「後継者不在率」は59.90%、前年から1.28ポイント上昇 ~ 2022年「後継者不在率」調査 ~

 2022年の「後継者不在率」は59.90%で、前年(58.62%)から1.28ポイント上昇した。

 代表者の年齢別による後継者不在率は、60代が39.10%(前年39.29%)、70代が27.49%(同28.21%)、80歳以上が21.81%(同22.61%)だった。60代以上は、いずれの年代も前年より改善した。ただ、80歳以上では2割以上の企業で後継者がいない実態が浮き彫りになり、事業承継の難しさが増している。

 2020年からのコロナ禍は感染第7波のピークを越えたが、ロシアのウクライナ侵攻に伴うサプライチェーンの混乱や原材料価格の高騰、資源高、円安進行など、企業は「複合危機」への対応を迫られている。円安の恩恵を受けにくい内需型産業を中心に、こうした激変する環境を乗り切ることが難しい企業は、コロナ禍の出口戦略のなかで市場からの退場も現実味を帯びてくる。

 なかでも代表者が高齢で、かつ後継者がいない場合、将来に向けた抜本策が取りにくい。このため、政府が取り組む事業再構築支援の対象から漏れるケースも想定され、各企業のライフステージに寄り添った支援がより重要になりそうだ。

*   ※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(約400万社)のうち、経営者と直接面談し、2019年以降の後継者に関する情報が蓄積されているデータから17万2,176社を抽出、分析した。

※ 「後継者不在率」は営業活動を行い、事業実態が確認できた企業のうち、後継者が決まっていない企業割合を示す。

産業別 トップは情報通信業の76.93%

 「後継者不在率」を産業別でみると、10産業すべてで50.0%を上回った。

 不在率の最高は、情報通信業の76.93%(前年76.80%)で、前年を0.13ポイント上回った。ただ、この分野は代表者が比較的若いソフトウェア開発などのIT関連業種が含まれ、後継者をまだ必要としないことを考慮すべきだろう。不在率の上昇は、新設企業の増加も背景にある。

 以下、サービス業他が64.75%(同63.78%)、小売業が62.19%(同61.18%)と続く。

 一方、最低は農・林・漁・鉱業の51.96%(同50.08%)だった。

後継者不在率1

「同族継承」が65.79%

 後継者「有り」の6万9,030社の内訳は、息子、娘などの「同族継承」が4万5,417社(構成比65.79%)と7割近くを占めた。

 次いで、社外の人材に承継する「外部招聘」が1万1,760社(同17.04%)、従業員に承継する「内部昇進」が1万1,539社(同16.72%)、で、いずれも20%に届かなかった。

後継者不在率2

「後継者不在」企業 「検討中」が49.16%

 後継者不在の10万3,146社に、中長期的な承継希望先を尋ねた。

 最多は、「未定・検討中」の5万708社(構成比49.16%)で約半数を占めた。前年の50.59%から改善したが、事業承継の方針が明確でない、あるいは計画が立たない企業が依然として多い。

 次いで、「設立・交代して浅い又は若年者にて未定」の4万5,846社(同44.44%)だった。

 一方、「廃業・解散・整理(予定含む)にて不要」は592社(同0.57%)だった。

代表者が80歳以上 21.81%の企業が後継者不在

 代表者の年齢別では、不在率の最高は30歳未満の96.11%だった。創業や事業承継から日が浅く、後継者を選定する必要がないため不在率が高い。

 50代までは後継者「不在」が、「有り」を上回るが、60代以降で逆転する。

 80歳以上の不在率は21.81%に達した。通常、数年かかるとされる事業承継の準備期間を加味すると、対応を迫られている企業が多い。

 こうした企業は、事業承継がないことも念頭に置いて、金融機関や支援機関は廃業支援への取り組みも必要になるかも知れない。

業種別 不在率ワースト(高い)はIT関連

 業種別(母数20以上)でみると、不在率の最高(ワースト)はインターネット附随サービス業の90.83%で、唯一9割を超えた。上位10業種をみると、インターネット通販を含む無店舗小売業や情報サービス業、通信業など新興業種が並ぶ。代表者の年齢が比較的若いことが影響している。

 不在率が低いのは、協同組織金融業の27.45%、宗教の31.70%、協同組合の32.88%、漁業の35.61%、鉄道業の38.54%、銀行業の39.56%と続く。社会インフラを担う業種が目立つ。

都道府県別 地域によって大きな開き

 「後継者不在率」の最高は、神奈川県の74.50%(前年74.11%)。次いで、東京都の71.33%(同71.16%)で、2都県が70%を超えた。企業が多く設立される大都市ほど、後継者の不在率が高い。最低は、長崎県の28.57%(同24.43%)だった。

 2022年の「後継者不在率」は前年より1.28ポイント上昇し、59.90%となった。代表者の年齢別の後継者不在率では、70代で27.49%、80歳以上でも21.81%に達する。社長が高齢で、業績もジリ貧の場合、後継者が決まりにくい悪循環に陥った実態を浮き彫りにしている。

 こうした企業では後継者の選定を含め、事業承継の可能性が乏しくなっている恐れもある。事業譲渡やM&A仲介を手掛ける企業の担当者は、「事業価値の高い企業へのアプローチは、代表者が50代~60代のうちに着手している」と明かす。経営者が70代以上で後継者が不在、かつ今後の方針も明確でない企業は、急速に広がる事業譲渡、M&Aマーケットの恩恵を受けにくい。

 コロナ禍の出口に向け、代表が高齢の企業へのアプローチは、これまでと異なる視点も必要になっている。従来は事業継続を前提としたプッシュ型支援だったが、今後は廃業も視野に入れた支援が重要になる。今年3月、全国銀行協会と日本商工会議所は「廃業時における経営者保証ガイドラインの基本的考え方」を公表し、法人破産時の代表者(保証人)の破産回避や、いわゆる「ゼロ円弁済」の許容に言及した。

 ここ数年、後継者不在の企業の出口は多様な手法が整備されつつある。ただ、事業承継や廃業後の経営者の生活の在り方に関する議論は、尽くされていない。こうした取り組みの実効性を高めるためにも、資力が乏しい代表者のリタイア後の生活設計の検討が急がれる。

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