中村米吉主演 不朽の名作『オンディーヌ』取材会レポ

フランスの戯曲でジャン・ジロドゥの代表作『オンディーヌ』が12月から1月にかけて愛知と東京にて上演される。

タイトルロールのオンディーヌ役を、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』ナウシカ役など歌舞伎界・若手女形として挑戦を続ける注目の中村米吉が外部作品初出演として挑戦。騎士ハンス役には、舞台で活躍中の人気若手俳優、宇野結也小澤亮太がWキャストで、オンディーヌを諭す水の精(王妃)に紫吹淳。演出は映像・舞台で数々の名作を手掛けてきた星田良子

上演に先駆け中村米吉の合同取材会が行われた。

「歌舞伎以外の出演は初めてで主演という挑戦、よろしくお願いいたします」とまずは挨拶。
そしてビジュアルが公開されたことに触れて「20代、30代の歌舞伎仲間のグループラインがありまして、いつ作ったのかわからないのですが、そこで突然、中村隼人君が『髪型、いいね』と…髪型なのか(笑)、それでラインが数年ぶりに動いたのが面白い反響でした。『あれが似合うようになったらおしまい、凄いね』とか。後は『ファイナルファンタジーの写真、てっきり撮ったのかと思った』とか、そういう感じで、こういう時だけSNSの温かみを感じております」と歌舞伎仲間からの反響を明かした。

原作・台本を読んだ印象について「まず、原作、小説を読んで、それから台本を読んで、先ほども台本について打ち合わせをいたしまして、フランスの古典劇、現代劇ではない、現代的にアレンジをするというのではなく、原作のシニカルさと言いますか、人間に対して風刺的な部分もあります。そういった部分を的確に取捨選択して、再構成して下さって、独特な流れといいますか、話を追っていくのではなく、まず、オンディーヌが直面する悲劇といいますか、最後を暗示させる始まりで、ある種、劇中劇という手法で、お話が進んでいきます。そう言った演出の方法、物語を進めていくこと、お客様にはそこにぎゅっと濃縮していただいただけで、現代では受け入れ難い話かもしれませんが、そういう作りにして下さっているので、入りやすいかなと思いました。お客様にとってもとっつきやすい、消化しやすい構成かなと思っています。原作の中には煌びやかな素敵なセリフ、心にくる脚本になっているかなと。演出家さんからは『もっと、もっと凝縮して洗い上げてやっていきましょうね』と。これからさらに洗い上がったものがくるので楽しみにしています」と語る。

また、共演の面々は歌舞伎以外のジャンルの、実に多様なキャスト。「紫吹淳さんは事務所の先輩でいて下さって。まだ稽古に入っていないのですが、おつきあいがある先輩、有難い。紫吹淳さんの役は王妃、純粋無垢なオンディーヌを諭す水の精、人間の汚いところ、ずるいところが集まっている王宮は社会の縮図。唯一、オンディーヌのことを理解してくれるのが王妃。紫吹淳さんの大きなお芝居で、きっと一番ホッとできる瞬間がそこにあるんじゃないかなというのを今から嬉しく思います。ハンスはWキャストでお二人、そこは非常に楽しみにしています。お二人とも絶対に違う(ハンス)なのでオンディーヌも絶対に違ってくるのは必然だと思います。また市瀬さんは一度、ご一緒したことがありまして、いろいろな側面を見せる役ですので、どんな風になさるのかな、すごく楽しみです。ご一緒した時は、本物の刀で居合して、畳の束みたいなのを切っていました。まだ未発表ですが、恋敵のベルダ、どんな風になさるかな、オンディーヌに対するベルダになるので、本物の女性に出てもらうので、心して相対さなければならないので、ご一緒するのを非常に楽しみにしております」

このオファーが来たのは今年の6月の終わり頃だったそうで、「悩みました。1月は歌舞伎公演が最も多い月で、浅草歌舞伎ではずっと勉強させていただいたので、来年に復活するので『どうしようかな』と。『風の谷のナウシカ』に挑む直前だったので、でも、このタイミングでこのお話が来たのは運命的なので、まず、家族に話したら父の中村歌六がものすごい笑い出して、『お前が?!』、若い頃に四季の浅利慶太先生が最も愛した作品が『オンディーヌ』だっていうのを知ってて、ミュージカルやる前の劇団四季にいたので、父が言うには浅利先生は『オンディーヌ』と『番長皿屋敷』が一番人間的とおっしゃっていたと言ってて、『それは面白いね』と。なんていうかなと思っていたら『面白いね』と言ったので…また浅利先生と父とのご縁もありました。この『オンディーヌ』と2月からの『ファイナル・ファンタジー』が控えていて、この3ヶ月は古典歌舞伎から離れられる、古典がどれだけ大事か…古典があってこその歌舞伎、素晴らしい作品と思って先輩たちから受け継いでやってる、『素晴らしいからやっている』わけで。古典歌舞伎は大事と骨の髄まで叩き込まれて来ましたので、まさか『風の谷のナウシカ』を歌舞伎座でやるとは思っていなかったし、新しい流れが来ている、挑戦するという中で演じる、『ファイナル・ファンタジー』が後に控えている、古典から全く離れることになる、離れられる、新しい勉強をする、挑戦できる機会、『ファイナル・ファンタジー』が控えているから、ここはさらに離れてみようという決断につながった、『ファイナル・ファンタジー』が決まっていなかったらやらなかったかもしれない、次に進む場所、自分なりの新しい挑戦と経験がきっと生きてくるし、生かせなければいけないし、二つの要素、それで決めさせていただきました」と語る。

衣装については「なんと言いますか、足元がスースーする(笑)、これだけ首元からここにかけて(胸元まで)が…着物の場合は合わせないとぐずぐずになってくると丸くなるわけではないので、鋭角的に出てしまう、白く塗っていたりしますから、全く違うものだなと思いますが、自分が歌舞伎で女形として勉強して来たこと、培ってきたこと、例えば、手をどういうふうにしたらごつく見えないか、脚は内股にする、女形の座り方、足の間に落として…今まで僕が勉強してきたことの応用だなと。応用することでしか、僕にはこの役をやる方法がないので…全く違うものですが、今まで培ったものがどれだけ活かされるのか、これはどんな舞台もお仕事でも一緒ですから、そういう風に感じています。あとはつけまつげ!つけまは意外だ(笑)」つけまつげは初体験。

オンディーヌというキャラクターについては「原作を読ませていただいて、とにかく純真無垢である。ストレートに全てものごとを言ってしまうのが良さと言うこと。我々の常識、一般社会においては言葉に気をつけないと相手を傷つけてしまう。でもオンディーヌは全く、悪意なく言ってしまう。お客様に『この子は悪意なく素直に言っているな』、と思っていただかないと…オンディーヌは王宮でどんどん追い詰められてしまって、いろんなことを素直に王様に言ったり、悪口のようになってしまう、それを『なんでこんなことを言うんだろう』と思うだろうけど、でも観ているお客様には純粋で素直な『子供が言っている』のと同じって思っていただけるようにならないと、オンディーヌという役が成立しない、でないとただの悪口になってしまう、と思っています。例えば、ハンスに初めて出会うところも歌舞伎でも言えることですが、清らかな色気でないと。とにかくこの子が可愛くって健気で、だから哀しくっていう役にならないと」と語る。

作品については「フランスの古典劇に精通しているわけではありませんが、読ませていただいて、人間批判みたいな、(例えば)『男はこうあるべき』『女はこうあるべき』ですが、『なんでこうなるの?』とオンディーヌの口から…どこか社会風刺のような発言があるのかな、と読みながら感じました。歌舞伎だけでいえば、社会風刺というほどのものはないかなと。大きく、いわゆる庶民の哀しみとか、武士に対して暗に批判、とかありますが、それを細々入れていくという手法は歌舞伎作品には多くはないかなと。この作品は、どこかで社会風刺のような、人間、誰しもが普段思っているけど言わないこととかを、どこか芝居の中で、内包していっている、あるのではないかなと思いました。歌舞伎も『オンディーヌ』も人間を描いているという点では同じ。登場人物それぞれに理屈があって、そこの部分に対しての共感を得ることができる、そしてそれをしっかりと人間を描いているということ、そこが優れている、人間を描いている、誰もがどこか共感できる部分があるのがすごく…だからこそこれだけ愛されている。それは歌舞伎であろうが、こういった作品であろうが、世界問わず、同じなんじゃないかなと感じました。今でも十分、言葉は難しかったですし、どこか残るセリフも必ずある、(後世に)残る作品にはいいセリフが絶対にあります」

20代を振り返り、また30代に向けての抱負を聞かれて「20代最後、歌舞伎役者として本格的に歩み始めたのが、18の頃、毎月のように歌舞伎の舞台に立たせていただきながら…女形を勉強するようになったのも18歳の時。20歳過ぎてから、女形の役がどんどん多くなって、先輩方の中で、身の丈に合わないような役をやらせていただいたり、若い兄さん方と新しいものを作らせていただいたり、また同世代の皆さんと浅草歌舞伎をバトンタッチさせていただいて一緒に走っていたという感じがすごくあるんですね。20代、9年間と何ヶ月ですが、この約10年間の中で…20か21かそれくらいの頃ですが、玉三郎さんとご一緒した時に『30になるまでに女形としての基本を身につけないといけないよ。女形っていうのはお姫様なら手はここ、セリフはこう、言い方はこう、体はこう動かす、娘だったら、腰元だったら、それを身につけて、その上に役の心を乗せないといけないよ』と。それはお女形だけじゃないですね。歌舞伎の場合、だから型が残るっていうことだと思うんです。しっかり探求しなければならない。それを固める、固めなきゃいけないっていうのをすごく考えて、それをしなきゃいけないんだと10年間考えて思っていましたので、今、僕がそれが できているかどうかはわかりませんが、そういう意味でいえば、30代までにそれをしなければいけないって…玉三郎さんがおっしゃったこと、30代からはそれ以上のものを求められるということ、ですからこの20代の10年間でどれだけ勉強してきて、どれだけ女形として経験を積んだかということが、これから30代に入って、そういったことがどんどん問われる。そう言った20代最後の時に『オンディーヌ』といった作品、歌舞伎の古典ではなく、歌舞伎でもない作品に自分が今まで勉強してきたことをこういった形で問われるっていうのは、刺激にもなりますし、自分のこれからの30代に向けて大きなポイントになる、と感じております」

さらに「『オンディーヌ』出演は歌舞伎にとって、役者にとってプラスになればいいなと思います。」と語る。

最後に「私にとっては大きな、新たな挑戦でございます。3ヶ月歌舞伎から離れるわけですが、歌舞伎から離れた甲斐のある、意味のある、良い作品にしたいと思っております。今、できることを全てつぎ込んで努めたいと思っております。この作品は浅利先生がご存命のうちにやって…いろんなご縁の中でやらせていただくわけですので、これだけの作品に恥じないような、オンディーヌを創れるように頑張りたいと思います」と締め括って会見は終了した。

作品について
フランスを代表する劇作家ジャン・ジロドゥの最高傑作。永遠の愛を信じて人間界に入った水の精オンディーヌと、遍歴の騎士ハンスの悲恋を描いている。1939年パリのアテネ座の初演では、洗練されたセリフ運び、独創的なヒロイン像などが絶賛を博し、1954年にはニューヨークでも、オードリー・ヘップバーンのオンディーヌで上演され、外国演劇部門のニューヨーク劇評家賞を受賞。日本では1958年に劇団四季が初演し、その後も上演を重ねられている20世紀屈指の古典劇です。今回は言葉と音楽・ビジュアルを融合。現代の詩劇として綴っていく。

ジャン・ジロドゥについて
ジャン・ジロドゥ(Jean Giraudoux、1882年10月29日〜1944年1月31日)は、フランスの外交官・劇作家・小説家。ナチス占領末期のパリで死去。1893年、アンドル県シャトールーのリセに進み、この頃から戯曲作りをこころみる。1907年から小説を書き進める。ジャン・ジロドゥの戯曲、日本では「クック船長航海異聞」(1950年 文学座)、「間奏曲」(1954年 劇団四季)、「アンフィトリオン38」(1955年 劇団四季)、「トロイ戦争は起こらない」(1957年 劇団四季)、「ジークフリート」(1958年 劇団四季)、「オンディーヌ」(1958年 劇団四季)、「シャイヨの狂女」(1961年 俳優座演劇研究所)、「エレクトル」(1962年 劇団四季)、「ユディット」(1964年 東京都学生演劇連盟)、「リュクレース(ルクレチア)のために」(1968年 劇団四季)、「テッサ」(1973年 劇団四季)、「ベラックのアポロ」(1987年 劇団四季)などが上演されている。

概要
「オンディーヌ」
日程・会場:
愛知
2022年12月23日(金)~25日(日)ウインクあいち(愛知県産業労働センター) 大ホール
東京
2023年1月6日(金)~11日(水) 東京芸術劇場 シアターウエスト
作:ジャン・ジロドゥ
上演台本・演出:星田良子
キャスト
オンディーヌ:中村米吉
ハンス:宇野結也、小澤亮太
水の精(ベルトラン):佐藤和哉(篠笛)
水の精の王(奇術師):市瀬秀和
水の精(王妃):紫吹淳

公式サイト:https://artistjapan.co.jp/ondine2022-2023/

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