子どもの新型コロナワクチン接種率「2割」、なぜ打たないのか?  アンケートで見えてきた親の迷い

 今年の2月に始まった5~11歳の新型コロナウイルスワクチンの接種率は2割程度で伸び悩んでいます。大人も合わせた全体の2回目の接種率がおよそ8割に達するのに比べると大幅に少ない数字です。この夏の流行では大人だけでなく子どもの感染、重症例は増えましたが、子どもの接種率は低いままです。10月5日には生後6カ月~4歳用の米ファイザー社のワクチンの製造販売も特例承認され、その後、接種も始まりました。ワクチン導入時は少なかった変異したウイルスのオミクロン株への有効性を示すデータも集まってきており、日本小児科学会は5~17歳、6カ月~4歳の全ての子どもの接種を推奨しています。この冬は新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行が起きるのではないかと心配する声が専門家から出ています。子どもの接種率はなぜ低いのでしょうか?アンケート結果から親の迷いが見えてきました。(共同通信=村川実由紀)

米ファイザー製の5~11歳用の新型コロナウイルスワクチン(同社提供)

 ▽親が抱く不安とは?

 子どものコロナワクチン接種率は内閣官房がHPで公表しています。10月25日の発表によると、5~11歳向けの新型コロナウイルスワクチンを2回接種した子どもは対象人口の21・7%。9月に接種が始まった3回目を受けたのは2・6%にとどまっていました。

 接種率が伸び悩む背景には、副反応への不安などで接種すべきかどうか悩んでいる人が多いことがあるようです。静岡県浜松市の認定NPO法人「はままつ子育てネットワークぴっぴ」が今年の7月に小学生以下の子どもを持つ家庭を対象に実施したアンケートでは、迷っていたり、周りの様子を見ていたりして接種が「未定」の人が40%、接種をしないと決めていたのは29%、2回接種していたのは26%でした。不安に思うことを聞いた質問に対して複数回答で最も選ばれたのは「副反応や体調への影響」でした。一方、接種を決断した理由としては「感染や重症化を防止したかった」が最も多い項目でした。

 接種前に知りたい(知りたかった)ことを問うと、副反応のリスクや変異したウイルスへのワクチンの効果、罹患済みの接種の必要性に関する声が寄せられました。「何が正しいのか情報が錯綜する中、親の一存で身体的な事を決めてしまうことに迷いも感じた」といった意見もありました。

 ▽専門家の議論が与えた「ネガティブな印象」

 接種が始まってからも数カ月間、5~11歳の接種が予防接種法の「努力義務」の対象にならなかったことも、接種率の伸び悩みの原因になったのではないかとの見方もあります。努力義務は感染症が広がるのを予防するために接種への協力をお願いする規定で、はしかや風疹など子どもが打つ、多くの予防接種に適用されています。しかし承認直後に開かれた接種の在り方を検討する国の有識者会議では、予防接種法の「努力義務」の対象とするかどうかで意見が分かれました。

 議論に参加した委員の1人は「(努力義務を巡る)真剣な議論が、逆に市民にネガティブな印象を与えてしまった可能性がある。専門家があれだけ議論するのだから何かあるのでは、と思われたのではないか」と話していました。

 努力義務の対象となったからといって接種が強制されるわけではありません。ただこの言葉が接種への強いメッセージだと捉えられやすいことから、もっと今の時代に合った言葉に変えた方が良いという意見も出ていました。なお努力義務をつけることはその後の議論でほとんどの委員の同意が得られて国は9月に5~11歳に対しても適用しました。

新型コロナウイルス・オミクロン株の電子顕微鏡写真(国立感染症研究所提供)

 ▽感染後死亡する例も

 今年7月ごろからの流行「第7波」では大人だけでなく子どもの感染者もかなり増えました。全体の感染者のうち重症化する割合は低くとも、感染者が急増すれば重症化する子どもも増えてしまいます。国立感染症研究所が9月に新型コロナウイルス感染後に死亡した20歳未満を調べた結果を発表しています。今年の1月から8月までに報告された死亡例の暫定的な分析結果です。発症時期が判明している34人のうち、7月中旬以降に亡くなったのが21人と大半を占めていました。

 有効性と安全性を示すデータも集まってきたことから、日本小児科学会は当初は健康な5~11歳の子どもへの接種に関して「意義がある」としていた文書の表現を8月に「推奨します」と変更しました。11月2日に6カ月~4歳についても「推奨します」と発表。5~17歳、6カ月~4歳のすべての小児に新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を推奨しています。

5~11歳の小児を対象とした米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチン接種=2月、東京都足立区

 努力義務の適用に関して慎重論を唱えていた森内浩幸長崎大教授は、データの充実度や流行の状況は変化しており「学会が接種推奨に変わったのは当然の流れ」とみています。この冬には季節性のインフルエンザと新型コロナウイルス感染症が同時流行する恐れもあるため、今は「インフルエンザのワクチンと同時接種もできる。両方打てば良いのではないか」と話しています。

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