<社説>「1票の格差」判決 選挙制度改革に取り組め

 「1票の格差」が最大3.03倍だった7月の参院選は憲法が求める投票価値の平等に反するとして、沖縄選挙区の有権者が選挙無効を求めた訴訟の判決で、福岡高裁那覇支部は「合憲」と判断し、無効請求を棄却した。 初の「違憲」判断を示した仙台高裁は、抜本的な選挙制度改革に乗り出さない国会の姿勢を厳しく批判した。「合憲」とした那覇支部は国会で参院の選挙制度改革を巡る議論が重ねられてきたとして「違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえない」と指摘した。

 両判決は受け止め方に違いはあるが、改革の必要性では一致している。立法府は司法の判断を重く受け止め、民主主義の根幹となる投票価値の平等に向け抜本的改革に取り組むべきだ。

 最高裁は最大格差が5.00倍だった2010年、4.77倍だった13年選挙を続けて違憲状態と判断した。国会は16年選挙から2県を一つの選挙区に統合する合区を導入した。最高裁は16、19年選挙を合憲と判断しながら、是正を迫ってきたことは重要だ。

 国会では、参院の在り方を与野党で議論する「参院改革協議会」を昨年5月に設置した。合区により「投票率が低下し、地方の意見が届かない」という声が上がったため、自民党は憲法改正による合区解消を主張した。立憲民主党は改憲によらない合区解消を訴えた。公明党、日本維新の会、共産党は衆院の比例代表のような地域ブロック制の導入を唱えている。

 だが妥結点は見いだせず、同協議会が今年6月に参院議長に提出した答申は、各党の主張を並べる内容にとどまった。結論を先送りし「怠慢」と指摘されても仕方がない。

 全国14の高裁・高裁支部に計16件起こされた訴訟のうち1件が「違憲」、4件は「違憲状態」、那覇支部を含め4件が「合憲」と判断が分かれている。

 違憲とした仙台高裁は、参院選前の国勢調査で3倍超の格差が3選挙区で生じ、日本の人口の2割を超えたことを挙げ、格差解消のため新たな方策がとられないまま選挙を迎えたことを重視。「著しい不平等状態が明らかな中、是正しなかった」と批判した。

 違憲状態とした高裁のうち大阪高裁は「格差是正の姿勢は明らかに弱まっている」と批判した。東京高裁は、従来の最高裁判決に基づき「都道府県を選挙区の単位とする憲法上の要請はない」と言及した。憲法改正による合区解消を掲げる自民党を、けん制したとも受け取れる。

 合憲とした那覇支部判決は、選挙制度の見直しについて「民主主義の基盤に影響する」とし「慎重な議論と熟議を要する」と指摘した。

 これまで各党の立場の違いが「1票の格差」の是正を阻んできた。今度こそ先送りせず、選挙制度改革に正面から向き合わなければならない。

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