から体調不良を理由に休みがちで、有給休暇が少なくなってきたため、コロナの特別休暇を利用しようとしたとのこと。
  • セブンイレブンの従業員
    つくば市内の店舗に勤務していた従業員が「東京都内の医療機関で検査したところ、新型コロナ陽性判定が出た」と申告。当該店舗は休業を発表したものの、茨城県とセブン‐イレブン・ジャパンは陽性判定の確認が取れなかった。その後、従業員がオーナーへ虚偽を申告し、同社の調査にも虚偽報告を認めた。従業員は「転職を考えており、退職の理由にしたかった」などと説明したという。
  • 障害者就労支援会社の職員
    浦安市の事業所に勤めていた職員が「新型コロナに感染した」と連絡。翌日から事業所は休業し、事業所を訪れていた人らが自宅待機を強いられるなどの影響が出た。その後、改めて職員に確認したところ「仕事を辞めたかったので嘘をついた」と認めた。本人はその後、退職したという。

“ズル休み”で詐欺罪に問われる可能性も

新型コロナを理由に休暇を不正取得することに、法的問題はないのだろうか。また、公務員と民間企業の従業員とで、扱いに違いはあるのだろうか。公務員経験のある河合淳志弁護士に聞いた。

「新型コロナに感染した」「家族が新型コロナに感染し濃厚接触者になった」などと虚偽の申告をして職場を休むことの法的問題を教えてください。

河合弁護士:実は「嘘をついて休むこと」自体を罪に問うことは難しいです。しかし、そこから発生する実害や、派生した行動によっては、刑事責任を負う可能性は十分あります。

たとえば虚偽申告で職場を休んだことにより業務を妨害したり、進めづらくすることになれば「偽計業務妨害罪」に問われる可能性があります。また、陽性証明書の偽造は「私文書偽造罪」に当たります。

さらに、特別休暇など補助金の出ている制度を悪用して休暇を不正取得すれば、給料の補填をしてもらった、つまり金銭的な利益を受け取ったということになりますので、「詐欺罪」が成立する可能性も十分あります。

これらの刑事責任は、公務員も民間企業の従業員も変わらず負うことになります。

休暇の不正取得について、公務員と民間企業の従業員とで扱いが異なることはありますか?

河合弁護士:不正発覚後の「処分」という点では、公務員なら「地方公務員法」「国家公務員法」によって減給、停職、免職といった懲戒処分が下されます。

一方、民間企業の従業員の場合は、各社の就業規則に従うことになります。もし不正に対して厳格な規定がなされているのであれば、公務員よりも処分が重たくなる可能性もあると言えるでしょう。

公務員の不祥事については「民間と比較して処分が軽い」と叩かれる傾向にあり、前述の佐賀県職員や大分市職員の事例でも、同様の意見が見受けられました。こういった指摘について、河合先生はどのようにお考えでしょうか?

河合弁護士:まず、公務員の処分が軽いと叩かれる傾向にある理由の一つに、「官公庁の業務に代わりがない」ことが挙げられると思います。民間企業であれば、他社でも同様のサービスを提供しているケースがほとんどです。しかし、例えば住民票の発行などは、役所以外にやってくれるところがありません。そういった意味で、公務員は自分たちが代わりの利かない業務をしているという自覚を持たないといけません。

ただし、事例にあった佐賀県職員、大津市職員が今回初めて不正をしたのであれば、処分は相当だと思います。もし今後も同様の不正を繰り返し、改善されないのであれば、懲戒免職もあり得るのではないでしょうか。

新型コロナの虚偽申告について、雇用側(企業、官公庁)が何らかの対策をすることは可能なのでしょうか?

河合弁護士:100%完全に対策することは難しく、できることは「診断書の提出を求める」「同居する家族に確認する」くらいしかないと思います。あとは、普段からその人の動向を観察するという手もありますが、そこまで管理できるのかというと、なかなか現実的ではないのではないでしょうか。

新型コロナの事例ではありませんが、百貨店で催事をする企業の従業員1人が、催事当日に連絡が取れなくなり、そのまま退職してしまったということがありました。その企業は従業員が4~5人しかおらず、代わりの従業員を派遣することもできずに、百貨店との取引がなくなってしまったそうです。結果的に企業側は多大な損害を被りましたが、裁判所は「企業が代わりの人材を用意しておく必要がある」との見解を示していました。

この事例からも、企業や官公庁が「虚偽申告による“ズル休み”」に対して法的責任を追及するのは難しいのではないかと思います。

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