ホストから「メンコン」へ? 少女たちがハマる夜の“トライアングル”経済の実態

NHKの報道番組で取り上げられたことをきっかけに、物議をかもした「メンズコンセプトカフェ(以下略称メンコン)」をご存じだろうか。

東京の新宿・歌舞伎町、池袋、秋葉原、大阪のミナミ(難波・心斎橋・道頓堀・千日前などの総称)などに多く点在しているメンコン。主に20代前半の男性キャストが、「病院」「和服」など特定の世界観(コンセプト)が演出された店内で、お客をもてなす”カフェ”のことで、10~20代の女性を中心に人気を集めている。

お気に入りの”推し”キャストと「ツーショットチェキ」を撮れる有料サービスや、店に通いポイントをためることで「デート」権などが得られるといった特典が用意されている店もある。

報道番組内では、”推し”に少しでも多く会うため、「パパ活をして金銭を得、店に通い続ける少女がいる」実態を明らかにしていた。放送後のSNS上では「色恋を絡めて搾取してるのか」「未成年者に”接待”しているなら、風営法にひっかかるのでは…」「未成年者が貢いでも取り消しは効かないの?」など店のシステムに対する疑問が多く寄せられた。一方で、「番組内でも触れてはいるが、まっとうなコンセプトカフェもある」との意見もあった。

少女たちがパパ活をしてまで通いたい”魅力”とは何か。実際には、どのような「接待」が行われているのか。SNSに流れるコメントの真偽を確かめるべく、1軒のメンコンに入店した。

”未成年者”の入店は禁止!?

平日18時頃、新宿・歌舞伎町にある店舗の重たい金属製のドアを開けた。一目で店全体が見渡せるほどの広さで、窓はない。開店直後でもあり、女性客の姿はなく、コンセプトに沿った衣装に身を包んだ若い男性たちの目が一斉にこちらを向いた。

「お目当てのキャストはいますか?」と聞かれ、初めて来店したと告げると「年齢確認できるものを」とうながされた。この店では数週間前から未成年者の入店を禁止したようだ。前出の番組の影響も何かあったのかもしれない。

キャストではなく”スタッフ”の男性に席に案内され、メニューの説明を受けたあと「好みのタイプ」を聞かれて待つこと3分ほど。飲み物を持ってきた男性が「開店直後でバタバタしていてすみません」とテーブルの横に立った。

コウキ(仮名)と名乗る細身の男性は、店長とのことで、話ながらも店を見渡し目端を利かせていたが、年を聞けば21歳だという。話題やマスクからはみ出た肌に見えるニキビからも、どこか幼いあどけなさを感じた。

20分ほどすると別の男性が席に近づき、コウキに対して交代のハンドサインを出した。一般的なキャバクラ店同様、客側が「指名」をするまでは、15分前後でキャストが入れ替わるシステムのようだ。

伝票にはテーブルを担当したキャストの名前が記入されていく

「おねだりが得意な人は売り上げが高い」

テーブルの横に立って話をしていたコウキとは違い、カイ(仮名)と名乗る男性は博多弁で「座ってもいいと?」と尋ね、隣のテーブルの席に腰を下ろした。学校の教室の席間ほどの距離感といったところだろうか。

昼間は大学生として法学部に通っている。話の内容は”普通の大学生”だが、相手の目を見つめ、時折ほほ笑みかけてくる表情は立派な”キャスト”である。

「褒めるのが苦手」とはにかむカイが「褒めたり、おねだりが得意なキャストは売り上げが高い」と教えてくれた。「シャンパン頼んでよとか、チェキ撮ろうよとか言える人が強いっちゃね。お店的に手に触るくらいはOKやから、そういうのがうまい人もおる…もちろん女の子が嫌やったら、言ってくれたらせんよ」。

そんな話を聞いている間に、女性客が入店し始めた。時刻は18時半ごろ。客が少ない時間帯は、手の空いているキャストが歌舞伎町の路上に出て呼び込みをしているのだという。

ツインテールのいわゆる”地雷系”ファッションのひとり客と、ふたり組で来ていたピープスファッション(ダークカラーの洋服を用いた原宿系)に身を包んだ少女ら。年齢確認があるため、いずれも18歳以上のはずだ。大学生だろうか。それぞれお目当ての”推し”がいる様子で、男性が近づくとすぐに談笑をはじめた。

カイが「前は未成年もきていた」と話すので、詳しく聞くと、「他のお店では未成年を入れてるところもある。うちのお店は、きっと”風営法”とかの関係で厳しくしたんだと思う…って、よくわからんちゃけどね」と答えてくれた。

日中は法学部で学ぶ学生だ。「よくわからんちゃけど」とチャーミングに濁した部分も、本当は理解しているのかもしれない。

「接客」か「接待」か問題

これまで未成年者が入店していたコンカフェ店舗が規制をかけた理由として、「風営法」の許可申請が考えられる。しかし店の中に許可証らしきものは見つけられなかった。

風営法の許可を取れば、午前0時まで(一部地域は午前1時まで)と営業時間が規制されるが、代わりに「接待」ができるようになる。

”接客か接待か”の判断基準は曖昧だ。法律上で「接待」は「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」としか規定されていない。

風営法第1章に「接待」の定義が書かれている(

e-Gov法令検索

より。一部編集部で加工)

これまで「カウンター越しであれば接待にあたらない」と通説のように言われていたが、2021年に、風営法に基づく許可がないのにメイド服姿の女性店員がカウンター越し男性客を接待していたとして秋葉原のメイドカフェ5店舗が一斉摘発された。

無許可の「接待」は”ぼったくり”と親和性が高いワケ

風営法に詳しい杉山大介弁護士も「身体が触れたりすると接待の側面が強くなるため、接待ではないバーやカフェは机越し、接待のキャバクラやホストはソファの隣に座ることが多いのですが、机越しだからセーフというわけではありません」と話す。

その上で、許可をとらないバーやカフェについて、「許可を取ればできる接待を、わざわざ無許可でやるのは深夜営業をしたいからです。違法でも利益を上げようとする店ということでもあり、自然とぼったくりと親和性が高くなります」と客として入店する際のリスクについて指摘する。

さらに杉山弁護士は「こういう店舗(無許可の店)には、法人にも名前を出さず複数業態に関与している”裏の経営者”のような人がいる場合がある」と続ける。お金を支払えなくなった客に対し、風俗店など自身の経営する店舗で働く話を持ち掛けるケースも一部ではあるという。

保護の観点から、未成年の浪費などについては「取り消し権を使える場面自体は多い」(杉山弁護士)が、その一方で「民法5条3項にあるように、多かろうが”お小遣いの範囲”なら自身で自由に”処分”できます」(同)。

したがって、メンコンのチェキやドリンク、地下アイドルのグッズ、実況配信のスパチャなど、未成年者は過剰化しやすいものの、「違法とまではならない」(杉山弁護士)のが現状だ。

夜の街の「トライアングル」

チャージ料金と自分の飲むドリンクでお会計は2000~3000円(初回はサービス料金が用意されている店もある)。チェキやキャストドリンクも頼めば一度に4000~5000円。”推し”のおねだりによりシャンパンを頼めば数万円の出費になる。「推しとふたりきりでプリクラ」「カラオケ」「デート」などのポイント特典を狙い、毎日のように通いつめれば、言うまでもないだろう。

中高生の”お小遣い”はおろか、成人した大学生だったとしても、限られた時間のバイト代だけで賄える金額ではない。

この日、入店していた他の女性は、キャストとだけ目を合わせ、他のテーブルの様子を気にすることはなかった。彼女たちの”推し”であるキャストもまた、彼女たちだけを見つめ、ふたりの世界を作りあげていた。一般的なカフェやレストランで、女性とキャストのような親しげな距離感の男女を見れば、多くの人が恋人同士だと思うだろう。

「ホストやメンコンで働く男がいて、その男たちに振り向いてほしい女の子がいる。女の子たちは振り向いてもらうためのお金がいる。その子たちに俺らが(夜の)仕事を紹介する。俺らはトライアングルなんだよね」

帰り道、歌舞伎町の路上で声をかけてきたスカウトは悪びれる様子もなく話した。

© 弁護士JP株式会社