<金口木舌>アイデンティティーを考える場に

 薄明かりに照らされ、険しい表情でこちらを見下ろす高さ3メートル近い2体の像。県立博物館・美術館で開かれている復帰50年展「琉球―美とその背景」で展示された円覚寺仁王像には威圧感がある

▼1494年の円覚寺完成と同時期に作られたとされるが沖縄戦で破壊された。胴体や足など13片の残欠から同館が模造復元した。完成は昨年9月に発表されたがコロナ禍で休館していたこともあり、県民への公開は今回が初めてだという

▼沖縄戦では首里城も徹底的に破壊された。琉球国時代に3回焼失したが、明治政府による琉球併合(「琉球処分」)まで政治、文化の中心だった。1992年の復元後は再び県民の心のよりどころとなった

▼多くの人が衝撃を受けた火災から3年。正殿の着工が迫っている。若い職人の育成も進み、30年前より県民主体の復元となることが期待されている

▼県は「見せる復興」を掲げ、見学エリアも設けている。多くの県民が工事を見ながら、王国時代に培われた私たちのアイデンティティーを考える場になるはずだ。

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