銀行も対応に追われるデジタル給与払い解禁、注目される「資金移動業者」とは?

労働者にとって給料日は少し特別な日だと思います。ほとんどの方が銀行振込による給与の受け取りをしていらっしゃると思いますが、今後はその受け取り方が少し変化していきそうな気配も感じます。


解禁されるデジタル給与払い

厚生労働省は給与をデジタルマネーで受け取れる制度を2023年4月に解禁します。利便性向上が見込める半面、企業の事務負担や安全性など課題もあり、普及するかどうかは今のところ不透明な状況です。

これまで給与は現金払いが原則でした。例外的に銀行や証券総合口座への振り込みが認められていました。

給与デジタル払いによるデジタルマネーは、銀行口座ではなく、資金移動業者のアカウントに給与を振り込むことをいいます。資金移動業者とは、銀行以外で送金サービスができる登録事業者のことで、現在国内で約80の業者が登録されています。

デジタル給与に対応する資金移動業者には厳格な参入要件を設け、要件を満たす業者を厚生労働省が指定します。業者の経営破綻時に口座残高の全額を返金できる保証の仕組みや、財務状況を厚生労働省に報告できる体制を求める予定です。

国内では「○○ペイ」などのスマートフォン決済アプリ口座があります。デジタル払いが可能になれば、この様な決済業者のアプリに給与が振込まれます。決済アプリ口座残高の上限は100万円としています。安全面では、資金の保全や不正引き出しの補償、換金性など銀行の制度と同程度の仕組みになるように設計されているようです。しかし、監督官庁が金融庁と厚労省に分かれていて、連携面での不透明さも残されています。給与のデジタル払いではアカウントの保護を10年としています。

ただ銀行とは異なり口座という概念はなく、個人認証のためのキー情報の正当性をどのようにして担保していくかという課題もあります。

デジタル給与払いを巡る対応

一方で、今まで当たり前のように給与振込先として指定されていた銀行は、これまでのように預金集めや顧客確保などの優位性が得られなくなる懸念があります。

また現在、企業は給与を銀行振込で行っていますが、その際に発生する手数料は大きなコストです。決済アプリ業者への送金は銀行振込ほど手数料がかからないため、企業側は受け入れやすいでしょう。銀行もデジタル化への大きな流れに対応しようと、昨年10月に振込手数料の値下げなどの対策を取ってきました。

また、メガバンクが中心となり、10万円以下の個人間送金が無料になる場合もある決済システム『ことら送金サービス』を2022年10月から開始しました。銀行は今まで以上に顧客との接点を強化していく必要があるのではないかと思います。

そもそも日本のキャッシュレス決済比率は2020年の調査では30%程度でした。オーストラリアや英国は60%台 、米国は50%台などと世界と大きく差が開いています。日本は2025年までに40%まで引き上げる目標を立てています。

このデジタル給与の取り組みは、2018年に東京都が国家戦略特区の会議で提案、議論したことが契機となり、外国人労働者などが銀行口座を持つことが難しいことなどを理由に挙げていました。

基本的に家賃やローン、クレジットカードの引き落としは毎月銀行口座から引き落とされるので、給与の全額を決済アプリ業者への送金にすることは考えにくいと思います。利便性を考えて銀行口座と決済アプリ業者の双方への振込が可能であれば利用したいと考える方が多くいらっしゃるかもしれません。

しかし、支払う側は今まで一元化していた給与振込が煩雑になり事務などの負担が増える懸念もあります。

現状はコスト面、リスク面において考慮すべき点が多く、実現に向けてすぐに動き出せる段階ではないかもしれません。解禁後、労働者と企業側がどのような選択をしていくのか、行方が気になるところです。

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