DV相談急増で需要拡大「シークレット引越し」とは? 業者が語る“緊迫”現場

「男女共同参画白書 令和4年版」によると、2020年度に「配偶者暴力相談支援センター」へ寄せられたDVに関する相談件数は12万9491件で、過去最高となった。件数は年々増加しており、2014年以降、7年連続で10万件を超える高水準となっている。

そんな中で注目を集めているのが、配偶者や近隣住民に知られないよう引越し作業をしてもらえる「シークレット引越し」。実際にサービスの提供をしている業者に話を聞いた。

盗聴対策のため、やり取りはメールで

「離婚、ストーカー、DV被害などの場合は盗聴の疑いがあります。なのでメールでのやり取りをします」

そう語るのは、神奈川県内の運送会社でシークレット引越しサービスに携わるAさん。実際、どのように引越しを進めるのだろうか。

「基本的に、見積もりは荷物の写真をメールで送っていただき、引越し当日の状況から車両、スタッフ人数を算出して金額を提示しています。家財をトラックに積み込んだ後、移転先に移動する際に尾行される不安がある場合は、いったん家財をお預かりして、後日搬入する事も可能です。

なお、大型の家具や家電などの搬出はあまりおすすめしていません。どうしても時間がかかりますし、何より目立ってしまいます。

とはいえ、これから新しい生活を始めるためにどうしても持っていきたいという方は多数いらっしゃいます。運び出すリスクを説明して、それでも持っていきたいという場合は対応しています。

また、小物などの箱詰めも、事前に準備できない場合がほとんどです。なので、引越し当日のスケジュールはこまめに打ち合わせしています」(Aさん)

その他、引越し当日の作業においても、“シークレット性”を保つために工夫していることがある。

「荷物の積み込みに使用する車、トラックには、引越しを連想させるようなロゴはつけていません。ご希望ならば、スタッフも私服で作業します。

所要時間については、夫婦、子ども3人、夫の父母という7人で同居しているご家庭から、奥さまとお子さま3人の荷物を2tトラック満載で運び出した事例では、当日に小物の箱詰めをしながら、2時間ほどで積み込みが完了しました」(Aさん)

コロナ禍で需要が増加

Aさんの会社でシークレット引越しを始めたきっかけは、“お客さまの声”だった。引越しの要望を細かくヒアリングするうちに「近隣の人や、ある特定の人に知られないように作業を終わらせてほしい」という人が多くいることがわかったという。

「お問い合わせ件数はコロナ前より後の方が増加しています。その大半は、家庭でのトラブルによる離婚、家出、ストーカー被害によるものです。

シークレット引越しを希望する方は、様々な事情を抱えています。どうしても必要でない限り、こちらから事情について聞くことはありません。しかし、もし不安なことがあれば、どんな些細なことでも相談していただき、しっかりと事前の打ち合わせをできることが成功の秘訣です」(Aさん)

もしDV被害を受けている、またはその疑いがある場合、一人で抱え込むことは禁物だ。引越しを検討する事前相談先のひとつとして、内閣府男女共同参画局が運営する「DV相談+(プラス)」がある。専門の相談員が24時間、電話・メールで相談を受け付けており、緊急の宿泊提供も行っている。

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