企業研修業界にも地球環境や人を重視するリジェネラティブな視点を ノルウェーで始まった連携

宿泊施設の一つ「The Arctic Hideaway」 Image credit: The Arctic Hideaway

企業のサステナビリティへの取り組みが広がる中、ノルウェーでは9軒の宿泊施設が集結し、本質的に持続可能で、リジェネラティブな体験を企業の研修旅行に取り入れ、企業研修の在り方を再定義しようとする試みが始まっている。9軒が参画するプラットフォーム「Ærli(アーリ)」について代表者らに話を聞いた。

企業研修というと堅苦しいイメージがある。簡素で代わり映えのしないホテルの会議室で、参加者らが机を囲み、KPI(重要業績評価指標)や売上高に関する説明を聞きながら、眠気を覚ますために時間が経過し古くなったコーヒーを一杯、二杯と飲み干していく――。

しかし、社会的責任・サステナビリティに関する話題が研修の中核になってきているのなら、企業研修そのものも従来の在り方から変わる必要がある。サステナビリティに配慮した環境の中で、チームを新たに活気づける行事に参加させることは、社員にとっても研修のテーマに積極的に取り組むための最善策ではないだろうか。

ノルウェーでは、9軒の施設が参画するプラットフォーム「Ærli」が環境と組織の両方を修復・再生することを目指し、リジェネラティブな(再生型の)社員研修を提供する試みが始まっている。

プラットフォームを立ち上げたコンサルティング会社「Æraストラテジックイノベーション」のオイスタイン・ハーゲンCEO兼設立パートナーは、米サステナブル・ブランドの取材に対し「われわれのプラットフォームには、企業の人々がサステナビリティに関する議題を実践する研修の場を提供することが可能です」と胸を張る。

ハーゲン氏の会社はこれまで、幅広い業界のサステナビリティに関連するプロジェクトを手掛けてきた。2020年までの数年間、ノルウェー政府が実行してきた数字を重視した観光政策によって生じた課題は世界の国々も共通して直面している問題だ。こうした状況を受け、同社は独自にサステナビリティに取り組む宿泊施設を支援する方法の開拓に乗り出した。こうして、サステナブルな施設運営や食事、ツアーなどを提供する9軒の宿泊施設が参画するプラットフォーム「Ærli」は誕生したのだ。

2022年6月に正式に立ち上がったÆrliは、サステナビリティの本質を取り入れることを目指し、主にサステナビリティ課題をテーマに開かれる企業研修で使用できる革新的な施設を増やしている。

「Pan Treetop Cabins」Image credit: Pan Treetop Cabins

ハーゲン氏は、ノルウェーの広大な自然の中に建つ施設で「これまでより長く滞在し、われわれが保護し、繁栄させようと取り組む地球と深くつながる実践的な場を提供しています」と話す。

Ærliに参画する施設での研修では、各施設・地域ならではの体験ができるようになっている。例えば、有機農業や植樹、オーロラを見るツアーを体験するなどし、地域の食材で作られた料理を食べ、参加者が自然と一体となるようなその土地でしかできない独自の体験ができる。

Ærliのシリ・エストボルドCEOは「同じ場所に着席し、スクリーンを共に見るだけでなく、それを超える体験を生み出したいと思っています。そういう場所に来て、椅子を並べ、これまでとは違う方法で仕事をしてもらいたいです」と語る。

(上3枚)「Stokkøya Strandhotell」 Image credit: Stokkøya Strandhotell

施設の一つ、ストッコヤ・ストランドホテル(Stokkøya Strandhotell)では、宿泊者がビーチクリーンに参加したり、1970年代に植えられた外来植物のカナダ松を駆除する方法を手伝ったり、自社のカーボンフットプリント削減につながる取り組みに参加することもできる。

2005年の創業以来、環境に配慮した理念のもと運営する同ホテルの共同オーナー兼設立者のトリルド・ランクロップ氏は「あらゆる人々に気候変動の状況により関心を持ってもらい、観光産業の二酸化炭素の排出量を削減していきたいです」と話す。

企業向けの旅行に特化したÆrliの取り組みは、参画する施設にとっても戦略的な取り組みだ。「閑散期に入った施設にとっては経済的な助けとなります。従業員を年間を通じて雇用でき、経済的にも持続可能な運営ができるようになります」とエストボルド氏は語る。さらに、ハーゲン氏は長期的目標の一つとして、Ærliを通じて予約した企業との連携を強化することを掲げており、役員会議から祝賀会にいたるまで、通年の集まりにも対応できるよう取り組んでいる。

「GLØD Explorer」Image credit: GLØD Explorer
「Canvas Telemark」 Image credit: Canvas Telemark

Ærliはノルウェーで最も先進的な観光地を企業向けに売り込むだけのプラットフォームではなく、同じ志を持つ経営者とともにサステナビリティへの取り組みをさらに進展させるべく、共通の課題や解決策を話し合い、互いに学び合い、連携の機会を模索するネットワークの役割も果たす。

ランクロップ氏は「私たちは互いに多くのことを学び合っています。経営者らは非常に熱心に取り組むと同時に、多くの課題にも直面しています。そのため、売上高やマーケティング、経営、メニューの作成、パートナーシップの強化などさまざまことについて話し合っています」と語る。

年に2回、施設を順番にまわって開催する対面での会合が開かれ、経営者らはさまざまな種類のサステナビリティに関するイニシアティブや体験を見て学ぶことができる。「毎回、多くのアイデアとクリエイティビティ、解決策を知ることができ、次の会合が開かれる日が待ち遠しいです。私たちならより良くしていけると思っています」(ランクロップ氏)。このほか、オンラインでの会合も年2回開催する。

Ærliは比較的新しいプラットホームだが、すでに予約が殺到しているという。

ハーゲン氏は「商品も旅先も素晴らしいですが、これまではビジネスを目的に訪れることがなかった場所です。今後の展開がとても楽しみです」と話し、エストボルド氏は「本当に良い、持続可能な方法で、地域コミュニティを発展させる取り組みです。どの施設も、それが実現可能であることを証明しています」と語る。

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