誹謗中傷の犯人“特定”迅速化も…「発信者情報開示請求」法改正でも残る“厄介”な問題

西武ライオンズ・源田壮亮選手の妻で元乃木坂46の衛藤美彩さんが、インスタグラムのDMで匿名アカウントから誹謗中傷を受けたところ、そのアカウントの持ち主が同じく西武ライオンズに所属する選手の妻だった――。球団ファンでなくとも、この騒動に衝撃を受けた人は多いだろう。

DM発信者としてチームメイトの妻が浮上するきっかけとなったのが「発信者情報開示請求」。裁判所への申立てを経て、メッセージを発信した人の氏名や住所が開示されるというものだ。10月1日には「改正プロバイダ責任制限法」が施行され、手続きが簡略化したことで、迅速な被害者救済や誹謗中傷の抑止効果に期待が寄せられている。

迅速化の一方「情報不足で停滞するリスク」も

ネットで名誉毀損や誹謗中傷をした場合、発信者(書き込んだ人)は民法上の不法行為に基づく損害賠償責任を負う。また書き込みの内容によっては、「侮辱罪」「名誉毀損罪」「業務妨害罪」など、刑事上の犯罪が成立する可能性もある。

被害者は、発信者情報開示請求をして加害者の住所、氏名、電話番号などを特定することで、

  • 民法上の不法行為に基づく損害賠償請求
  • 捜査機関に対して発信者の告訴・告発を行い、刑事上の責任を問う

といった対応ができるようになる。

従来の発信者情報開示請求では、SNS事業者(コンテンツプロバイダ)、インターネット接続事業者(アクセスプロバイダ)を相手にそれぞれ裁判を行う必要があったため、発信者の特定に時間がかかっていた。しかし、前述のように改正法が10月1日に施行されたことで、裁判手続きが1回で済ませられるようになり、迅速化が期待されている。なお、施行後初の開示申立てでは、裁判所がわずか3日でプロバイダ情報の提供命令を出し話題となった。

発信者情報開示請求の仕組み。左が旧法、右が改正法(総務省「

プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律(概要)

」より)

しかし、誹謗中傷の問題に詳しい杉山大介弁護士は「運用の問題はまだ残ってると思った方が良いです」と指摘する。

「改正法によって、加害者の特定までどのくらいの期間に短縮されるかは、正直わかりません。単純計算すると、今まで3~6カ月かかっていたアクセスプロバイダへの情報開示訴訟がなくなる分、早くなるのですが、コンテンツプロバイダが情報提供するプロバイダ先と提供する情報を選ぶため、場合によっては情報不足によって停滞するリスクもあるかと思います」(杉山弁護士)

目先のお金のことだけを考えてやるものではない

発信者情報開示請求を検討している人にとって、最も気になるのは「費用倒れにならないか」ということだろう。法改正によって手続きが簡略化されたことで、被害者の負担も軽減すると期待されている。しかし、実際に発信者情報開示請求を経て、加害者を相手に損害賠償請求訴訟を起こすには「それなりの強い意志と目的が必要」と杉山弁護士は言う。

「刑事告訴などと組み合わさって、費用よりも大きい支払いを受けられたという事案もあるのは確かですが、目先のお金のことだけを考えてやるものではないと思いますね。そのアクションによる抑止効果とか、あるいは『肉を切らせて骨を断つ』ぐらいの闘争心とか、それなりに強い意思と目的を持ってやるべきです。開示請求先や事案の内容によってかかる費用も変わるので、一概に『いくらぐらい』とは言えません」(杉山弁護士)

なお、改正法の附則には「政府は、この法律の施行後5年を経過した場合において、新法の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」と記載されている。改正法での運用を重ねることで問題点が発見されたとしても、今後も被害者救済に資するようになっていくことに期待したい。

※「違法・有害情報相談センター」(総務省支援事業)では、インターネット上の違法・有害情報への対応に関するアドバイスや関連の情報提供などを実施。開示請求の方法などについての相談も受け付けている。

© 弁護士JP株式会社