「ニセ機長」わいせつ行為で逮捕…違法すれすれ「コスプレ」即“アウト”な振る舞いとは

「アイアムキャプテンS(実名)! 道案内するよ」

関西空港でANAのパイロットの制服を着て、外国人留学生の女性に声をかけ、無理やりキスをするなどしていた自称会社経営者のS(26=大阪府泉大津市)が9月14日、わいせつな行為をした疑いで大阪府警に逮捕された。

Sは関西空港の第1ターミナルビルのロビーで、日本に到着したばかりの20代留学生に道案内をすると声をかけタクシーに同乗。タクシー内で女性の髪をなでたり、キスをしたりしたという。さらに女性が宿泊する予定だったホテルに着くと、自分も強引に部屋に入り、抱きついたりキスをしたりしたという。被害者女性が警察に相談し、事件が発覚した。

調べに対しSは、「パイロットに憧れていた」と供述しているが、わいせつ行為については「無理やりではない」と容疑を否認しているという。

Sは、ニセモノのANAの機長の制服に身を包み、首から社員証を下げ、カートを引く完璧な“コスプレ”で女性に声をかけていた。空港スタッフの間では以前から、機長のコスプレをして空港内をうろつくSの姿が目撃されていたという。

「日本におるんやったら、日本に従え!」

逮捕に先駆け、ことし7月には、ツイッター上で炎上案件を追っている滝沢ガレソ氏が、南海電鉄内で外国人女性に執拗(しつよう)にカラむSの動画をツイートし、話題となっていた。

〈【悲報】電車にてANAの制服を着た男が外国人女性にダル絡みしてトラブルに…〉と題されたそのツイート。約1分間の動画も添えられており、パイロットの制服に身を包んだSが、ベロベロに酒に酔った様子で、隣に座った女性にカラむ一部始終が撮られている。

Sは女性の髪を触ったり、肩に腕をかけたりしているが、女性は迷惑そうにしている。電車が駅に着くと、Sはトランクケースを引いて席を立とうとするが、足元はフラフラでおぼつかない。キレた女性は、「You can,t even walk(まともに歩けもしないじゃん)」、「Fuck Off(出ていけ)」、「Get Out(降りろ)」、と激怒するとSは、「お前らここは日本や」と逆ギレ。女性に「What company are you working for(どこの会社に勤めてるの?)」と詰め寄られると、ニセの社員証やトランクに貼られた「ANA」のステッカーを見せつけている。

その後は、フラフラになりながら、「お前ホンマにな、日本におるんやったら、日本に従え!」と捨て言葉を吐きながら、駆けつけた駅員につまみ出されていた。

動画がアップされると瞬く間に拡散。夕刊紙記者が語る。

「Sのツイッターやインスタグラムなども特定され、バツイチ子持ちで、幼少期からパイロットに憧れ、真偽のほどは不明ですが、航空会社設立を目指していることなども書き込まれていました。機長のコスプレをして、日本に来たばかりの若い女性を狙ってナンパを繰り返していたようです」

9月にSが逮捕されたことが報道されると「警察GJ(グッジョブ)」などと、逮捕に安堵(あんど)する書き込みもあった。

“迷惑防止条例違反”にあたり得る

ハロウィーンなど日本にもコスプレの文化が根付いているが、こうした「他人に迷惑をかけるコスプレ」は犯罪となり得るので注意が必要だ。

軽犯罪法第1条には、「官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作った物を用いた者」(第15号)を、「拘留又は科料に処する」とあり、コスプレをして警察官や自衛官、消防士などになりすまして、詐称行為をすると犯罪となる可能性がある。

もちろん、パイロットのコスプレでも違法行為に問われる可能性もある。ベリーベスト法律事務所川崎オフィスの今村隆信弁護士が解説する。

「もし、パイロットであることを利用して金品等を受け取ることがあれば、詐欺罪の容疑がかかる可能性があると思います。また、今回は、強制わいせつの容疑がかけられていますが、行為態様がもう少し軽微で強制わいせつに該当する程度に至らなかったとしても、女性に対して行った行為によっては、迷惑防止条例違反にあたり得ると思います。

さらに、今回、ANAの機長を名乗っています。名乗っただけでは罪にまではならないと思いますが、もし、機長として、何か不法行為や犯罪行為をした旨を摘示する行為等があれば、名誉毀損(きそん)罪の容疑がかけられる可能性も出てきます」

“CA”のコスプレでトラブルに発展したケースも

「パイロットのコスプレを用いた犯罪行為」といえば、米空軍の制服姿に身を包み、「アメリカ空軍特殊部隊パイロット」を名乗り、70年代から90年代にかけて結婚詐欺を繰り返していた「クヒオ大佐」も思い出される。

「クヒオ大佐」こと北海道出身の元自衛官のこの男。空軍パイロット、カメハメハ大王の末裔(まつえい)、母はエリザベス女王の双子の妹などと吹聴し、逮捕歴は10回以上。“伝説の結婚詐欺師”だ。最後の逮捕は1999年だが、被害総額は1億円以上と言われ、2009年には、堺雅人主演で「クヒオ大佐」として映画化までされた。

またパイロットに限らず、ある航空会社のCA(キャビンアテンダント)のコスプレでトラブルに発展した事例もあるという。前出の夕刊紙記者が続ける。

「かつて男性向けヌードグラビア誌で、AV女優に某航空会社のCAの制服を着せ、羽田空港内でカートを引いて歩く様子を撮影し、その後、ホテルに移動しヌード撮影に及び、あたかもその会社の実際のCAが脱いだかのように誌面に掲載した例がありました。実際、その出版社は後に、その航空会社から告訴されています」

コスプレを悪事に利用するのはご法度。前出の今村隆信弁護士はこう話している。

「コスプレをすること自体は問題ありませんが、なりすまして不法行為をすれば、当然、違法行為を問われる可能性があります。コスプレはあくまでイベント会場等でルールを守って楽しむなど、他人に迷惑をかけないことを心掛けてほしいと思います」

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