長与のミカン農家で進む“スマート農業” 狭い斜面に無人運搬車 AIで鮮度保持

UGVによる農薬散布=西彼長与町岡郷

 長崎県内有数のミカン産地・西彼長与町で、ミカン農家の高齢化や生産量の減少といった課題を解決しようと、産学官によるスマート農業の実証実験が進んでいる。狭い斜面を無人車両(UGV)で運搬したり、人工知能(AI)で鮮度を保ちながら貯蔵したりと、さまざまなアプローチを試みている。
 同町のミカンは、農家の高齢化や後継者不足に伴う生産量の減少などの課題を抱える。JA長崎せいひ長与支店によると、町内の温州ミカン生産量は1989年産の約1万3千トンに対し、2020年産は約2500トン。約30年間で5分の1にまで減少した。
 実証実験の実施主体「長崎かんきつスマート農業実証コンソーシアム」は、同JAや県、町、企業、大学などの15団体などで構成。地元の4ヘクタールで温州ミカンなどを栽培している山口賢剛さん(63)が参加し、場を提供している。農林水産省が「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」として事業費約2億円を全額負担。同コンソーシアムは本年度までの2年間、「生産」「出荷」「流通・販売」の3分野10項目を同時並行して取り組んでいる。
 「生産」分野では、ドローンやUGVで空と陸の両面から農薬散布。軽トラックが入れない狭い斜面地で、人の代わりにUGVが果実の運搬を担う。既に作業時間が減少するなどの効果が見られているという。

AIを活用したコンテナの前で話す大青工業の服部会長=同郷

 AIとセンサーを使った新開発の貯蔵システムも取り入れた。コンテナ内の温湿度を遠隔で制御し、果実の鮮度を落とさない。気象データに合わせて調節し、出荷時に傷みの原因となる結露を減らす。開発した大青工業(青森市)の服部國彦会長も「コンテナ内をミカンに快適な環境にできる」と自信をのぞかせる。
 「流通・販売」分野では、スマートフォンアプリで販売場所を消費者に知らせる「多機能移動型スーパー」や、長崎市内のアンテナショップで無人レジ用の電子タグを導入。生産者への対応にとどまらず、地域の過疎化や住民の高齢化といった社会情勢に合った手法の開発が進む。
 これらの実証実験の成果目標として、(1)農家の収益を5%向上(2)新たな流通・販売体制を構築-の2点を掲げている。
 実証に協力する山口さんは「若い人がこれからカンキツに取り組む上で、『夢がある』『楽にできる』ようになればいい。今後も産業として続けられるようにしたい」と期待を寄せる。同コンソーシアムの代表を務める県農林技術開発センターの高見寿隆カンキツ研究室長は「社会情勢の変化に迅速に対応し、革新的な技術の開発・実証に取り組み、地区の生産量維持と担い手の営農に貢献したい」と話す。


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