みずほリサーチ&テクノロジーズが活用する、ノルウェー発のCO2削減行動を促進するツールとは

Duckyの仲間たちと一緒に。前列右から2人目が勝山大輔さん

2050年カーボンニュートラルの達成に向け、国内でもさまざまな取り組みが進んでいる。みずほリサーチ&テクノロジーズは2019年から、ノルウェー発のカーボンフットプリント可視化サービス「Ducky(ダッキー)」の国内展開を進めている。アプリを使い気候変動への取り組みを自分ごと化し、組織が一体となって対策に取り組むことを目的に開発されたものだ。ダッキーとはどのようなもので、何を狙いとしているのか。チームで事業の開発に携わる勝山大輔さんに話を聞いた。(松尾沙織)

―― 「Ducky 」を活用したサービスの展開に取り組む狙いと経緯を教えてください。

2015年にパリ協定が採択され、世界では気候危機対策が具体的な実践フェーズに移ろうとしていたころ、日本では政策主導の規制によるアプローチがなされていました。そこで、いよいよ民間企業が主導して取り組んでいかなければいけないと感じ、企業の気候危機対策推進を支援する新規事業の検討に着手しました。

着目したのは、経営者と従業員が同じ目線に立って気候危機対策を推進できるよう支援する取り組みです。アイデアを練った結果、ノルウェーのスタートアップ企業であるDucky社が同じ課題認識を持っていると知って一緒に取り組むこととなり、2019年10月に日本での事業展開に関するパートナーシップを締結しました。

―― 企業のみなさんからはどういったニーズがありますか。

特に最近声として上がっているのは、温室効果ガス排出に関するスコープ3(事業者の活動に関連する他社の排出)関連です。これまでは上場企業だけで話されていたのが、まさに中小企業や非上場企業の方からも気候危機に対してどう取り組んだらいいかというご相談や、Duckyを社員の行動変容につなげたいというご相談を受ける機会も増えてきています。

ほかにも気候危機のことをどう社内共有していけばいいかという問題意識や、具体的にどう課題設定をしていけばいいかわからないといった声も多くなりました。

――Duckyとはどのようなツールでしょうか。ノルウェー版と日本版のサービスの違いはどこにありますか。

ノルウェーでは行動に関するアンケートに答えることで温室効果ガスが計算できるツールになっています。

一方、日本ではチェック項目にチェックを入れることでカーボンフットプリントが可視化できるツールを提供しています。これを使ったキャンペーン企画、実行支援を行っていく予定です。さらに「チーム対抗CO2削減キャンペーン」というアプリケーションがあり、組織の部や課同士でチーム対抗戦を行うこともできます。

アプリでは日常でできるCO2削減アクションがリスト化されており、その日にやったものをポチポチ押していくと、その人のCO2削減量が可視化され、チームで合計して見えるような仕組みになっています。

話のなかで「ベジタリアンを実践するとなぜCO2が減るのでしょうか?」などの疑問をいただいたりするのですが、そこから会話を開始して具体的な対策の議論につなげていくというようなことや、期間内に一番削減できたチームを表彰したりもしていく予定です。

企画の段階から一緒に入らせていただき、想定では3カ月ほどかけてキャンペーンの内容をつくっていきます。共感を得やすいよう企業として気候危機になぜ取り組むのか、具体的な目的設定などをしっかりと設定するようにしています。

―― Ducky  は研究者と連携してサービスを提供しているようですが、日本版ではどうでしょうか。

LCAやカーボンフットプリントの計算、目標設定の経験を生かして、日本に合った形で関連データを整備しています。弊社の専門家が持っているこれらのデータと、政府が出している統計情報をある程度仮定をもって推計、整備して取り組んでいます。

あとはDuckyの方で世界共通で使えるアルゴリズムが整備されていますので、日本のデータに置き換えるところを協働でやりました。

―― ノルウェーでの導入事例にはどのようなものがありますか。

ノルウェーでは企業など80組織以上が参加していて、参加人数も合計4〜5万人に上ります。

なかでも同じ北欧発のイケアでは、サステナビリティ戦略の一環でこのキャンペーンを実施したと聞いています。彼らは商品を通じた持続可能なライフスタイルを提案する上で従業員からコミュニケーションを進め、ゆくゆくは消費者にコミュニケーションがつながるような動きをやっていこうということでDuckyに着目したそうです。一段階目はノルウェー国内9店舗対抗で従業員同士で取り組み、二段階目は一般消費者を対象としたキャンペーンに取り組むといったものです。

イケアは3分の2がパートタイム従業員で、店頭で消費者の方にいちばん提案できる存在だと言えます。そこでのコミュニケーションが戦略上最も重要だということで、パートタイム従業員を巻き込んでエンゲージメントを向上させる、従業員のみなさんから消費者の方への発信を強化するためにキャンペーンを行ったところ、これがうまくいき、結果的に社内の定着が高まったと聞きました。

―― ノルウェーでは政府や自治体が出した削減目標との結びつけをしているのでしょうか。

Duckyの本社があるノルウェーのトロンハイム市の戦略ですと、地域コミュニティで4階層に分けてどう行動していくか戦略を立てているそうです。また、「ZERO EMISSION CITIZENS」という市民向けサービスも開発しており、それを用いて国や自治体の戦略目標にあった形の取り組みを推進している状況です。

地域の計測データ

――日本ですでに導入している企業はありますか?今後はどのように展開されるのでしょうか。

日本ではまだありません。これからです。ただ気候危機に対する社会の関心が高まるにつれ、企業に求められる対策レベルも「低炭素」から「脱炭素」に変わってきていると実感しています。

低炭素はこれまでの取り組みを継続すれば達成できると思うのですが、脱炭素は既存の延長線上ではなく、そもそもCO2を出さないことを目指すものです。そのためには、企業経営の在り方から見直す必要があります。

さらに急激な変化には、必ず従業員を巻き込んだ組織全体の改革や、気候危機問題に対する課題認識を共有することも重要になってきます。

だからこそ初心者の方でも行動できる専門家のインプットやきっかけをキャンペーンに散りばめていくことが必要で、そこに向けたコンサルを通して具体的な企業内での取り組みをご支援していけたらと思っています。

■Ducky社
共同創業者であるMads Simonsenらとノルウェー科学技術大学(NTNU)のコラボレーションによって2014年に設立されたスタートアップ企業。"A sustainable humanity"をビジョンに掲げ、気候危機・行動心理学をはじめとする学術的知見をベースとしたプラットフォームを通じて、人々の環境配慮行動を促すきっかけを提供し、社会のグリーンシフトを後押しすることをミッションとしている。

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