「“イケメンアスリート”として注目されること」に、橋岡優輝の率直な心情。ブレない信念の根幹とは

昨夏の東京五輪で日本勢37年ぶり入賞となる6位に輝くなど、日本走幅跳のエースとして広く知られるようになった。同時に、女性誌で特集を組まれるなどスポーツの枠を超えて幅広い層にも知られる存在となっている。“イケメンアスリート”として取り上げられる現状を、橋岡優輝はどのように捉えているのだろうか――?

(インタビュー・構成=野口学、写真提供=株式会社UDN SPORTS)

「イケメンアスリート」の他に「華麗なるアスリート一族」という取り上げられ方も

――橋岡選手はスポーツの枠を超えて女性誌で特集されるなど、“イケメンアスリート”としても知られています。ご自身ではそうした注目のされ方を率直にどのように感じていますか?

橋岡:すごいありがたいことだと思います。そういうふうに注目していただけるのもありがたいですし、応援してもらえる方が増えることにもつながると思うので、すごくありがたいなと感じています。

――普段陸上競技を見てくれる人たちとは違う層に届けば、回り回って競技全体のプラスにつながりますからね。ただ日本では、“アスリートは競技に集中しろ”という声が根強いのも事実です。

橋岡:SNSを見ていても、たたきたい人はどんなことでもたたきますし、逆に称賛してくれる方もいっぱいいると思うので、そんなに気にしなくていいのかなと考えています。本人の意思が大事で、僕自身も競技とそうした取材は自分の中でしっかりとカテゴリー分けをしていますし、(ネガティブな声は)特に気にしないようにしていますし、一喜一憂する必要はないかなと考えています。

――橋岡選手の場合、“イケメンアスリート”の他にも“アスリート一族”(※)という取り上げ方もよくされます。(※父・利行さんは棒高跳で日本選手権7度制覇、母・直美さんは100m障害、三段跳の日本記録樹立、叔父・渡辺大輔さんは走幅跳シドニー五輪代表と、“アスリート一族”としても知られる。いとこの大樹はベルギーで活躍するプロサッカー選手)

橋岡:それも同じで、どういう入り方であっても注目してもらえることにつながるという捉え方をしています。やっぱり両親がすごかったっていうのは本当に尊敬できるものですし、その両親を知っている方々、応援していた方々が、その息子だと知ったことで僕を応援してもらえることにつながるのならすごくありがたいことです。競技をやっているのは僕自身で、僕は僕だという信念がある。だから誰からどういう見え方をしていても、そんなに気にしていません。

――他人からの評価に左右されず、自分を評価するのは自分だということですね。自分の軸をしっかりと持っているのは本当に素晴らしいことだと思います。もともとそういう考え方を持っていたのですか?

橋岡:僕も以前はやっぱり周囲の言葉に影響される部分はありました。でも自分が気にしたものに目がいきがちで、悪口だったら悪口ばっかりに目がいってしまう。でも実際は少数派だったりして、そんなに気にする必要はがないのかなとなんとなく気付くようになりました。あとは父と母が良いバランスを取れているんですよ。父はすごく心配性で、母は何事もあまり気にしないスタンスで、そうした両親を見て育ってきたというのもなんとなく影響しているのかなと思います。

――それでも批判的なコメントを目にすれば、どうしても気になってしまうこともあると思いますが、そんなときはどうしているのですか?

橋岡:周りに信頼できる友達や関係者を置くことは自分の肯定感を上げることにもつながりますし、SNSが発達した時代に全部が全部を無視するのは難しいと思うので、“それもまた一つの意見だよね”くらいの感じで受け止めるようにしています。批判の中にも的を射たものもあるので、自分が成長できるきっかけの一つだという捉え方をするのが、僕自身は楽だなと考えていますね。

「浦和レッズはいとこの古巣ですから」。橋岡優輝が挑む“スポーツ×まちづくり”

橋岡が所属するスポーツマネジメント会社、UDN SPORTSは9月末、新たにSDGsプロジェクト『地方からミライを』を始動した。桃田賢斗(バドミントン)、楢﨑智亜、楢﨑明智(共にスポーツクライミング)、水沼宏太(サッカー)、大竹風美子(7人制ラグビー)らと共に本プロジェクトのアンバサダーを務める。

同社はもともと所属アスリートの社会貢献活動を積極的に後押ししてきたが、『地方からミライを』では、所属アスリートの出身地やゆかりのある地方を活性化させ、ゆくゆくは日本全国を元気にすることを目標に掲げている。スポーツの大会やイベントを通じて子どもたちとの触れ合いや競技の促進を目指すだけでなく、コロナ禍で打撃を受けた地方企業、中小企業と連携をして、新たなビジネスの創出にもチャレンジする。

――UDN SPORTSで新たに始動したSDGsプロジェクトについて、どう感じていますか?

橋岡:個人だけではできないことも、これだけ著名で実力のあるアスリートの方々と協力していけば、大きな問題にも取り組んでいけると感じました。僕自身、何ができるのかをいまいちどよく考えて、取り組んでいきたいと思います。

――トークセッションで最も関心の高いSDGsの目標に「住み続けられるまちづくりを」を挙げ、「スポーツ施設をSDGsの学びの場としたい」と話していました。

橋岡:陸上は体一つあればできる競技ではあるんですけど、専門性を磨くためにはやっぱり専用の施設が必要だと感じています。僕自身、そうした専門性を子どもたちに広く伝えていきたいと考えていますが、街づくりの中でスポーツが生活の一部となれば、もっともっと多くの子どもたちが施設に来てくれることになる。スポーツ施設と街の関わり合いが重要になってくると感じているので、そのきっかけの一つとして、SDGsを学んだり、考えたり、活動したり、最初に芽が出る場所がスポーツ施設になればいいなと考えています。

――スポーツと街がもっと密接な関係になること、そのきっかけをつくることが大事だということですね。

橋岡:“施設を造ったから来てください”と言ってもいきなり多くの人に集まってもらうのはなかなか難しいと思うので、まずは実際に見てもらうことが大事かなと思います。ヨーロッパなど海外では街の中で試合を行うストリート陸上が各地で開催されているのですが、日本でももっとどこかで開くことができればいいですね。時間はかかると思いますが、一歩ずつ徐々に進めていければいいですし、その中で施設の構想が膨らんでいけばいいかなと考えています。

――橋岡選手の出身地の浦和は“サッカーの街”として知られていますが、駅前広場で陸上イベントが開催されて、100mや走幅跳など間近でその迫力を感じることができる“サッカーと陸上の街”となったら面白そうですね。

橋岡:そこも僕自身協力できるかなと思います。(浦和)レッズはいとこ(大樹)の古巣ですからね。

<了>

PROFILE
橋岡優輝(はしおか・ゆうき)

1999年1月23日生まれ、埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。中学で本格的に陸上競技を始め、高校で走幅跳に転向した。日本選手権5度優勝(2017~19,21,22)。2019年、アジア選手権優勝。世界選手権(ドーハ)8位で日本勢初の入賞を果たす。2021年、東京五輪6位で日本勢37年ぶりの入賞。2022年、世界選手権(オレゴン)で予選トップの8m18を記録。決勝は10位に終わるもののメダルを狙える位置にいることを示した。自己ベストは8m36(2021年6月日本選手権)。

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