岩国メガソーラーで見えた親中ネットワーク|山口敬之【WEB連載第20回】 大阪の咲洲メガソーラーに関連する私の記事や発信に対する批判や非難、誹謗中傷の多くに、日本維新の会関係者や支持者が関与していることがわかった。ところが岩国市など大阪以外の上海電力の絡むメガソーラー取材に対して様々な圧力をかけてきたのは、明らかに自民党の関係者だった――。

「ストップ・ザ・上海電力」を掲げた岩国市議

10月23日、山口県岩国市で市議会議員選挙が行われた。定員28に対して34人が立候補する形となった。多くの議員が市民に訴えたのが、地方都市お決まりの人口減少や新型コロナウイルス対策、そして岩国市固有の問題としてアメリカ軍岩国基地のあり方も争点となった。

そんな中、1人の現職議員だけが、極めて独自の、はっきりとした主張を掲げて選挙戦を戦った。

岩国市美和町の上海電力日本による巨大メガソーラー事業が、地域住民の生活や農業を破壊しているばかりでなく日本の安全保障に深刻な脅威になっているとして、「ストップ・ザ・上海電力」を掲げたのが自民党所属の現職・石本崇(いしもと・たかし)氏だ。

美和町のメガソーラーは大阪市の咲洲メガソーラーの30倍以上の規模で、上海電力がゴルフ場開発予定だった土地全体をハゲ山にして、太陽光パネルを敷き詰める工事を進めている。

私は今年の初夏、建設中の現地を訪れた。そこでは地域の水資源など住民の生活に直結する環境を危機に陥れる、恐ろしい工事が行われていた。見渡す限り茶色い土壌が剥き出しとなった荒野に、数十センチのステンレスの角材が無数に敷き詰められている。

恐ろしく杜撰な工事に見えるが、雨晒しの土に打ち込まれただけの華奢な金属の棒が雨天でも倒れないのは、地面に大量の「土壌凝固剤」という化学薬品を散布しているからだ。

ここはかつては山林で、様々な樹木や下草が生えていた。当初の開発予定通りゴルフ場になったとしてもフェアウェイには芝生が敷き詰められ、それ以外の場所には相当数の樹木が残される予定だった。自然本来の保水力は一定程度残されるはずだった。

ところがメガソーラー事業は、効率性を最優先するために買収した土地に生えているほとんど全ての樹木が切り倒され、下草は根こそぎ刈り取られた。そして剥き出しの土壌に化学薬品が散布されたのだ。

この周辺地域には、地下水で農業を営み、井戸水を汲み上げて飲料水として生活していた住民がいた。ところが、メガソーラーの工事が始まると大規模工事によって地下水脈が変わり、井戸水や湧水が枯れたり、濁ったりした。

地下水や湧水に依存してコメを生産していた農家は、事業を継続できなくなり、代々受け継いできた水田を放棄せざるを得なくなった。

ヒ素による土壌汚染と井戸水の枯渇

水質をチェックした所、メガソーラー事業が始まる前とは比較にならないほどの濃度のヒ素が検出された。住民は事業者や行政に問い合わせたが、「メガソーラー事業との因果関係が不明」とのことで、事態改善に向けた取り組みは全く進んでいない。

そして一連の問題で事業者である上海電力日本は一切表に出てこず、工事現場の監査や使用薬剤の公開にも応じず、苦情や問い合わせに対応するのは下請けの日本の建設会社だという。

山林開発には環境や地元住民の生活を守るための様々な法律や法令があるが、近年急速に拡大したメガソーラー事業に関しては法整備が追いついておらず、私有地だとして事業者が立ち入りを拒んでしまえばそこでどのような工事が行われているのかはまったくわからなくなる。

極端なことを言えば、そこに軍事的な施設や地域環境を破壊するような悪意ある施設を建設・設置されたとしても、確認のしようがない。

その結果として、湧水や井戸水が枯渇したり水質が汚染されたりしても、住民側がメガソーラー建設工事との因果関係を証明することは事実上不可能で、泣き寝入りするしかないのが実情なのだ。

なぜ中国企業のカネ儲けのために、先祖から代々受け継いできた水田耕作を諦めなければならないのか。飲み水や生活用水として使っていた豊かな湧水や井戸水を安心して使えなくなった責任は誰が取るのか。

こうした罪のない地域住民の怒りと悲しみに寄り添ってきたのが石本崇市議だった。

私が現地視察した際には困窮する地元住民の方々をご紹介いただいたが、石本市議は全ての皆さんの名前と家族構成、職業や自治会での役割を完全に把握していた。どれだけ頻繁に地元に足を運び、地元住民の声に耳を傾けてきたか一目瞭然だった。

ウイグル民族の悲劇とメガソーラー

私が現地取材時に発見したのは、剥き出しの土壌の上に大量に野積みされた太陽光パネルだった。数百箱もの段ボール箱には、「トリナソーラー」(Trina Solar)とはっきりと書かれていた。

トリナソーラー。1997年の創業以来、世界中で安価な太陽光パネルを販売し、太陽光パネル供給量世界一になろうかという中国企業だ。近年では日本国内でも一番の特徴である「安さ」を強みに年々存在感を強めている。

そして2020年6月上海証券取引所で新株を新規発行。「スター・マーケット」という名称でも知られる上海証券取引所科創板の技術系企業のマーケットに上場して巨額の資金調達を果たすなど、上海を事実上の本拠地とする企業だ。

このトリナソーラーについてアメリカの有力紙「ウォールストリート・ジャーナル」は8月9日、アメリカ政府がトリナ社製品の輸入を差し止めたと報じた。

これは、太陽光パネルの原材料である石英(せきえい)からポリシリコンを生産し太陽光パネルを組み立てる過程において、新疆ウイグル自治区やその他地域でウイグル人のジェノサイド(民族虐殺)にトリナソーラーが加担・関与している可能性が高いとアメリカ政府が判断したからだ。

ウイグル人権問題を巡っては、中国政府と中国共産党が指導して設置した「再教育センター」などと名付けられた強制収容所で、ウイグル人女性に対する強制避妊手術が行われているが、収容所を奇跡的に脱出した被害者本人の証言で明らかになりつつある。

岩国のメガソーラー事業では、合同会社のスキームを使って上海電力がステルス参入し、自由主義陣営の先進各国が深い懸念を表明しているウイグル人のジェノサイドとの関連が指摘されている会社の太陽光パネルを使って大規模発電が始まろうとしている。

上海電力の中国本社では、経営トップで取締役会長にあたる薫事長を長く勤めていた胡建東氏が死亡事故に関連する不祥事で解任され、今年7月に林華という人物が就任した。

林氏は直前まで新疆ウイグル自治区の中国政府の幹部だった人物だ。上海電力の経営トップが、新疆ウイグル自治区の現状を知り尽くした林氏になったことについて中国の政治事情に詳しい関係者は、
「中国の国営企業では、今年の春以降、習近平と、これに対抗する江沢民らの上海閥や胡錦涛・李克強ら共産党青年団の権力闘争が激化していた」
「中国の太陽光パネル生産の主原料である珪石(元素記号Si)のほとんどが新疆ウイグル自治区で採掘されいてる。上海電力の事業の中で太陽光発電が重みを増す中、アメリカ政府の中国製太陽光パネルの輸入禁止措置など厳しくなる経営環境に対応するために、林氏が大抜擢されたのではないか」
とみている。

こうした動きを見ても、上海電力本社と新疆ウイグル自治区は切っても切れない関係になっていることは間違いない。

岩国のみならず全国各地で上海電力に巨大メガソーラーを好き放題に作らせている日本政府と山口県は、地域住民の安全安心な生活を破壊して恥じないだけでなく、中国によるウイグル人に対する民族虐殺にも加担していると言わざるを得ない。

そして、「合同会社によるステルス参入」「ウイグル人民族虐殺に加担する上海企業のパネル大量使用」など、全ての先鞭をつけたのが橋下徹市長市政下の大阪市だったことを忘れてはならない。

現地視察すら妨害する自民党の一部勢力

岩国の現地視察を巡っては、不可思議なことがいくつか起きた。

私が4月に「Hanadaプラス」で上海電力問題の記事を配信して以降、岩国市のメガソーラーの現状取材を希望する政治家やジャーナリストが次々と現地入りした。

ところが、この現地取材やその後の調査・発信について、様々なルートで様々な妨害が入った。そして大阪の咲洲メガソーラーに関連する私の記事や発信に対する批判や非難、誹謗中傷の多くに、日本維新の会関係者や支持者が関与していることがわかった。

ところが岩国市など大阪以外の上海電力の絡むメガソーラー取材に対して様々な圧力をかけてきたのは、維新関係者や支持者ではなく、明らかに自民党の関係者だった。

二階俊博前幹事長を絶賛する橋下徹氏

旧統一教会問題が国会や大手メディアで延々と扱われていた10月18日、自民党の二階俊博前幹事長と、日本維新の会の馬場伸幸代表が、都内の中華料理屋の個室で向き合った。

同席したのはそれぞれの側近である自民党の林幹雄元経産大臣と維新の遠藤敬国対委員長だ。この会合で配られたのは「大阪万博に関する超党派議連を早急に開催すること」と強調されていた。

この他にも維新が力点を置いている淀川の活用方法など大阪府や大阪市に特化したテーマについても具体的に話し合われたという。

二階氏といえば、林芳正外務大臣と並ぶ自民党の親中派の両巨頭だ。中でも二階氏は上海と上海閥のドンである江沢民との関係の深さで知られている。二階氏の親中派ぶりが最初に広く知られるようになったのは、運輸大臣を務めていた2000年、5000人もの訪問団を率いて北京に乗り込んだ。当時国家主席だった江沢民は非常に驚き、「二階俊博とは何者なんだ」と二階氏に関する調査を側近に命じたという。

この2年後、二階氏の地元である和歌山県田辺市で江沢民の石碑を建立する計画が市役所に持ち込まれた。この運動の旗振り役となったのは「和歌山県日中友好交流推進協議会」であり、運輸大臣や経産大臣を歴任した二階氏の強い影響下にあった団体だ。

そして上海電力が2014年、大阪市の咲洲メガソーラーの入札をすり抜けて「ステルス参入」した際に市長を務めていた橋下徹氏は二階氏の親中ぶりについて「日中のパイプ役」として擁護し絶賛し続けている。

上海という土地、上海閥という人脈、上海電力という企業を媒介として、日本維新の会と自民党が水面下でつながりを加速度的に深めている。そして、上海電力のメガソーラー事業は、日本と中国、大阪と上海を結ぶ政財官のコネクションを見事に炙り出している。

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山口敬之

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