ザ・ビートルズ『Revolver』アルバムの制作過程がつかめる蔵出し音源

2022年10月28日に発売されるザ・ビートルズ『Revolver』スペシャル・エディション。この発売を記念して、『Revolver』の解説を連載として掲載。その第5回目。

作品解説-5:Re-Mix盤の聴き所 #2

一連の記念盤の魅力は、リミックスされた曲だけではない。いわゆる「蔵出し音源」が数多く収録されていることだ。しかもレコーディング順に収録されているため、アルバムの制作過程がつかめるところもファンにはありがたい。各曲のどのテイクを選ぶのかに関しても、リミックスのさじ加減と同じく、調理人ジャイルズの腕の見せどころである。

今回は、「セッションズ」と題された、オフィシャルとは別テイク・別ミックスが聴ける音源について、まずはDisc-2収録の14曲の聴きどころを紹介してみる。

楽曲解説:Disc 2 (CD 2: セッション1)

1. Tomorrow Never Knows (Take 1)

『Anthology 2』で初めて公になった、まだ「Mark Ⅰ」という曲名だった「Tomorrow Never Knows」のテイク1。オフィシャル曲のようなビート感やテンポの良さはなく、サイケデリックでカラフルなイメージもまだない演奏だが、このまま発表しても十分だったと思わせる、よりドラッグ・ソング的味わいのある魅力的なテイクだ。

出だしも終わりも『Anthology 2』よりも長く収録されている。『Revolver』のセッションが、1966年4月6日に録音されたこのテイクから始まったということに、改めて驚かされる。

2. Tomorrow Never Knows (Mono Mix RM 11)

『Revolver』のモノラル盤のマトリックス1に収録されていた珍しい「モノ・ミックス RM11」を収録(6月6日ミックス)。ステレオ・ミックスに比べてSEがところどころ少なかったり、妙に強調されたりしていて、エンディングのジョージ・マーティンのピアノもわずかに長いという別ミックスである。

3. Got To Get You Into My Life (First Version / Take 5)

2曲目にレコーディングされたポールの曲(4月7日録音)だが、最初のヴァージョンはアプローチが全く異なる。これも『Anthology 2』で初登場した驚愕の別テイクだったが、今回はイントロのやりとりのあとにジョージのカウントが入り、エンディングもジョンのアドリブ・ヴォーカルが長くなっている。

ホーン・セクションを入れた派手なブラス・ロック仕立てのアレンジに比べて、“I need your love”のコーラスなどを加えたよりクールな仕上がりが実にかっこいい。「Tomorrow Never Knows」もそうだが、曲の表情の違いも含めて、どちらを発表してもありだと思わせる懐の深さが実感できる。

4. Got To Get You Into My Life (Second Version / Unnumbered Mix)

今回の「初登場音源」の中でも最も聴きものの1曲。よりリズミカルにアレンジを変えたセカンド・ヴァージョン(4月8日・11日録音)で、こちらもホーン・セクションの入る箇所は、低音のファズギターで披露しているものの、ファースト・ヴァージョンに比べると、完成版のイメージが見えた仕上がりになっている。

大きな違いは、ファースト・ヴァージョンのコーラスを生かそうと試みているところで、ブレイク後に“get you into my life”と入ってくるクールなコーラスを聴くと、このテイクもまた、この方向でアレンジを固めていってもいいんじゃないかと思わせる素晴らしい仕上がりだ。

5. Got To Get You Into My Life (Second Version / Take 8)

そしてポールの希望で、ホーン・セクション(トランペットとテナー・サックス)の入ったブラス・ロックへと曲の表情が変わり、公式ヴァージョンと同じアレンジになる(ホーンは5月18日録音)。2番の背後でポールのアドリブ・ヴォーカルがかすかに聞こえてくるが、全編ヴォーカル抜きの演奏のみ。ギターとホーンの絡みが最高だ。

6. Love You To (Take 1)

シタールをフィーチャーしたインド音楽然とした印象は全くないテイク1(4月11日録音)。ジョージのカウントもアコースティック・ギターの弾き語りも含めて、まるでジョージのソロ以降のデモ・テイクを聴いているかのようだ。ハーモニーはポール。

7. Love You To (Unnumbered Rehearsal)

続いてこちらは、シタールから始まっただけでインド臭が漂うリハーサル・テイク(4月11日録音か?)。ジョージのアドリブ・ヴォーカルがあちこちに少しずつ入る。タンブーラはポール。

8. Love You To (Take 7)

曲名がまだ「Love You To」になる前だったので、エンジニアによる“Granny Smith, take 7, Reduction take 6”の声が入り、それに続いてジョージのカウントで始まるテイク7(4月13日録音)。オフィシャルと同じテイクだが、「ジョージかな?」と一瞬思わせるポールのハーモニーも聴ける。

オフィシャルのモノラル・ヴァージョンはステレオ・ヴァージョンよりもエンディングが5秒ほど長かったが、それよりもかなり長く続く。

9. Paperback Writer (Takes 1 & 2 / Backing Track)

ポールのカウントで始まるインスト(4月13日録音)。テイク1はわりとすぐに中断し、少しやりとりがあってから同じくポールのカウントでテイク2へ。この曲は2テイクしか録られていないので、テイク2は、オフィシャル・ヴァージョンの「素の音」が聴けるということになる。

10. Rain (Take 5 / Actual Speed)

「アクチュアル・スピード」と書いてあるということは、もともとこんなに速いテンポで演奏したのかとまずはびっくり。テンポを遅めにするのを前提にして、(オフィシャル版と同じ)このテイク6(4月14日録音)をレコーディングしたというデータがあるとはいえ、疾走感のあるこの「Rain」じゃなくてよかったとつい思ってしまう。加工のないインスト版。イメージが大きく異なるテイクだ。

11. Rain (Take 5 / Slowed Down For Master Tape)

冒頭のエンジニアの声からして遅いのがわかるように、先のテイクのテンポを落とした演奏が聴けるが、ジョンのヴォーカルにADTはかけられていないため、曲の印象はこちらも異なる。エンディングの逆回転のヴォーカルもなく、しかも長い。

12. Doctor Robert (Take 7)

カウント(ポールか?)に導かれて始まる軽快なテイク7(4月17日録音)。出だしのジョンのヴォーカルはシングル・トラックで、歯切れ良さがさらに伝わってくる。“Well, well”の箇所はリンゴのマラカスが大きく、ジョンの低音のヴォーカルも2度目の繰り返し部分では、よりはっきり聞こえてくる。

オフィシャル版よりも余分に演奏してしまった(43秒長い)最後の“well,well”の箇所は、リズムとビートがさらに強調されていて、むしろいいアクセントになっている。エンディングもフェイドアウトせず、ジョンの声(“OK, er, we'll”と言っている)もよく聞こえる。

13. And Your Bird Can Sing (First version / Take 2)

ジョンのカウントで始まるテイク2。『Anthology 2』に収録された、ジョンとポールが笑いをこらえきれずにヴォーカルを重ねているのと同じだが、こちらは、重ねる前の2人のヴォーカルをフィーチャーしたテイク(4月20日録音)。オフィシャル・ヴァージョンよりもまろやかなポップ・サウンドで、これもまた十分これでいけそうな仕上がりである。

14. And Your Bird Can Sing (First version / Take 2 / Giggling)

こちらも先のテイクや『Anthology 2』と同じだが、2人の笑い声の入ったヴォーカルだけをフィーチャーした演奏になっている(一部ジョンのヴォーカルがダブルトラックになる)。イントロのやりとりは長い。

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