大石始によるノンフィクション『南洋のソングライン ―幻の屋久島古謡を追って』がキルティブックスより11月20日(日)に刊行される。 かつて屋久島で歌われていた「まつばんだ」は、琉球音階が取り入れられた民謡。ただ、屋久島は沖縄や奄美からはるか北方にあり、琉球文化圏ではない。なぜ屋久島に琉球の名残があるのか、ごくわずかな例を除いて本格的な調査が行なわれてこなかった。それならばと、大石始らが3年がかりでフィールドワークを敢行。そこから見えてきたのは、沖縄~鹿児島~南西諸島に暮らす海洋民たちの生活史だった。 同時に、この民謡を復活させようとする島民たちの活動も追っている。本書は、そんな旅や歴史民俗の要素を含んだノンフィクション書籍となる。
推薦コメント
消えゆくものは 消えてゆく
その理由は 誰ひとりとして
それを思い出さなかったから…
たったひとりでもいい
「それを決して忘れたくない」
と切望する人がいれば
“それ”は未来へと運ばれてゆくのだ
──宮沢和史(シンガーソングライター)
降りすぎる雨の中 険しすぎる山道を
幻の古謡の放つ香りに手まねきされて 奥へ奥へと
自然の強さにかき消されそうになりながら
それでも確かに聴こえてくる
おばあからおばあへ受け継がれた
歌の鎖を辿って山頂へ
その道は海を渡り どこまで続いているのだろう
──コムアイ(アーティスト)
ページをめくるたびに 次々と歌の新たな航跡が現れ
最後には見たことのない
新しい地図が自分の頭に浮かびあがってくる
島を旅するための手がかりに満ち満ちた
気持ちの良い本でした
──石川直樹(写真家)
著者・大石始からのコメント
歌の本質はいったいどこにあるのか。この本の取材を進めるなかで、常にそう自問自答していたような気がしている。僕はここで“まつばんだ”を伝え、歌った人々の個人史を綴ろうとしていたのだと思う。郷土史にさえ載っていないような小さな物語を拾い集めること。しかも島の外部に生きる人間として、そうした物語を繋ぎ合わせ、そこから浮かび上がってくるものに目を凝らすこと。ただし、本書の軸をなしているのは、あくまでも「彼らの物語」であって、「僕の物語」ではない。この本は屋久島に住む人々の物語に部外者である僕が触れた結果でもある。屋久島の物語は必ずしも島民だけが繋いできたわけではない。琉球や山川、与論島からやってきた海民たちや薩摩藩の役人たち。あるいは屋久島に導かれてやってきた移住者たち。彼らが紡いできたものも物語の一部を形成している。屋久島の個人史は実に多様で、島の内部と外部を巡る関係もまた決して単純なものではない。だからこそ、“まつばんだ”のように多層的な歌が育まれてきたのだ。(あとがきより)