【社説】ソウル雑踏事故 なぜ大惨事、検証徹底を

 楽しいはずのハロウィーンの週末が大惨事に変わったことに言葉を失う。韓国ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)でおととい夜、集まっていた若者らが転倒し、死者は150人を超えた。負傷者も100人以上に上り、大半が10~20代で日本人も含まれている。

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 「群衆雪崩」による圧死とみられる。人が密集した状態で何かをきっかけに1人が倒れることで、周囲の人が次々に転倒してしまう。街は当時、新型コロナウイルス禍による営業時間などの規制が解除され、3年ぶりににぎわった。十数万人が繰り出したともいわれる。現場は狭い路地の坂道で抜け道もない。被害を広げた要因であろう。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は「起きてはならない悲劇と惨事が発生した」とし、事故収拾本部の設置を指示した。負傷者への手当ては無論、事故のきっかけや背景をはじめ検証を徹底してほしい。

 事故前後の現場を映した交流サイト(SNS)には、街路はぎゅうぎゅう詰めの密状態で、群れて押し合うような場面があった。相当なパニック状態だったのではないか。「密集した若者らが坂の下へ向かって次々に折り重なるように倒れた」という証言に背筋が凍った。

 一帯では救急隊員らが下敷きになった人を引っ張り上げ、心臓マッサージをする救助活動が繰り広げられた。居合わせた人は緊迫感にさらされ、心理的なダメージは大きいだろう。

 現場の梨泰院は飲食店、クラブやバーが連なり、ネット配信の人気ドラマの舞台になった観光地である。仮装して高揚感に包まれた若者が集い、酔った人も多かったはずだ。これだけの人出を想定した事前の手だてがなかったか悔やまれる。

 大規模な群衆雪崩は、世界各国で繰り返されてきた。1カ月近く前には、インドネシアのサッカー場で発生した。暴動を引き金に観客が出入り口に詰めかけ、転倒した事故は130人以上の死者を出している。

 日本では、2001年に兵庫県明石市であった花火大会の歩道橋事故を思い出す。見物客が折り重なるように転倒するなどし、子どもやお年寄り計11人が死亡し、247人が負傷した。市と警察の警備計画が不十分で、会場と最寄り駅を結ぶ狭い歩道橋に人々が押し寄せたための惨事だった。

 雑踏事故の恐ろしさを知らしめ、その後、各地でイベント時の警備の見直しが進んだ。最大の教訓は群衆が密にならない状態にすることだった。誘導のルートを分散させ、会場から時間差で帰ってもらうことなどだ。

 だが油断すればどこでも起こり得る。コロナ禍の間に対応が緩んではいないか点検したい。

 「第7波」が落ち着き、この秋から各地で大規模イベントが久しぶりに復活している。ハロウィーン関連では東京・渋谷に若者や家族連れ、外国人らが集う姿が見られている。これから年始の初詣など、密になりやすい場面は増えるだろう。

 事故を起こさない、巻き込まれない行動を取りたい。人が多そうな場所、時間帯を避けるのは一つの手だろう。特に、災害時のような緊迫した心理状態にある時は注意すべきだ。例えば帰宅を急いで駅に人が集中するケースなどが想像できる。自らや家族、友人の身を守るすべを考える必要がある。

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