BリーグからNBA入り目指す18歳・ジェイコブス晶、新たな挑戦に旅立つ 少数精鋭の若手育成機関に加入

 バスケットボール男子のBリーグ1部(B1)、横浜BCで昨季17歳7カ月の史上最年少出場を果たしたジェイコブス晶(18)が新たな挑戦に旅立った。最高峰の米プロNBAがオーストラリアに置く少数精鋭の若手育成機関、グローバル・アカデミーのトライアウトに合格。日本勢で初めての加入が決まり、寮生活を送りながら腕を磨く。BリーグからNBAと日本勢で前例のない道を目指す身長201センチの大器は「アカデミーに受かったのはすごくうれしい。ポール・ジョージ(クリッパーズ)やルカ・ドンチッチ(マーベリックス)みたいになりたいです」と目標とするNBAのスターの名前を挙げて期待に胸を膨らませた。(共同通信=木村督士)

宇都宮戦でコートに立ち、B1史上最年少デビューを果たした横浜BCのジェイコブス晶=2021年11月、横浜国際プール(C)B.LEAGUE

 ▽着実な成長

 昨年11月のデビューから横浜BCでは出場試合数こそ多くなかったものの、着実に階段を上っている。今年2月のSR渋谷戦では冷静にシュートを決めて17歳9カ月20日のB1最年少得点を記録しても「それは良かったけど、次にやらなきゃいけないことがいっぱいあると思うので、そこまで考えてはいない」とこだわらない姿勢を示したように、現状に満足せずに上を見続けている。
 アカデミーのトライアウトは3月に一度受けた後に、6月にその続きに挑んだ。7月には世界各地に散らばるNBAアカデミーが一堂に会したアトランタ遠征にもグローバル・アカデミーの一員として参加。高いレベルで切磋琢磨し、味方を生かすプレーに手応えを得て「経験としてすごく良かった」と振り返る。

宇都宮戦でドリブルする横浜BCのジェイコブス晶。B1史上最年少デビューを飾った=2021年11月、横浜国際プール(C)B.LEAGUE

 ▽仲間を導いて

 8月にはNBAと国際バスケットボール連盟(FIBA)がグローバル・アカデミーのあるキャンベラで開催したキャンプ、バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ・アジアにも参加。現役NBA選手のジャレット・アレン(キャバリアーズ)から直接指導を受ける機会も得た。アレンからは仲間とコミュニケーションを取るリーダーシップを評価されたという。横浜BCのU18(18歳以下)で監督として指導してきた白澤卓氏は横浜BCのトップチームでコートに立てないときでもチームを盛り上げるように育てられてきた経験が生きているとし「コーチとしてはそういう選手がいてくれたら、すごくありがたい」と指導者目線でたたえた。
 キャンプでは英語やプレーで苦労する仲間の選手を助ける場面もあったという。コーチやスタッフからも献身的な働きが認められ、スポーツマンシップ賞に輝いた。白澤氏は「一流と呼ばれる選手は周りへの気遣いもちゃんとできるから、それはすごくうれしいなと思った。なかなかできることじゃない」と教え子の素養に目を細めた。

バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ・アジアに参加したジェイコブス晶(左端)ら=8月、キャンベラ(BWBアジア提供・共同)

 ▽日の丸を背負って

 横浜市出身で幼い頃から米カリフォルニア州で育ったジェイコブスは日本代表として2028年ロサンゼルス五輪に出場するのを「一番狙って一番活躍できるようにしたい」と目標に置く。8月下旬にテヘランで開催されたU18アジア選手権では年代別の日本代表でデビューを果たし、夢への第一歩を踏み出した。

バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ・アジアに招待され、プレーするジェイコブス晶=8月、キャンベラ(BWBアジア提供・共同)

2戦目のイラン戦では前半で13得点。レイアップシュートに行った際に左手首を痛めて、準優勝を果たしたチームで以降の試合で出場はなかった。それでも限られた時間で、速攻からダンクシュートをたたき込み、3点シュートを沈めるなど、潜在能力の高さを披露。この大会で出場権を獲得したハンガリーで来年開催されるU19ワールドカップ(W杯)にも「自分の活躍はそこまで見せられなかったと思うので、またチャンスがあるところでもっと活躍を見せたい」と意欲を示した。

 ▽新しい道を切り開く

 NBAは2017年に米国外の有望選手を育てることを目的にグローバル・アカデミーを設置。これまで出身者には昨季サンダーで新人ながら活躍したジョシュ・ギディーや、今年のドラフトでペリカンズから全体8位指名を受けたダイソン・ダニエルズがいる。ジェイコブスは「行けばもっと自分もうまくなれるし、NBAに行く夢がもっと近くなる」と楽しみにしていた環境に飛び込む。
 新型コロナウイルス禍で米国から日本に帰国したのが一昨年の12月だった。昨年1月から横浜BCのU18に身を置き、同9月から特別指定でトップチームにも加わった。一つ一つ段階を踏んで「ここだけがすごく成長したというよりは全体的にすごく上にいったと思う」と自信を得て新天地に挑む。五輪、NBAと高い目標を掲げて前に進んでいる実感に「もうNBAっていう名前が入ってるだけでもそうだし、アカデミーから何人かそのリーグにいることもあるので、NBAが近く感じる」と力を込めた。今後の活躍次第で全米大学体育協会(NCAA)の1部校やNBA下部のGリーグなどの進路が広がる。白澤氏はともに歩んだ若き才能が海を渡ることに感慨を込めながら「日本人で初めてだし、新しい道を切り開く一歩になるんじゃないかなと思っている」と意義を語る。「全体的に伸びたなと本当に思う。特に自分に対する自信を深めたのは大きい」と日本で過ごした時間での成長を認めた。

オーストラリアに向け、出発するジェイコブス晶=9月9日、羽田空港

 ▽目標との対戦も

 司令塔役のポイントガードや得点が求められるシューティングガードから、アカデミーではフォワードで登録されるなど、器用さが武器。サイズに技術を併せ持つ共通点からジョージとドンチッチを参考にする新鋭に白澤氏は「3~4年後には(2人と)マッチアップしている可能性がある。それを常に頭に描いてプレーしてほしい。そんな遠い未来じゃない。もう期待しかしてない」と優しく背中を押す。オーストラリアに向かう際、空港では家族や球団スタッフに見送られ、周囲から愛される人柄がにじんだ。恩師の期待にジェイコブスは「NBA、代表もずっと目標と夢なので、イメージだけじゃなくて頑張ればもう少しでいけるっていうのを考えれば、もっと頑張りたくなる。もっと早くそこのレベルにいきたいと思うので、頑張りたいと思います」と決意を口にした。

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