国内最大級のミックスプラスチック・リサイクル工場 プラニックが静岡県御前崎市で稼働

港湾エリアで稼働したプラニックの国内最大規模となるミックスプラスチック・リサイクル工場(静岡県御前崎市)

リサイクルの分野では材質の異なるプラスチックが混合された廃プラスチックの処理が大きな課題になっているが、リサイクルプラスチック製造事業会社のプラニックは10月11日から、国内最大規模となるミックスプラスチック(以下、ミックスプラ)のリサイクル工場を静岡県御前崎市で本格稼働させた。これまで自動車由来のミックスプラは、材質ごとの選別が困難なことから、ほとんど再資源化されていなかった。しかし、今回国内に初導入された最新技術を使えば、自動車部品の水平リサイクル「Car to Car」が実現可能になるという。同工場では年間約4万トンの廃プラを受け入れ、来年度中に約2.4万トン、段階的に約3.2万トンのリサイクル原料の生産を目指す。稼働開始当日に行われた工場視察と記者会見を取材した。(いからしひろき)

静岡県の西部に位置し、太平洋の遠州灘に面する御前崎市。浜岡原発の電力、水産、観光を主な産業としている。海に突き出た御前崎のまさに突端。近くには灯台やマリンパーク、ビーチがある風光明媚な場所に、その工場はあった。約2万3000平方メートルの広大な敷地の向こう側には、停泊中のタンカーが見える。

午前中に行われた工場見学には20社ほどのメディアが集結。事前ブリーフィングでは、撮影不可の場所が事細かに指定された。その全てが選別行程。ここに国内初の最新技術が詰まっている。ヘルメットと安全靴に履き替えて工場へ向かう。

大きな騒音を響かせる工場内。まずは各リサイクル法に基づき廃棄された自動車や家電由来のミックスプラを粉砕する「クラッシャー」パートだ。磁選機で金属を取り除いてから破砕し、6センチメートル以下にしてから風力選別で軽いものを飛ばし、次の行程へ進む。

左が自動車由来の廃プラ、右が家電由来の廃プラ
下処理として細かく粉砕される

次が心臓部の「比重選別」パートだ。大きく2つに分けられ、ファーストパートは水より重い液体(重液)による選別、セカンドパートは水より軽い液体(軽液)による選別が行われる。これにより、ミックスプラをPP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)とABS(ABS樹脂)の3つに選り分ける。肝となるのがセカンドパートの「軽液選別」だ。これが日本初の技術で、従来選別が難しかったPPとPEを分けることができ、より高品質な自動車向けの再生プラスチック製造が可能となる。

軽液選別のイメージ(プラニック社提供資料より)

その後、素材による帯電のしやすさを利用した「静電分離」パートで、PP、PS、ABSと、さらに細かく分類。最終的には「コンパウンド」パートで、選別されたPPとPEをペレットに成形し、注文があったメーカーなどに卸される。

プラスチック原料に成形
自動車由来の廃プラは黒色のものが多いため、再生ペレットも同様になりやすい

記者会見は工場から車で30分ほどのゴルフクラブで行われた。プラニックは、ヴェオリア・ジャパン、豊田通商、小島産業のジョイントベンチャーとして2018年12月に設立。会見には、プラニックの小池忠敏社長、ヴェオリア・ジャパンの本田大作上級副社長、豊田通商の化学品・エレクトロニクス本部の浦田和幸COO、小島産業の野村浩取締役が列席した。

冒頭の小池社長の事業説明によれば、ヴェオリア・ジャパンは総合環境サービスのグローバル企業としてエンジニアリングとプラントオペレーションサポートおよび自治体からの原料調達を、豊田通商は自動車系商社として使用済み自動車および家電由来の原料調達と製品樹脂の販売サポートを、小島産業は自動車部品製造会社として樹脂コンパウンドおよび自動車部品生産技術支援をそれぞれ担当するという。

記者会見の様子

会見の要点は2つだ。1つは、これまでほとんどマテリアルリサイクルできなかった自動車・家電由来のミックスプラスチックにようやく再資源化の道が開けたということ。原因は、自動車や家電に多く含まれる黒色の樹脂が、従来の近赤外線を利用した光学選別では選り分けるのが不可能だったからだ。そのため、燃やしてサーマルリサイクル(熱回収)するしか無かったが、同工場の「軽液選別」技術を用いれば、マテリアルリサイクルが可能になる。すでにヨーロッパでは実用化済みで、今回ベルギーに本拠地を置き、金属リサイクル事業を展開するGalloo(ガルー)グループからの技術供与を受けている。

もう一つは、日本の主要産業である自動車産業において、サーキュラーエコノミーが確立できるかどうかという点だ。現在、中古車販売やカーシェア、メンテナンスなどコンシューマーレベルでの再利用、延命のシステムは整いつつあるが、廃車になった後のエコサイクルのループはほとんど途切れてしまっている。ヴェオリア・ジャパンの本田副社長によれば、日本で1年間に排出されるASR(Automobile Shredder Residu=自動車破砕残さ)のミックスプラ12万トンのうち、同社の受け入れ予定は1万5000トンと全体の10分の1弱だが、最初の1歩としては非常に価値がある。なお、同工場はASRミックスプラに加え、家電ミックスプラ1万5000トン、製品プラ1万トン、合わせて年間約4万トンの廃プラを受け入れ、同約3.2万トンのリサイクル原料の生産を目指している。

再生プラで作った自動車部品の試作品

今後、製造された再生プラスチックを、品質にうるさい自動車部品や家電製品の各メーカーに、いかに短期的かつ汎用的に導入してもらうかという課題はあるが、やがて軌道にのれば、日本のグリーン経済に与えるインパクトは少なくないだろう。

ライター・構成作家。旅・食・酒が得意分野だが、2児の父であることから育児や環境問題にも興味あり。著書に「開運酒場」「東京もっこり散歩」(いずれも自由国民社)がある。

いからし ひろき

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