究極のカタログシリーズ『ジャズ百貨店』 名盤BEST 20 第17回:エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロング『エラ・アンド・ルイ』

2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が75万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」。今秋新たなラインナップ100タイトルが登場するのに先駆けて、これまでに発売された全510タイトルの中から“いま”最も売れている20枚をピックアップし、個性豊かな執筆陣が紹介します。

夏の服装、くつろいだ表情。斜めから受けた影は昼下がりのような日常的な郷愁感を誘う。ある初夏に訪ねた旅館には取ってつけたようなチープなコンポとCDが置いてあり、クラシック数枚の中にこのジャケットを見つけた。拾い上げて聴いてみると、とても平らな音が出て、誰かの音や声が強調されることもなく、新緑に囲まれた部屋に広がった。そこには心地よく豊かな時間だけがあった。その後、高音質なオーディオの店や、耳の近くでクリアに聞こえるヘッドホンで、ハードバップの名演や魅力的なニュー・リリースを求める日々の中で、しばらく『エラ・アンド・ルイ』は影を潜めた。

録音は1956年8月15日、ヴァーヴ・レコードの創設者ノーマン・グランツが、キャリア絶頂の二人と、オスカー・ピーターソン(p)、ハーブ・エリス(g)、レイ・ブラウン(b)、バディ・リッチ(ds)をキャピトル・スタジオに呼び寄せ実現させたのが本作。リハーサルはほぼなかったが、前日にグランツが主催したコンサートが大盛況だったこともあり、そこに出演したメンバーが集ったこの日の演奏は、より自由度とライヴ感に満ちたものになっている。お互いに圧倒的な肺活量のエンジンを持ち、大編成のバックを従えスポットライトを集める存在だが、本作にはアメリカのソングブックを砕けた会話のように掛け合う、伝説の二人のデュエットが収められている。

<YouTube:Can't We Be Friends?

ある日、子供たちの喧騒の中でこの作品を聴いた。絶妙なキー操作の柔らかなピアノや、生き生きとしたベースが浮き上がり、楽器のふとした1音に魅了された。この作品はヴォーカルの傑作であると同時に、誰の演奏力が見事だといった評価軸はなく、二人のさまざまな差異もフラットにして一人ひとりの音作りを味わえる作品でもあるのだろう。あの旅館のチープなコンポを思い出した。演者もフラットなら聴き方もフラットな場がよく似合う。この作品は生活の中に平らに入り込むことができる、間違いなく豊かな音楽だった。

文:大塚広子
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【リリース情報】
エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロング『エラ・アンド・ルイ』
UCCU-5558
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