【ジャズピアニスト、海野雅威の特別寄稿】ジャズ・サックスの革命家レスター・ヤングの真髄がここに

2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が75万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」。10月19日に発売された新シリーズ「Encore編」から、数多くのジャズ・レジェンドから愛されてきたニューヨーク在住の実力派ピアニスト、海野雅威がお気に入りの作品3タイトルをピックアップして特別解説します。

第1回目はテナー・サックス奏者レスター・ヤングが1943~44年にキーノート・レーベルに吹き込んだ快演集『ザ・コンプリート・レスター・ヤング・オン・キーノート』。
_____

レスター・ヤングの豊かな歌心と音色はジャズ・サックス界の革命でした。まるで風のように自由でしなやか、ゆったりとリラックスし身を任せていられるような大らかさ。しかし、その安心感の中でも決してイージーには陥らないギリギリの緊張感。巨匠の域に達しているミュージシャンの多くから感じられる感覚です。

ちなみに、私が共演した他のサックス奏者でこの魔法を感じられたのは、フランク・ウェスだけかもしれません。彼らはその瞬間で一期一会の演奏をしているので、テイク毎に内容が全く異なります。本アルバムは同曲別テイクが多く収録され、プレス(ビリー・ホリデイが名付けたレスターの愛称)の即興演奏家としての真髄も十分に楽しめます。カルテットとカンザス・シティ・セヴンの2バンドの趣きの異なる演奏も聴きどころ満載! ベーシストのスラム・スチュアートがアルコ(弓)でベースを弾きながら同時に1オクターヴ上でハミングするという、彼の元祖十八番奏法が随所にフィーチャーされるカルテットにおけるエキサイティングな展開も特筆すべきです。

アルバムで最高の1曲を選ぶとなれば、やはり「サムタイムズ・アイム・ハッピー」でしょう。まさに歴史的名演! 朗々と歌うレスターがピアノ・ソロのラスト8小節からそのままコーダーに突入する時に引用するスタンダードソング「My Sweetie Went Away」は、この瞬間だけの天性の閃きだったのでしょう。その証拠に別テイクではまた違う演奏をしています。本アルバムを聴けばチャーリー・パーカーにも多大な影響を与えていた事もよく理解できます。

余談ですが、このアルバムからの影響という点であまり指摘されていないと思われるのが、オスカー・ピーターソンの『LIVE FROM CHICAGO (邦題:オスカー・ピーターソン・トリオの真髄)』ライヴ・フロム・シカゴにおける「サムタイムズ・アイム・ハッピー」です。これは実はこのレスターのバージョンの完全なるオマージュ(追悼の意味もあったのでしょう)なのです! オスカー・ピーターソンはレスターの例のエンディングをイントロにも使い、テーマのメロディの音域や弾き方まで模倣しながら吹いて歌うように淡々とスタートし、徐々に熱気を帯びて強力にスイングします。特にレイ・ブラウンの最後のコーラスのソロは完全にスラム・スチュアートのコピーで、さすがにアルコでは弾きませんが、ハミングはあえて大きめです。ご存じない方はぜひ聴き比べて見てください。初めてこの事を偶然発見した10代の頃、ジャズ小僧の私は思わずニヤッと大興奮したものです(笑)。オスカーとレイは言わば元祖ジャズ小僧達で、レスターをはじめ多くのジャズの先輩への敬意を人一倍持っていた事がわかります。学び、実際に彼らと共演し、そして自分達の音楽を紡いでいきました。1959年に49歳の若さで亡くなったレスター。しかし、このように楽器を超えてその精神は脈々と今日まで受け継がれています。

文:海野雅威
____
【リリース情報】

ジャズ百貨店 Encore編
『ザ・コンプリート・レスター・ヤング・オン・キーノート』
2022.10.19 ON SALE
UCCU-5946 SHM-CD: ¥1,650(tax in)
https://www.universal-music.co.jp/lester-young/products/uccu-5946/

◆ジャズ百貨店シリーズ特設サイト
https://www.universal-music.co.jp/jazz/jazz-hyakkaten/

【海野雅威 INFORMATION】

●『Get My Mojo Back』がアナログ盤で発売決定!

2022年12月7日(水)発売
12 inch LP:UCJJ-9033 ¥4,730(tax in)
https://store.universal-music.co.jp/product/ucjj9033/

●来日ツアー
岡崎ジャズストリート2022
2022年11月6日(日) 岡崎市図書館交流プラザ Libraホール
海野雅威TRIO:海野雅威(p) 吉田豊(b) 海野俊輔(ds)
ゲスト:鈴木良雄(b) 峰厚介(sax) 増尾好秋(g) 倉田大輔(ds) Gene Jackson(ds) akiko(vo)
https://okazakijazzstreet.com/

2022年11月25日(金) ビルボードライブ大阪
海野雅威TRIO:海野雅威(p) 吉田豊(b) 海野俊輔(ds)
http://billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13685

2022年11月28日(月) ブルーノート東京
海野雅威NYトリオ:海野雅威(p) ダントン・ボーラー(b) ジェローム・ジェニングス(ds)
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/tadataka-unno/

2022年11月29日(火)、11月30日(水)、12月1日(木) コットンクラブ
海野雅威NYトリオ:海野雅威(p) ダントン・ボーラー(b) ジェローム・ジェニングス(ds)
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/tadataka-unno/

SAPPORO CITY JAZZ
2022年12月3日(土) 札幌文化芸術劇場hitaru
海野雅威NYトリオ:海野雅威(p) ダントン・ボーラー(b) ジェローム・ジェニングス(ds)
https://sapporocityjazz.jp/

海野雅威 公式サイト: https://www.tadatakaunno.co

© ユニバーサル ミュージック合同会社