座席指定サービスの準備から運転系統の変更まで 阪急、阪神、山電、能勢電が12月17日に一斉ダイヤ改正【コラム】

最初のパンデミックから2年半が過ぎ、世の中は比較的平静に「ウィズコロナ社会」へと移行しつつあるようです。コロナが鉄道に与えた影響といえば、日中時間帯の減便や終電の繰り上げ。実施前には「社会を後退させる」の懸念もありましたが、目立った反発もなく利用客に受け入れられているようです。

そうした中、阪急電鉄、阪神電気鉄道、山陽電気鉄道(山電)、能勢電鉄(能勢電)の関西私鉄4社は2022年12月17日、一斉にダイヤ改正を実施します。山電を除く3社は阪急阪神グループ、阪神と山電は相互直通運転、阪急も1998年まで山電と相直するなど、4社はお互い輸送のパートナーといえるでしょう。本コラムは新ダイヤのポイントをご紹介、各社の考え方を探ります。

関西私鉄の輸送人員はコロナ手前より2割減

最初に、最近の輸送動向を簡潔に。日本民営鉄道協会の集計では、コロナ禍が発生した2020年度、大手私鉄16社の輸送人員は前年度に比べ全体で30.2%減少しました(定期外、定期の合計)。関東9社がマイナス31.5%だったのに対し、関西5社はマイナス26.2%でした。

続く2021年度は全体7.3%増で、関東7.8%増、関西5.5%増。数字を見るかぎり、関西圏への影響は関東より若干軽度だったようです。それでも関西の2021年度は、コロナ前の2019年度より22.1%落ち込んでいます。

テレワークやリモートワークの普及に伴う通勤形態の変化、(最近あまり使わなくなりましたが)三密回避で空いた列車に乗りたいという新しい輸送需要に対応するのが、今改正最大の狙いといえるでしょう。

京都線で2024年に座席指定サービス開始

阪急京都線の改正後の列車種別と停車駅(資料:阪急電鉄)

それでは、会社別にポイントをご紹介しましょう。阪急は今改正からは離れますが、2024年に京都線で、座席指定サービスを開始する方針を公表しました。

目的は、「プライベート空間を確保したい(密を避けたい)」、「着席してゆったりと移動したい」という社会的ニーズへの対応。ポストコロナ社会に向けた新たな増収策という位置づけです。

座席指定サービスを実施するのは、列車種別で「特急」、「通勤特急」、「準特急」の各列車。「特急」を名乗るのが共通点です。新サービスの準備として、新設する「準特急」は現在の快速急行を名称変更します。

考えれば、首都圏のJR快速線は多くの線区にグリーン車が導入され、ゆったり志向の方はグリーンを利用します。阪急も同様に、「ゆったり通勤・移動は特急で」を定着させたいのでしょう。新サービスの詳細は、今後発表されるそうです。

平日の終電は最大19分繰り上げ

阪急神戸、宝塚、京都線の現行ダイヤと改正後の終電比較(資料:阪急電鉄)

阪急の全線(神戸線、宝塚線、京都線)に共通するのは、平日朝ラッシュ時の10両編成列車を一部8両化。平日夜間・深夜時間帯の大阪梅田発列車の運転間隔は、21~22時台が12分ヘッド(現行各線10分)、23時台が15分ヘッド(現行神戸線10~15分、宝塚線12分、京都線15分=変更なし)に拡大・統一します。

平日の終電時刻は、一部列車を除き2~15分程度、最大19分繰り上げ。女性専用車両を設定する列車は、全線とも列車種別を「通勤特急」に統一、分かりやすい運行体系を実践します。

京都線は、土日曜日と祝日に運転する観光特急「京とれいん」は運転取りやめ。「京とれいん雅洛」は継続して、1日4往復を設定します。このへん、今後の観光需要回復を待つといったところでしょうか。

阪神は近鉄相直の快速急行の尼崎での分割併合を解消

阪神に乗り入れる山電の6000系直通特急電車。阪神と山電は大阪梅田―山陽姫路間で相直運転します(写真:のりえもん / PIXTA)

阪神は、平日夕ラッシュ時間帯に近鉄線に直通運転する快速急行の尼崎での分割併合を解消して、8両編成のままで運転を継続。混雑を緩和するとともに、神戸三宮から大阪難波への平均所要時間を42分(現行46分)に短縮します。

阪神の平日夕ラッシュ時の下り快速急行(水色)と急行(オレンジ)の運転イメージ(資料:阪神電気鉄道)

多くの都市鉄道は、既に目いっぱいの速達ダイヤが組まれ、分単位で時間短縮できる手段は分割併合の解消しかないのでしょう。

過去には背景は若干異なりますが、小田急電鉄が、相模大野での小田原線と江ノ島線の分割併合を解消した事例などがあります。

終電は最大24分繰り上げ

阪神の現行と改正後の終電比較(資料:阪神電気鉄道)

阪神の快速急行は、平日の日中時間帯以降と、土日曜日・祝日の全時間帯で武庫川、今津に停車させ、芦屋は平日朝だけの停車にします。大阪梅田発の急行2本は、区間急行に変更します。

終電の発車時刻は、大阪梅田発と神戸三宮発の山陽姫路行きでいずれも24分早くなるなど、1~24分の繰り上げ。土日曜日と祝日の大阪梅田発尼崎行きは、平日にダイヤをそろえるため、例外的に4分の繰り下げになります。

山電は夕ラッシュ時の直通特急の停車時間帯見直し

山電は、早朝時間帯に東二見発山陽姫路行き下り特急を1本増発するほか、夕ラッシュ時の荒井、白浜の宮の直通特急列車の停車時間帯を見直し。現在は17時30分~21時に停車しますが、改正後は17時~20時30分に短縮します。

終電の繰り上げでは、阪神の新ダイヤとも関係しますが、大阪梅田発山陽姫路行き最終は22時36分発に、新開地発山陽姫路行き最終は23時15分発にします。

山電の大阪、神戸、明石方面から姫路方面への終電ダイヤ比較(資料:山陽電気鉄道)

能勢電は運行系統を変更して山下―日生中央間を実質本線化

ニュータウンの玄関口らしさを感じさせる能勢電の日生中央駅(写真:けいわい / PIXTA)

能勢電は、川西能勢口―妙見口間の妙見線、妙見線山下で分岐する日生中央までの日生線の2路線。川西能勢口で阪急宝塚線に接続します。現在の日生線は支線扱いですが、ダイヤ改正を機に川西能勢口―日生中央間を直通運転とし、山下―妙見口間は線区名は変わらないものの、折り返し運転の支線扱いになります。

日生中央は、日本生命などが開発する阪急日生ニュータウンの最寄り駅。能勢電の多くの利用客は阪急に乗り継いで、大阪梅田方面に向かうことから、乗り換えの不便を解消して鉄道の利用促進を目指します。

また、土曜ダイヤを廃止して、土休日ダイヤに一本化。平日朝時間帯は、6時30分~9時の間、川西能勢口に到着する列車5本を減便します。

平日の夕ラッシュ時、大阪梅田から日生中央に直通する特急「日生エクスプレス」の運転時間帯は、現在より20分繰り上げ。大阪梅田発18時17分~20時17分を、改正後は17時57分~19時57分に変更します。普通列車の運転間隔は10分ヘッドに適正化します。

平日の深夜時間帯は、普通列車の運転間隔を21~22時台は12分ヘッド、23時台は15分ヘッドに統一。終電の発時刻も最大31分繰り上げます。

能勢電の終電ダイヤ、現行と改正後の比較(平日)(資料:能勢電鉄)

輸送人員にあわせた輸送力適正化の一方で顧客確保に向けた戦略も

利用客の減少に応じて、列車本数や車両編成などの輸送力を適正化するのが、今回のダイヤ改正の主な狙いといえます。

しかし、単なる縮小再生産でなく、阪急の座席指定サービスの前打ちや、能勢電の運行系統の変更など、輸送サービスの向上で沿線住民や通勤通学客の顧客化を推進しようという各社の戦略が読み取れるのが、今回のダイヤ改正といえるでしょう。

記事:上里夏生

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