断酒治療は難しい…そこで「減酒」も選択肢に 初期のアルコール依存症、薬で量コントロール

アルコール依存症 あなたは大丈夫?

 長年、お酒を断つ「断酒」のみだったアルコール依存症の治療法。近年、お酒を飲みたいという気持ちを抑える薬「ナルメフェン」が使用できるようになり、飲酒量を減らす「減酒」で回復や飲酒による害を減らすこと、断酒を目指す取り組みが広がっている。治療を行う福井県立病院こころの医療センター(福井市)の藤川明希医師は「すぐにお酒をやめることに抵抗がある人への選択肢ができたのは大きい」と話す。

 ナルメフェンは飲酒の1~2時間前に服用し、飲酒による快楽を抑えることで飲酒量を減らす。国内では2019年3月から使用できるようになった。

 断酒治療では、入院や自助グループへの参加などを通し、お酒を飲まない生活習慣を身に付けてもらい回復を図っていく。ただ、飲酒ができなくなるため、途中で治療をやめてしまう人や、治療に消極的な人が多くいることが課題だった。国内ではアルコール依存症の生涯経験者は107万人と推計されるが、治療を行っているのは年間約5万人にとどまる。

 減酒治療はナルメフェンが登場する以前から行われていたが「『飲酒量を減らす工夫に取り組んでみよう』ということだけにとどまっていた」と藤川医師。ナルメフェンの登場は「飲酒量をコントロールしやすくする薬物療法がオプションとして使えるようになったイメージ」と説明する。また、「飲酒量は意識しない限り増えてしまう。薬を飲むだけではダメ」と強調。服薬に加え、毎日、日記などで飲酒量や服薬状況、飲酒した際の状況などを記録して変化を確認しながら、目標とする飲酒量まで減らすことや治療継続を目指す。

 一方で、依存症が進行してからでは、ナルメフェンで飲酒量をコントロールすることは困難だという。「患者が、お酒による悪影響があるという自覚を持てる初期が、薬を使ってうまくいくタイミング」と早期の医療介入の重要性を訴える。「アルコール依存症は、お酒を飲む人であれば誰にでも起こりうる病気。本人や家族が、このままの飲み方では不安と感じた時は受診して、相談してほしい」と訴える。

 藤川医師によると、精神科にアルコール依存症の専門治療を受けに来る人の多くは、すでに重症化しナルメフェンの効果を期待できない時期だという。「精神科にいくほどの依存症ではないけれど、肝臓病や糖尿病といった他の病気で病院に通っている人もいる」と指摘。多くの医師に、アルコール依存症は身近な病気であることを認識してほしいと訴える。「飲酒を減らせば良くなるのにという目を持って、お酒を減らすための働きかけをしてほしい。そうすれば依存症が進んで苦しむ人を減らすことにつながる」と呼びかけた。

 ◇アルコール依存症 多量の飲酒を繰り返すことで脳に障害が起き、飲酒行動(飲む量、飲む時間、飲む状況)を自分の意思でコントロールすることができなくなる病気。体や心に悪影響を及ぼし、仕事や家庭に支障をきたすようになる。

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