プレゼン資料に他社比較が不要になる−−中長期的な関係をつくる方法とは

近年の営業スタイルにおいて、新規顧客の開拓を優先するのではなく、既存顧客を大切にする=ファンをつくることで中長期的な関係性を築いていく「ファンベース」という考え方が注目されています。

そこで、営業コンサルタント・和田裕美( @wadahiromi )氏の著書『ファンに愛され、売れ続ける秘訣』(かんき出版)より、一部を抜粋・編集してファンづくりに必要なことについて解説します。


「他社(他者)比較はいらない」という考え方

「それで、プレゼン資料に他社比較を入れなくなったんだよね」

これは、大手外資系ECサイトで営業を担当するある友人が言った一言。

彼はすこぶる営業成績がよくて会社からも高い評価をもらっている人なのですが、冒頭の言葉のようにまったく比較資料を使っていないそうです。

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、私は『成約率98%の秘訣』という本のなかでも「セミクロージング」(本格的に契約を詰める前の段階)においては相場確認と他社比較をすることをかなり推奨してきました。

それは、「比較して買いたい」というニーズに合わせたプレゼン手法で短期的な目線で言えば、契約に結びつけるための最も効果的な方法だからです。

もちろん、今でも「比較して買いたい」というニーズは存在するわけだし、これが間違っていると前言撤回しているわけではないのです。

ただ一度買ってくださりファンになってくださった方に対しては、他社比較はまったく必要ないということなのです。

冒頭の彼との会話に戻ります。

友人 「他社がこれくらいの金額だから弊社はこれくらいでとかやっていたら価格競争になるでしょ?でもね、お客さんの要望をじっくり聞いて、未来はどうなりたいか、相談を受けていたら他社って関係ない」
和田 「なるほど」
友人 「そんな短期的な関係じゃないからね。中長期的な関係をつくるほうが大事
和田 「ね、そうなると、もしかして結果が出るまでに少し時間がかかった?」
友人 「うん、そういうクロージングはかけないからね。でも、結果が出るまで時間がかかっても、それが今につながっている」

大きな契約を今すぐ取りたいという気持ちがあって当然です。

けれど、小さな積み重ねから長期的な関係を築くことを大切にした結果、彼はトップになったのです

もちろん彼は、いろいろな角度からアドバイスできるように、日々自分をバージョンアップし続けている人です。

自分自身を「相手の役に立てる存在」へと位置づけたのです。

ファンにとって大事なことは「わざわざ」を増やすこと

私は毎年バレンタインデーに、オンラインスクールの会員さん宛にチョコレートを贈っています。

私の事務所に大量のチョコレートを用意し、1つひとつにメッセージ入りのカードを入れて送っています。

これあえて「わざわざ」やっているのです。手間もかかるし効率も悪いですよね。それにチョコレートなんてみなさん自分で買えますよね。

じゃ、なぜするのか?

そこには見えない価値が存在するからです。

効率を追い求める世の中では無駄を省くことが求められています。

でも、人の心からも無駄を省いていったらどうでしょうか? 心は機械じゃない。無駄だと思われることに感動するのです。

あなたにとても悲しいことがあったとき、「大丈夫元気だして」とLINEで伝えれば簡単に済むことを、わざわざ電話をかけてきたり、わざわざ駆けつけてきたりしてくれる人に心を動かされませんか?

その「わざわざ」に愛があるからです。「わざわざ」にプラス私が大切にしている「一手間」です。手書きメッセージをいれたり、チョコの成分表シールを作成し「成分表:元気になる和田エキス」などジョークも添えたものを貼ったりします。

私はこういう一手間を加えるのが好きです。言葉で「あなたを大事にしています」と言うよりもずっとずっと伝わる気がします。

ただし、これはファンの方にリアクションを求めてはいけないことです。

相手に何も期待しないで、ただ愛を伝えることが大事なんです。

「チョコレートをもらえるから会員になろう!」という人はいません。

「チョコレートがもらえないから会員を辞めよう」という人もいないと思います。

ただ、嬉しい気持ちになってくれる人がいるだけです。

私が贈っているのはチョコレートではないし、会員さんが受け取るのもチョコレートを超えた言葉にできないものなのです。

以前に話したことを覚えていてくれた

先に名前を覚えることが大事と書きましたが、前に話した内容を覚えていてくれたら、さらに感激しますよね。恋愛にしたってそうだし、友だちとの関係もそう。

「この人、前に私が話したことを覚えてくれている!」と思ったら感激します。

「○○さん、お孫さんが生まれたとおっしゃってましたよね。もうおいくつになりました?」
「○○さん、ラーメンがお好きだとおっしゃってましたよね。この近くに新しい店ができたんですが、行かれましたか?」

などという ごく小さなことでもいい。

共通の話題があればさらに盛り上がり、お客さまと長期的によい関係を築けます。

実際の人間関係においても、相手のことを好きだと思ったら、その人にまつわることをいろいろと知りたくなりますよね。

お客さまのことも、どんどん知るべきです。

お客さまは自分に無関心な営業からはモノを買おうとは思いません。

先ほどからずっとお伝えしていますが、とにかくお客さまの話をよく聞くことや、お客さまに興味を持つことから始めてください。

分厚いビジネス書を読んで知識を取り入れることも大事ですが、お客さまが勤務されている会社をググって勉強しておくことも大切です。

現実味を帯びた相手の世界の知識が増えていきます。

とはいえ、1人ひとりのお客さまの情報を細かく覚えておくのは至難の業です。

お客さまリストをつくって、その日に会ったお客さまの名前、年齢、職業などの簡単なプロフィール、話した内容、出身地、家族構成や食べ物の好みなど、その日話したことを、ざっとでもいいのですぐにスマホなどに音声入力でまとめておく。

そして、次に会うときは必ず見返す。

自分の中でそういうシステムをつくっておくことが大切です。

お客さまに喜んでもらうために、常にさまざまなアンテナを張っておく

営業をしていた頃、お客さまと話していて、いい感じで進んでいたのに、一瞬の表情や言葉から「あ、今、お客さまの気持ちがちょっと後ろ向きになったな」と感じることがありました。

それはたいていお金の話になったあたりか契約の直前に起こります。

この時のお客さまの気持ちはよくわかります。もし私がその時どうしても他に買いたいものがあったら、家を買うためにコツコツ貯めていた貯金を崩さないといけなかったら、数年間お給料も上がっていないのに家賃が上がってしまって頭を抱えていたら、勤めていた会社が倒産して非正規雇用になっていたら、とか、もう想像が止まらないのですが、お金の事情って多かれ少なかれ人それぞれにありますよね。

営業的には、「そんな相手の事情は関係ない」「きっと出せるお金はある」「無理なら借りてくればいい」という発想になったほうがもっと強めクロージングをかけることができます。だから、さっき書いたように「お客さまの気持ちはよくわかります」なんて悠長なことを言っていたらもうダメなんです。

けれど、そういう強い営業は搾りとれるだけ搾りとれとばかり、お客さまを「使い捨て」してるみたいに感じます。

もちろん、私だって「お金を借りてでもやったほうがいい」と判断すればそういうふうに話を進めます。

でもそれって「どうしても欲しい。これが夢だった」というような葛藤を相手の中に感じたときだけなんです。

だから、お客さまがお金の話をしたとたん気配が怪しくなり「ちょっと考えます」など断りの言葉をおっしゃったら「そうですよね、やっぱり決断には勇気がいりますよね」とお客さまに共感したほうがいいのです。その上で、

お金があったらどうしたいのか?
本音はどうなのか?
本当に必要なのか?

などを一緒に考えていく方向に持っていく。そうするだけでちょっと空気が変わってきます。

そういう寄り添いがあってこそ、お客さまの本音が聞けるようになるのです。本音を聞き出せる関係性を築ければ、勇気を出して決断してくださるか、今は無理でも必ず戻ってきてくださるという前向きな結果につながりやすいです。それなのに強引に流れをもとに戻そうとして「いや、もう絶対にお勧めです」と焦って売ろうとするのはむしろ逆効果です。

「買わされそう」という雰囲気を、お客さまは敏感に察知しますし、どんどん警戒されてしまいます。

買う買わないではなく、お客さまにとって今ここで先行投資することが求める未来に近づけることかどうか?今抱えるお客さまの問題を解決できるのかどうか?などを考えて提案をします。どんな未来を選ばれるかはご本人次第です。

著者:和田 裕美/監修:佐藤 尚之

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