「機動戦士ガンダム」の安彦良和氏 「ナムジ」から「乾と巽」まで 歴史が題材の自作を語る

『機動戦士ガンダム』で知られるアニメーター、漫画家の安彦良和氏(74)が30日、東京・江東区の森下文化センターで講座「安彦良和の歴史マンガ道~神話の時代から未来戦史の世界まで~」を開き、『ナムジ』から連載中の『乾と巽―ザバイカル戦記―』まで、歴史を題材とした作品について語った。

安彦氏は「僕は20年アニメをやって、30年漫画を描いている。こういう作家はそうはいませんね」と自己紹介。1970年に虫プロ養成所からアニメーターとして出発し、1979年には「機動戦士ガンダム」に参加。1989年の劇場アニメ『ヴイナス戦記』を区切りに、『ナムジ』(1989~91年)で専業漫画家の道に進んだ。『神武』(92~95年)、『蚤の王』(2000年~01年)、『ヤマトタケル』(12~18年)と日本古代史をテーマに描いた。それと並行して近代史をテーマに、満州を舞台とした『虹色のトロツキー』(1990~96年)を描き、明治中期から日清戦争と辛亥革命までを描いた『王道の狗』(1998~00年)、明治後期の日本と東アジアをメーンに古代史と近代史がリンクする『天の血脈』(2012~16年)を発表。現在は大正7年のシベリア出兵を軸に、混乱のロシア情勢とともに日本が描かれる『乾と巽―ザバイカル戦記―』を「月刊アフタヌーン」(講談社)に連載する。

『ナムジ』は劇場版アニメ『ヴイナス戦記』の制作スタジオ近くの書店で入手した原田常治「古代日本正史」を参考にした。神社巡りを軸にした自由な発想の内容に感銘を受け、原田の遺族に資料利用の許諾を求めたところ「オヤジが道楽で書いたので、責任は負いかねますよ」と不思議がられたという。また、島根・熊野大社などを取材し「アニメーターは動かないので、取材をしていると作家のようで気持ち良かった。90年代は幸せでしたね」と回想した。題字は現代美術家で現東京芸大学長の日比野克彦に依頼した節目の作品。資料が堅苦しくなかった分、フィクションの要素を自在に加え、作品に遊び心が宿った。

同時期に明治以降の近代史の作品を描いたことは「日本という国を、古代と近代両方から迫りたかった」と説明。古代史と近代史がリンクする『天の血脈』は「自分にしては珍しく、当初の構想通りに描き終えられました」という作品だが、その衝撃的なラストシーンに「連載が終了した時に、一部の読者から打ち切られたと思われたようだ。でも、あくまでも私の予定通りでしたから」と笑った。

今年6月に公開され、監督を務めた劇場アニメ「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」についても触れた。同作はテレビ版第15話「ククルス・ドアンの島」を再構築した作品。島で暮らす子どもの人数が4人から20人に増えた理由を語った。

連載中の『乾と巽―ザバイカル戦記―』に絡めて「シベリア史の資料にはたくさん子どもが出てくる。その子どもたちはその後、どんな人生を送ったのだろうか。大人なら仕方ない、などと考えるが、子どもには、自分は幸せだと思っていたい無邪気さがある。それが大きな災厄に巻き込まれる痛ましさは他にはないです」と語った。その上で「一人の大人であるククルス・ドアンが、子どもたちを守るぞと思い立てこもる。その子ども達は大きな集団でなければならない。昔の設定ではダメです。最低20人は必要だと、スタッフにお願いして作ってもらいました」と振り返った。「楽しかったですね。アニメに関してはつらい思い出ばかりでしたが、今回は非常に楽しく作れました」としみじみ語った。

『乾と巽―ザバイカル戦記―』は「これで明治、大正、昭和がそろいました」という節目の作品で「ロシア革命という題材は大きすぎて、当初は8巻で完結する予定でしたが、10巻に延びました」と語った。単行本8巻は11月22日に発売される。

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

© 株式会社神戸新聞社